第1866話 デビュー
ボケねこアイランドから戻ってきてから1週間。
☆紗希視点☆
さて、ボケねこアイランドから帰ってきて早一週間。 間に希望ちゃんの誕生日パーティーを挟んだりして今日は7月30日の日曜日よ。
私は「皆の家」の自室でパソコンを開き、とあるVドルの生配信開始を待っている。
「花風風花デビュー配信!」
「この子が紗希がデザインしたっていう?」
「そよ」
「なはは。 可愛らしいデザインだー」
「だねぇ」
「はぅはぅ」
そう。 今日はいよいよ、私がファラノプシスに入社して初めて自分一人でデザインを手掛けた仕事、Vドルのキャラデザ。 そのデザインした子のデビュー配信の日。 20時開始で、後3分で始まるわよ。 私がデザインした子を一目見ようと、奈央、麻美、亜美ちゃん、希望ちゃんが同席している。
「何かドキドキするわね」
「そりゃ自分がデザインした子だもの。 我が子みたいなものじゃない。 ドキドキもするわよ」
「スターガールズといえば、この界隈では最大手のVドルグループー。 今やデビューするっていうだけでチャンネル登録者数30万人とかになるのだー」
「凄いのぅ、それ?」
と、希望ちゃんが首を傾げる。 すると、麻美が補足で説明する。
「普通の配信者が1万人行くともう凄いって言われるー。 ちなみに私達『ミルフィーユ』も15万人なのでかなり凄いー」
「えっ? だって、まだこの人は配信デビューしてないのにチャンネル登録者数20万人超えてるよぅ?!」
「それだけ人気コンテンツって事なんでしょうね。 ふむ。 Vドルグループ……検討しても良いかもしれませんわね!」
「な、奈央ちゃん……」
奈央はVドル事務所も作るつもりなのかしら?
「あ、始まったよぅ」
「おー」
始まったは始まったけど、まだOP画面ね。 風花ちゃんはまだ出て来ていないわ。 BGMが流れていて、画面には「ちょっとだけお待ちください」のテロップが流れている。
「どんな感じの子かしら」
「設定はどんな子なんですかー?」
「たしか花の精霊さんで、実年齢は500歳だったかしら? 見た目は人間の17歳ぐらいの女の子ね」
「ファンタジーなキャラなんですのね」
「みたい」
しばらく待っていると、画面が切り替わって花風風花ちゃんが姿を現した。
「きゃはー! 可愛いー」
「親バカですわね……」
「あはは……」
『あの、えっと、こんばんは初めまして! プリンセスステージ所属、スターガールズ4期生の花風風花です』
と、まずは当たり障りの無い挨拶から入る風花ちゃん。 声もかなり可愛らしい感じで、見た目にマッチしている。
『まずは私の自己紹介からいきます。 名前は花風風花。 花の国から来た花の精霊で、年齢は500歳です。 あ、花の精霊界隈では500歳でもまだまだ若い方なの! 人間で言うと17歳ぐらい!』
「なはは! ちゃんと自分でフォローしてるー」
「可愛いよぅ」
『好きな事はお昼寝と歌を歌う事、嫌いな事は自然破壊です。 好きな物はもちろん綺麗なお花』
中々花の精霊らしい感じのプロフィールね。
『4期の同期は私を含めて4人。 昨日デビュー配信をした水神セイラちゃんに、まだデビューしていない祭火つづみちゃん、それに土井もぐらちゃん。 皆、良い人達だから推してねー』
それぞれ水の精霊、火の精霊、大地の精霊という設定みたいよ。 4期生は精霊で固めたみたい。
『さて。 次は私をデザインしてくれた人。 ママに当たる人は、新進気鋭のキャラクターデザイナーの神崎紗希さん。 紗希ママと呼ばせていただきます! 紗希ママ、見てくれてるかわからないけど、こんなに可愛い身体をデザインしてくれてありがとうございます!』
「きゃはーっ! 見てる見てるー! 麻美! 投げ銭1万円!」
「なはは……ほ、本当にするんですかー?」
「する! ママからのデビューおめでとう御祝儀よん!」
「り、りょーかーい」
まだ操作方法をよく理解していない私は、麻美に教わりながら風花ちゃんに投げ銭をする。
『えっ?! あっ! 紗希ママからエールチャットが! ママー! ありがとうー!』
「きゃはーっ! 可愛いー!」
『私、ちょっと調べてみたんですけど、紗希ママも自分のチャンネルを持ってるみたい。 だからもしかしたら近い内にコラボ配信とか出来るかも?』
「出来るわよーん!」
「紗希、テンション上がり過ぎじゃないの?」
「可愛い我が子の晴れ舞台なんだから仕方ないでしょ?!」
「は、はい。 すいません」
「な、なはは……」
「は、はぅっ?! 紗希ちゃんのチャンネルの登録者数見て!」
「う、うわわ?!」
「おりょりょりょ?!」
風花ちゃんが私のチャンネルの話をしたら、あっという間に10万人ぐらい登録者が増えたんだけど?!
「に、人気コンテンツの力って凄いわね……」
『じゃあここからは推しマークとか、応援タグを決めていこう!』
「麻美ちゃん。 推しマークとか応援タグっていうのは何なのぅ?」
「推しマークっていうのは、その配信者さんを現す絵文字みたいなのー。 絵文字一つで誰が推しかわかるー。 応援タグっていうのはSNSとかで発信する時に付けるタグだよー。 配信者さんが探し易いように固定タグを作るー」
「おー、なるほどー」
そんなこんなで、順番に色々と決めていく風花ちゃん。 1時間程で初配信は終了。 次回は火曜日の同じ時間から歌配信を行うようよ。 頑張れば見れそうね。
◆◇◆◇◆◇
ピロリン……
配信を見終えてリビングでのんびりしていると、スマホに何やら通知が来たわ。
「おりょ? おりょりょ!? SNSが風花ちゃんからフォローされたわよ」
「なはは。 ママだからですねー」
「何か嬉しいわね。 私が産んだって言っても良いのよね?」
「まあ、どうなのかしら?」
「ママって読んでくれるんだし、それで良いんじゃないかな?」
ピロリン……
「おりょりょー!? ダイレクトメッセージまできちゃ!? 結構積極的に絡んでくるのね。 何々……『可愛い身体をありがとうございます! 落ち着いてきたら一度コラボしましょう!』だって! きゃはー! するするー! コラボすりゅー!」
「紗希ちゃんも配信デビュー近しだね!」
「こんな事もあろうかと、自分用のバーチャルキャラクターも作ってあるのよん!」
「準備良いのね……」
「いやだって、他のVドルのパパママだって、コラボしてたりするって話だったし、ワンチャン私も可能性あるかと思ってさー」
「まあでも良かったねぇ。 無事にデビューもしたし、デザインした紗希ママも一安心だね」
「ええ。 私も時間が合う時は彼女の配信を出来るだけ追っていくつもりよん」
「あんた、今は他の仕事受け持ってないわけ?」
「きゃは。 今は先輩のアシスタント的な仕事してるー」
多分、また私にも新しい仕事が舞い込むでしょ。 今回の風花ちゃんの配信が好評で、キャラクターデザイナー神崎紗希の名も広まっただろうし。 思いがけずに良い宣伝にもなったわけね。 もしかして芽衣子姉さん……あ、社長はこれを狙って私に任せたのかしら? だとしたら凄い人なんだけど。 とにかく! キャラクターデザイナー紗希、好発進ってとこね!
紗希の初仕事はこれにて完了。 愛娘(?)のVドルともコラボの約束。
「奈央ですわよ。 Vドル事務所ねぇ。 ねぇ、亜美ちゃんどう思う?」
「今から参入するのは大変だと思うよ」




