第1868話 日本チームは強い
クロアチアの練習試合に来た亜美達。
☆亜美視点☆
8月5日の金曜日。 現在、アルテミスドームにてワールドカップ前の調整も兼ねて、クロアチア代表チームと練習試合を行っています。 行っていますが……。
「どうして私達呼ばれたのかなぁ?」
「ベンチ座ってるだけならいらないわよねー?」
「なはは」
「暇だぜー」
「帰って良いかしら?」
せっかく私達も来てるのに、私、紗希ちゃん、麻美ちゃん、遥ちゃん、奈々ちゃんの5人はベンチスタートなのである。 スタメンには弥生ちゃん、宮下さん、渚ちゃんに眞鍋先輩、星野さん、新田さんというメンバーが立っている。 星野さんの交替要員にも、ブロッカーではなくアタッカーの神園さんを起用している。 ちょっと変わった采配である。
「一応見ておけー」
「私、練習試合があるからって仕事休んだんだけどー」
「私もだぞ」
「あー、わかったわかった。 前田君、次のセットに神崎と蒼井を出しても大丈夫かね?」
ちなみに前田さんもお仕事を休んで試合の為にマネージャーをしてくれている。
「特訓でパワーアップした5人の情報は出来るだけ隠したいんですが」
「だったら抑えめにプレーするわよん」
「そうだぜ。 要は全力プレーを見せなきゃ良いんだろ?」
「そ、それはそうですけど。 皆さん私が言ってもいきなり全力出すじゃないですか?」
「うっ……」
「なは……」
「きゃはは」
さすが前田さん。 私達のデータを完全に網羅しているようだよ。 興が乗ってテンションが上がってくると全力出しちゃう癖があるのをしっかり見抜いている。
「ちゃんと抑えるからさー。 私達仕事休んだ意味無いじゃんー」
「だぜだぜー!」
「はぁ……仕方ないですね。 2セット目は神崎さん、蒼井さん起用で! 何なら西條さん、清水さん、雪村さんに藍沢姉妹さんも出ますか!?」
「何で逆ギレなんですの……私は別に出なくても構いませんわよ……」
「わ、私もぅ」
「なはは。 私も見てるだけでー」
私も遠慮しておく事にしたけど、奈々ちゃんは「出る!」と言っていた。 性格が表れるねぇ。 にしても。
「前田さん怒らせると怖そうですわね……」
「私、怒らせないようにしよぅ」
「なはは。 気を付けねばー」
私も気を付けよっと。 さて、練習試合の1セット目はこの間にも進んでいる。 ランキング的には日本が今1位、クロアチアは9位という事で我々が格上ではある。 前回のワールドカップ時は私達は7位でクロアチアは8位と僅差だったけど、この4年程でかなり差がついたようだ。 クロアチアチームのエースはあの頃と同じくモニカさん。 あれからかなりの実戦を積んで、心身ともに立派なエースに成長している。 更にクロアチアは若い子達も起用してきているようだ。 18歳のOH、サラという子は特によく動けている。
「あのサラという子は要注意です。 データを集めなければ」
「ですわね。 フランスのジャンヌさんといい、若い選手が台頭してきて怖いですわよね」
「だねぇ」
私達日本でも神園さんや天堂さん、星野さんだってそうだし、そのもう一つ下の世代で、今高校3年生の海咲さん、大空さん、浜波さんの三強と呼ばれる面々もそうだ。 いやいや、若さには勝てないねぇ。
「おりゃー!」
パァンッ!
ピッ!
試合の方は宮下さんがスパイクを決めて8-4でテクニカルタイムアウトに入る。
「ふぅ。 調子最高ー!」
「さすが宮下さんだね」
「ほんま、どないなテクニックしとんねんな」
「宮下さん、今のところ決定率6割強です」
「うわはは」
「まだ試合も序盤じゃない」
「7割超えちゃる」
「悪いけど、2セット目は私も出るわよ」
「きゃは。 私も〜」
「何や。 あんさんら出るんかいな。 ほなウチは2セット目ベンチか」
「私もやな」
「きゃはは。 まあ、進化した私を見てなってー」
「そゆこと」
「神崎さーん、藍沢さーん? くれぐれも全力を出さないように」
「ひぃっ」
「うぐっ」
釘を刺される2人であった。
◆◇◆◇◆◇
1セット目終盤。 隣では奈々ちゃん、紗希ちゃんに遥ちゃんがアップを済ませて待機している。 試合の方は23-15でリードしている。 ランク差的に考えてもこれぐらいの試合になるだろう。 星野さんや神園さんも自信に繋がるはずだ。 まあ、ほとんどエースの宮下さんが決めているんだけど。
「うわはは!」
パァンッ!
「また決めてるよ」
「本当、あれも化け物ね」
「だねぇ。 どんな手首と身体の柔らかさしてるんだか」
「データ的に見ても凄いですよ、宮下さんは。 テクニック面だけグラフが突き抜けてます」
「なはは。 高校生時代からずっとそー」
もっと言うと、中学のシニアチーム時代から名の知れたプレーヤーだった事がわかっているけど。
「リトル時代はどうだったんだろう?」
「東京の宮下って言えばリトル時代から有名人だったぜー? 私達は直接試合した事は無かったけどな」
「全小大会連覇してるわよん」
「うわわ。 それは知らなかったよ」
宮下さん、そんな子供の頃から凄いプレーヤーだったんだねぇ。 まあ、いきなり頭角を表した私や奈々ちゃん、弥生ちゃんがちょっと変わってるのかも?
◆◇◆◇◆◇
あっさりと1セット目を取った日本チーム。 やはり今の日本チームは強いね。 界隈のニュースでは私達清水世代(恥ずかしいねぇ!)が異常なのだとかなんとか。 私が異常集団の筆頭格扱いでやだねぇ。
「いやー。 やはり日本代表は強いなぁ。 がはは」
「おっさんは座って前田さんにお伺いを立てとるだけやん」
「黛姉。 おっさんはやめてくれんかぁ……」
「役に立ってへんとこは否定せんのかいな……」
「ぐぬぬ……」
「監督。 2セット目は神崎さん、蒼井さん、藍沢さん、宮下さん、眞鍋さん、新田さんで行きますよ」
「うむ。 それで行こう。 前田さんの指示に従うぞー」
「だんだん威厳が失くなっていくわね……」
「もう前田さんが監督でええやん」
「なはは!」
まあ監督さんは監督さんで他のお仕事もしっかりしてるはずだし、一概にそうは言えないけど。
「じゃあ行ってこい」
「りょ! ふふふ。 進化した私を見せるわよん」
「神崎さん。 コートメンバーから外しますよ」
「きゃは……すいません。 抑えてプレーします」
「約束ですよー」
「りょ」
他の皆もやる気満々でコートに入っていくよ。 その後ろ姿を見て前田さんは「大丈夫でしょうか……」と心配していた。
試合の方は前田さんの心配は杞憂に終わり、3人共特訓の成果を上手く隠しながらプレーしていたし、眞鍋さんも察してか、トスは宮下さんに集めるようにしていた。 さすがにもうベテランだねぇ。 試合の方は3セット連取して日本チームの完勝。 監督同士は握手しながら何か言葉を交わしているようだ。
「まあ、こんなもんよね」
「そやかて、クロアチアチームかて優勝候補に名前が挙がるチームや。 本番どないなるかわからんで」
「そうですね。 あちらだって私達みたいに、何か隠しながら試合していたかもしれませんし」
「どのチームも本番まではそんな感じだろうな」
うーん。 ワールドカップに向けて、各チームの思惑が錯綜し始めたよ。
日本代表はかなり強くなっている。
「遥だ。 とはいえ、各国チームもレベルが上がっているからな」
「うん。 油断出来ないねぇ」




