第1884話 牧場見学
風呂待ち中の夕也。 しかしかなり待つようだ。
☆夕也視点☆
アメリカは東海岸に位置するミアさんの実家がある街へやって来た俺達。 一晩という事で、街のコミュニティホールを借りて寝泊まりする事になった。 夕飯も食べた俺達は順番に入浴を……。
「俺らが入れるの後どれくらい先だよ……」
「2人ぐらいしか入れないからなぁ。 女子は風呂長いし、あと2時間ぐらいじゃないか?」
「マジか……日が変わるぞ」
20人以上で旅行に来ている俺達だが、浴槽の広さは大人2人が入れるぐらいの物であった。 避難所に使えるとはいえ、基本的には集会所という扱いらしいので、生活の利便性は良くないようだ。
「だはは。 まあ、待っときなはれ」
「仕方ないか」
ちなみに今は麻美ちゃんと渚ちゃんが入浴中だ。 この広間にまで麻美ちゃんの元気な声が聞こえてくるのだった。
結局俺が入浴出来たのは0時15分ぐらいだった。 これで明日早いのかぁ。
風呂から出ると広間には布団が敷かれていたが、何枚か足りてないようだぞ。 避難用の建物って話だからまだ布団の枚数はありそうだが。
「夕ちゃんは私と一緒の布団だよ」
「そういう事か」
他にも奈々美と宏太や奈央ちゃんと春人とと言ったペアは1枚の布団に寝ている。 面白いのは麻美ちゃんが渚ちゃんと同じ布団に潜り込んでいるところだな。 渚ちゃんは「狭いやろ!」と怒ってるが。 仲良くなったもんだなぁ。
「では、そろそろ消灯しますわよー」
「はーい」
奈央ちゃんの合図で広間の電気が消される。 今日は亜美が近くで寝ているので、紗希ちゃんや麻美ちゃんが変な行動する事も無いだろう……。
◆◇◆◇◆◇
翌朝。
「何で紗希ちゃんと麻美ちゃんは構わず夕ちゃんの布団の中に潜り込んで来るかな」
「なはは」
「おふぁよー」
この2人はお構い無しだった。 はぁ、柏原君も溜息をつきながら俺に謝っている。 彼が悪いわけじゃないのだが。
「紗希ちゃん、とりあえず朝ご飯作るよ。 早くしないとミアさんが迎えに来ちゃうからね」
「ふにゅー」
寝ぼけた紗希ちゃんは一応敬礼ポーズを取りながら立ち上がるのだった。
◆◇◆◇◆◇
朝食を食べながら本日……ラスベガス旅行最終日(まあ最終日はラスベガスじゃないが)の予定を聞く。 予定と言っても、ミアさんの実家の馬牧場を見学した後はバスで空港へ向かい、日本に帰国するという内容だ。
「んむんむ。 お昼は空港近くのレストランで食べるからね。 宏ちゃんと遥ちゃんは大人しくしてるんだよ」
「無理だな」
「だな」
「はあ……」
「すいません、うちの嫁が」
神山先輩さんも苦労してるな。 家での遥ちゃんはどうなんだろうか? 以前、花嫁修業合宿で我が家に寝泊まりしていた頃の事を思い出してみれば、まあ多分上手くやれてるんだろうとは思うが。
「皆さーン!」
「あ、ミアさん来ちゃったよ」
「えらいボーイッシュな服装で決めてんな」
「牧童って感じですわね」
「たしかにな」
広間に備え付けられている、外から直通の開き戸の鍵を開けてやると、ミアさんがそこから中に入って来る。
「おはようございまス」
「おはよー」
「今日もいい天気でス」
「ソヤナ」
「お馬さん達も朝から放牧されて、元気に走ってましタ」
「おー」
「ミアさんはサラブレッドや競馬には詳しくはないんだよね?」
「競馬には詳しくないでス。 でも、牧場のお手伝いはしてたので、その辺りは詳しいでス。 ガイドは任せテ」
「なるほど」
ちなみに奈央ちゃんは昨日から、馬主になる方法等を亜美に調べさているらしい。 亜美はある程度調べ上げたらしいが。
「アメリカの競馬について色々調べました。 データもバッチリです」
「前田さん、それは何か役に立つ?」
「あんまり!」
あ、認めたぞ。
◆◇◆◇◆◇
朝食を食べ終えた俺達は、早速ミアさんの実家が経営する牧場へとやって来た。 田舎街の牧場という子で、かなり広い土地なようだ。
「調べたところ、ミアさんの家の牧場『ホワイトファーム』は基本的にはセールに出す馬を生産、育成を行なっているようです」
と、前田さんが集めたデータで説明してくれる。 多分、ミアさんが説明してくれると思うんだが。
「でス。 馬産地としても好成績を出している……らしいでス。 レースの名前とかはわからないのですガ、大きなタイトルを獲る子もいるとカ」
「データによると、近年では昨年のケンタッキーダービーの勝ち馬がホワイトファームの生産馬みたいです」
「ケンタッキーダービーって言うのは?」
「日本でいう日本ダービーに相当するレースだと思われます」
ミアさんの実家の馬すげー。 奈央ちゃんは「むきーっ! 亜美ちゃん! 西條ファームの馬について調べてちょうだい!」と対抗心燃やしていた。
「こちらが放牧エリアでス。 この時期は天気の良い日は一日中放牧でス。 こちらがお母さん馬、あちらが仔馬です。 もう親離れは済んでるみたいでス」
「ふうむ。 お母さん馬達は皆、お腹に仔馬さんがいたりするの?」
「どうでしょウ? 中には空の母馬もいるかもしれませン。 帳簿を見れば管理馬の状態がわかるのですガ」
「あ、そこまでは良いよ」
「わかりましタ」
ミアさんの案内は続く。 他にも現役馬の放牧場や、競走馬や種馬、母馬を引退して余生を過ごす馬達の功労馬牧場なんかもあるようだ。
「こちらが育成施設でス」
「育成施設?」
「競走馬になる為の基礎を教え込んだり、簡単なトレーニングを積む為の施設でス」
「なるほど」
よく見ると、スケジュール表なんかもある。 大変そうだな、牧場経営。
「参考になりますわね。 私が馬主になった暁には、ミアさんの家の牧場からも馬を譲ってもらえます?」
「父に話しておきまス」
奈央ちゃん、本気でなるつもりなんだな……。 亜美も頭を抱えている。 仕事が増えると呟いてるな。
「こちらは温泉施設です」
「馬に温泉?」
「入るわよ!」
「奈々美ちゃん。 馬さん用だよぅ」
「ケガした子やレースで疲れたお馬さんの為にありまス」
「入れないの?!」
「奈々ちゃん……」
温泉にうるさい奈々美も諦めるしかないのだった。 この後は馬舎を見学。 母馬用、種馬用、仔馬用や現役馬用と細かく分かれているようだ。 各馬房にはプレートが掛かっており、馬の名前らしき物が書かれている。
「このプレート豪華ですね」
と、その青砥さんが足を止める。
「キングテリオスだって」
「この馬はデータにあります。 昨年のケンタッキーダービーに勝った馬ですね!」
「おー、お前強いのかー! なはは!」
麻美ちゃんは首を撫でながら爆笑。 しかし、大きなレースを勝つだけあって強そうな目つきや身体つきしてるな。
「ふむ。 こういう馬が強いんですのね」
「奈央ちゃん、素人にはわからないからプロの人に見立てもらうことをオススメするよ」
「でス」
亜美は大変そうだな。
「これから朝飼いの時間でス」
「朝飼い?」
「朝ご飯の時間でス」
「なるほど」
牧場スタッフさんが放牧場へ来て、専用の容器に餌を入れていく。 馬達もわかっているのか、ゾロゾロと近付いて来ては鼻先を容器に突っ込んでいる。
「可愛いですね」
「だなぁ」
「可憐、お馬さんよ」
「ばーあ」
「わかんないでしょ……」
「宏太や遥に負けない食べっぷりね」
「なはは!」
「一緒にするな」
「だぜ」
似たようなもんだと思うが。
しっかりと牧場見学した俺達は、そろそろ時間だという事で、ミアさんの両親に挨拶をし牧場を後に。 ミアさんは最後に両親に抱きついていた。 仲の良い家族なんだな。
さて、帰国に向けて空港へ移動だ。
ラスベガス旅行ももう終わり。
「紗希よん。 亜美ちゃんも大変ねぇ」
「うん。 奈央ちゃんのコントロールは大変だよ」




