第1870話 旅行の前に
ラスベガスへ発つ前日。 皆はプールに来ていた。
☆亜美視点☆
8月11日。 ラスベガスへ行く前日だけど、皆は今日からお休みらしい。 なので今の内にプールにでも行こうという話になりました。 しかも今日は結構な人数が来ているよ。 東京組はもちろん、青砥さんやその彼氏の井口さん、柏原君に黒川さんや星野さんまで来て賑やかである。
「夕也よ。 良い眺めだな」
「だな」
「女性陣を眺めながら言うな」
夕ちゃんと宏ちゃんは私達の水着姿を見て鼻の下を伸ばしているようだ。 スケベさんなのである。
さて、やって来ましたるは西條グループ経営のプール。 我々がいつも利用しているプールである。
「大先輩方、皆さんスタイル良いですね……」
私達の水着姿を見た星野さんが、目を輝かせながら言う。 奈央ちゃんは「おほほほ!」と高笑いしているが、どう見てもちんちくりんである。
「星野さんだって、アスリートって感じの引き締まった身体でかっこいいじゃない」
「女らしさがあんまり無い気が……」
「んなことないない。 ほら、こんな形の良いもんぶら下げてんじゃん」
あ、紗希ちゃんがすかさず星野さんの背後に回り込んだよ。 神の手が出るよ。
「そいや」
「ひぃっ?!」
出たよ。 あれは誰も避けられない神業なんだよ。 ターゲットされたら諦めるしかないのである。
「79 57 83ね」
「えぇっ?!」
「ほぉ。 中々にええスタイルやな」
紗希ちゃんによってスリーサイズがバラされてしまう星野さんなのであった。
◆◇◆◇◆◇
さて。 私が可憐ちゃん見守り隊をしていると、弥生ちゃんが隣で「勝負や勝負!」とうるさいのだ。
「何回勝負しても同じだよ」
「亜美ちゃん、飛び魚みたいなんだよぅ。 人間じゃ勝てないよぅ」
「ばーぅ」
「人間だよ」
「やかましいわい! 勝負出来るもんがあったら勝負する! ウチと亜美ちゃんの宿命や」
「勝手に宿命づけないでほしいねぇ……はぁ、一回だけだよ?」
「よっしゃ」
「希望ちゃん、可憐ちゃん見守り隊よろしくだよ」
「ぅん」
仕方ないので弥生ちゃんと泳ぎの勝負をしてあげる事にした。 過去にもコテンパンのケチョンケチョンにしてあげたのだけど、諦めの悪い人である。 バレーボールに関しては私も宿命のライバルと認めてはいるけど、それ以外だと奈央ちゃんの方がライバルっぽいんだよねぇ。 奈央ちゃんは何でもハイスペックだからね。
「あ、遥ちゃん。 また性懲りも無く弥生ちゃんに勝負を吹っかけられたから、審判お願いして良いかな?」
「おう、良いぜ! 太一さん、ちょっとだけごめん」「はいはいー」
「しかし、月島も懲りないねー。 飛び魚に勝てるわけないのに」
「人間だよ」
さっきから皆して飛び魚飛び魚って、私を何だと思っているのだろうか? あ、飛び魚だと思ってるのか。
「やってみなわからんやろ。 猿も木から落ちる言うやん。 飛び魚かて船にぶつかるかもしれん」
「鈍臭い飛び魚だねぇ……。 はぁ、100m自由形で良い?」
「ええで」
「じゃあ、私が合図したらスタートな」
「よしゃ!」
「らじゃだよ」
という事で、軽く準備運動を済ませてスタート準備に入る。
「いくぞ。 オンユアマーク。 レディー……ゴー!」
合図と共にお互いスタートを切る。 私は当然バタフライだよ。 弥生ちゃんはクロールだね。
バシャン! バシャン!
「ママー。 とびうおさんがいるー」
「人間だよっ!」
プールサイドから聞こえてきた子供の声にも、しっかりと反応していくよ。 息継ぎの瞬間にチラッと隣のレーンを確認してみたが、すでに弥生ちゃんの姿は見えない。 多分後ろだねぇ。
バシャン! バシャン!
「なははは!」
「うわわ?!」
ゴツン!
何故か前から爆笑しながら背泳ぎして来た麻美ちゃんと衝突。 頭を強打してしまったよ。
「なはははは! 亜美姉ー大丈夫ー?」
「い、痛いよ」
バシャバシャ!
そんなこんなをしていると、弥生ちゃんが隣のレーンを泳いで私を抜いていく。 むむ、飛び魚も船にぶつかるとは中々上手く言ったものである。
「麻美ちゃんごめんね。 ケガしてない?」
「なはは。 私は石頭だからー」
どうやら何とも無いらしい。 私は痛いよ。 だけど、こんな事で弥生ちゃんに負けたら、鬼の首を取ったが如く煽られてしまう。
「勝負中だから先行くね」
「おー、頑張れー」
麻美ちゃんは「なははー」と笑いながら、今度は犬かきで泳いで行くのだった。 何故犬かき?
「おっと……もう15mくらい離されちゃってるよ。 エンジン全開でいくよ!」
バシャン! バシャン!
50mのターンをして残り半分。 確実に差は縮まっている。 が、まだ10mぐらいはありそうだ。 抜けるかなぁ?
バシャン! バシャン! ゴンッ!
んん? 今、前の方で鈍い音がしたような……。 息継ぎの隙に確認しよう。
バシャン!
あ、隣のレーンで弥生ちゃんとキャミィさんが土左衛門みたいに浮いてる……。 さっきの音は2人が正面衝突した音だろう。 大丈夫かなぁ?
◆◇◆◇◆◇
「ノーカンやノーカン! あ、痛てて……」
「ヤヨイいしあたますぎヤ……」
「あんさんもや……」
「まあノーカンでも良いよ。 どうせ私の勝ちだっただろうけどねぇ」
「何やとー……痛てて」
「しょうもない事でケガしないでよ貴女達? 明日はラスベガスへ行くんだから」
「わかっとるがな……。 大体なんでキャミィはウチが泳いでるレーンで泳いどったんや?」
「アサミとショウブしてたやデ」
「なはは! 私も亜美姉とぶつかったー」
「別のレーンでしなはれや……」
「なははは!」
「ワハハハ!」
うーん。 ダメだこの2人。
◆◇◆◇◆◇
そんなこんなで、明日に疲れが残らない程度でプールから引き上げた私達は、軽く買い物をした後で「皆の家」へ戻ってきた。 明日ラスベガスへ行くメンバーは、今日はここで泊まるとの事。 明日は14時には飛行機に乗りたいので、昼前にはここを出て空港に向かう予定だよ。
「海外旅行、初めてなんですよねー。 ドキドキします」
「青砥さんは初めてなんだね。 飛行機は?」
「飛行機は大丈夫です」
「井口さんも大丈夫か?」
「はい、問題無いです」
「問題があるのは希望と渚ちゃんだけだろ」
「ふんすっ! 私は大丈夫だよぅ! 亜美ちゃんが秘策を用意してくれるからね!」
劇場版ボケねこのBlu-rayを持っていき、離着陸前に流す事で希望ちゃんの気を逸らす秘策だよ。
「渚はどないするん? 今井君にでも抱きついとくけ?」
「清水先輩に怒られるやん……」
「渚ちゃんもボケねこの映画見れば良いんだよぅ」
「それが有効なのは希望ちゃんだけだよ……」
渚ちゃんの飛行機対策は特に思いつかず。 まあノリで何とかしようという話でまとまってしまったよ。 もうすぐラスベガス旅行。 どんな事が待っているか、今から楽しみである。
明日はいよいよラスベガス!
「希望です。 ラスベガス……はぅ! ボケねこベガスバージョン!」
「えっ?!」




