第1871話 いざラスベガスへ
ラスベガス旅行当日だが、バスの中は何故か静かだ。
☆夕也視点☆
8月12日の金曜日。 今日はラスベガス旅行へと出発する日だ。 14時に西條家プライベートジェット機に搭乗予定となっている。 海外にまで行けるのか、西條家プライベートジェット機。
現在は西條家私有バスに乗り、成田へと向かう道中である。
「……」
いつもは賑やかな我々だが、今は誰一人として騒ぎ立てている者はいない。 賑やかし担当の紗希ちゃんや麻美ちゃんやキャミィさんでさえ、今は静かになっている。 何故かというと、皆して徹夜明けだからなのだ。
「……」
旅行出発前日にも関わらず、何故皆して徹夜したのか……それには日本とラスベガスの時差が密接に関係している。 説明会時の亜美の説明通り、日本はラスベガスより約17時間程時間が進んでおり、今あちらさんは夕方ぐらいだとの事だ。 しかし、この後飛行機で12時間フライトして着く頃には、あちらは朝になっていると言う。 つまり、朝から観光するにはちょうど良い時間に到着出来るのだ。 そこで問題となるのが睡眠時間だ。 普段通り昨晩ぐっすり眠り、12時間飛行機内で起きていたとしよう。 実際にはまあ寝るのだろうが、果たしてそこまで寝られるか? ちょっと前まで快眠していたところを、もう一度寝ろと言われるとちょっと難しいかもしれない。 もし、飛行機内で一睡も出来なかったら? そのまま観光に突入してしまい、実質徹夜しながらの観光となってしまいかねない。 という事で、飛行機でしっかり寝つつ、体内時計を無理矢理ラスベガス時間に合わせる為に、昨夜は皆して徹夜したのだ。 まあ、中には構わず寝ていたのもいるが……。
「はぅ。 目が冴えるよぅ」
希望に関しては寝たいと思えばいつでもどこでも寝られるらしいので別に問題は無いらしい。 羨ましい特技だな。
◆◇◆◇◆◇
成田に到着。 俺達は奈央ちゃんに先導され、西條家専用搭乗通路を進む。 自家用とはいえ海外へ行く為、手荷物検査や身体チェック等はしっかり受けなければならない。 ペット達も同様だ。
「みゃー」
「これで皆さん通過しましたわね? ペット達はこちらのケースに入れてね」
「これは?」
「シートに固定可能な専用ケースですわ。 離着陸時には必ずシートに固定して、この中にペット達を入れる事。 あと、マリアとキャミィさんのカメと文鳥にはこれも」
「小型空調設備ですね」
「ホンマにナンデモあるナー」
西條グループにかかれば作れない物は無いのではないか?
「では、搭乗していきますわよ。 手荷物等お忘れなきように」
ようやく飛行機に乗り込んでゆっくり眠る事が出来そうだ。 亜美や前田さんなんかは、もう眠気がやばいらしくフラフラしながら歩いている。 逆に麻美ちゃんや奈々美は夜更かしに慣れているのか、割としっかりしているようだ。
飛行機に乗り込み、皆適当な席に着き離陸の時を待つ。 希望は亜美に渡されたボケねこのBlu-rayを再生し始め、早速世界に入り込んでいる。 これなら離陸時に怖がることはないだろう。 もう一人の問題児である渚ちゃんだが、もはや眠気の限界らしくすやすやと寝息を立てている。 このまま寝ていれば、離陸時は大丈夫か?
「おはようございます。 当機の機長を務めさせていただきます、黒田と申します。 当機は間もなくラスベガスへ向けてフライトを開始します」
奈央ちゃん曰く、西條家プライベートジェット機の専属パイロットらしい。 ちなみにこのプライベートジェットは、割と頻繁にフライトしているようだ。 主に奈央ちゃんの両親や各国のVIPの歓送迎に用いられるらしい。 管制塔にも専属の人間がいるらしく、飛行ルートも専用のルートがあるのだとか。 何から何まで規格外だな。
◆◇◆◇◆◇
飛行機は無事に離陸し、ラスベガスへ向けてフライトを開始した。 これから12時間は空の旅となる。 既に安定飛行に入っており、徹夜明けの皆は順番に寝落ちしている。 隣に座る亜美も例外ではない。 唯一、ボケねこの映画に夢中な希望だけは起きているが、多分映画が終わると同時に寝てしまう事だろう。 かく言う俺ももう限界だ。 瞼は半分閉じており、もう意識も朦朧としている。 目が覚めたらもうラスベガスだろうか? そんな風に考えながら、意識を手放した。
◆◇◆◇◆◇
目が覚めて時計を見てみると、時刻は0時となっていた。 これは日本時間の表示だ。 フライト開始から10時間経ったという事か。 後2時間あるが、もう爆睡するのは無理そうだな。 俺以外にも何人かは起きているのか、もぞもぞしている姿が見受けられる。 ちなみに、隣の亜美はまだ爆睡している。
寝るのは無理かもしれんが、目を閉じてじっとしてるか……。
「なはは……夕也兄ぃ起きてるのを見たぞー」
「うおっ……麻美ちゃんか……」
目を閉じてゆっくりしようとしたのも束の間。
麻美ちゃんが近くまでやって来た。
「麻美ちゃんはもう寝ないのか? あと二時間はかかるみたいだぞ?」
「むーん……多分もう寝れないー」
「俺もそうだが、席に座って目を閉じてるだけでも違うぞ」
「むーん。 じゃあそーするー」
そう言うと麻美ちゃんは、近くの席に腰掛けて目を閉じた。 普段からじっとしてるのが苦手な子だからな。 多分退屈で仕方ないのだろう。 仕方ないので会話の相手ぐらいにはなってやる事にするのだった。
◆◇◆◇◆◇
気付けば軽く眠っていたようだ。 ふと目を開けると、周りは皆起きており、時間も1時半となっていた。 あともう少しで、ラスベガスに到着との事だ。 また、窓から外を覗くと、そこにはアメリカの街並みが小さく見えていた。
「ワガそこくヤ」
「でス」
キャミィさんとミアさんはアメリカ出身のアメリカ育ちだ。 ただアメリカは無茶苦茶広いから、あまり祖国に戻ってきたという気分ではないらしい。 実家のある州にでも戻らないとダメなようだ。
「当機は間もなく着陸シーケンスに入ります」
「着陸っ?! ガクガク」
「渚、ほんま情けないな……」
渚ちゃんはやはりダメか。 お姉さんの手を握りながら何やらお経を唱えている。 希望の方はというと、現在爆睡中。 ギリギリまで寝ている作戦のようだ。
かくして、我々は約半日のフライトを終え、ラスベガスの地へと降り立った。
◆◇◆◇◆◇
身体検査等を終え入国を果たした俺達。 まず出迎えてくれたのが、ラスベガスにいる間に世話になる観光バスである。 当然西條家の専用バスだ。 アメリカだろうが何処だろうがお構い無しだな。
「まずはホテルへ向かいますわ。 そこで荷物を置いて必要な物だけを持って出てきて下さい。 そのまま朝食にして、すぐに観光へ向かいますわよ」
「はーい!」
飛行機内でしっかりと睡眠を摂った俺達は、すこぶる元気だ。 作戦成功! と言ったところか? とりあえずバスに乗り込み、一路ホテルへと向かう。 さて、いよいよラスベガス旅行本格スタートだ。
ラスベガスに到着。
「奈々美よ。 本当に朝なのね。 時差って凄いわ」
「だよねぇ」




