第1840話 甘いお菓子
奈央の仕事について行く秘書の亜美。
☆亜美視点☆
6月15日。 木曜日だよ。
ブロロロ……
「次はサイジョースナック千葉本社ですわよー」
「らじゃだよ」
今日は朝から奈央ちゃんと春くんを車に乗せて走っている。 お仕事なんだけど、先程1つ目の仕事を終えて次の企業へ移動中。 千葉に本社を置く大手お菓子メーカーサイジョースナックである。
「亜美ちゃんはサイジョースナックのスナック菓子とか食べるの?」
「チョコレートチップ略してチョコチはそこそこ食べるよ」
「やっぱり甘い系なんですのね」
「当然だよ。 あの無駄に赤々して辛そうな唐辛子スティックなんて絶対に食べないよ。 あんなのはお菓子じゃないんだよ」
私は辛いお菓子は絶対に食べないのである。 お菓子とは甘くあるべきなのだ。
ブロロロ……
「亜美さんが運転手も出来るようになって、移動も楽になりましたね」
「ですわね」
「わ、私は緊張しっぱなしだよ」
「どうしてですの?」
「高級車の運転してるからだよ?! これ、サイジョー自動車の超ハイグレード車の『スーパーエース』だよ? 1300万だよ?!」
「安いじゃないですの。 130円でしょ?」
「奈央ちゃんにとってはそれぐらいの感覚だろうけど、私みたいな一般的な金銭感覚の持ち主からした高額だよ?!」
「またまたー。 亜美ちゃんだってこの車ぐらいはキャッシュで買えるでしょ?」
「買えるけど、私はまだ一般的な人間でありたいよ」
「亜美さんが一般的は少々無理があると思いますよ?」
「春くん、最近ちょっと口が悪くなってないかな?」
「春人君は口数が少ないだけで、前から大体こうですわよ」
「そ、そうだったっけ?」
私にはそれなりに優しかったイメージがあるんだけどなぁ?
◆◇◆◇◆◇
サイジョースナックに到着した私達は、工事見学に入るよ。 今日は視察や監査ではなくて、あくまでも見学ではあるが、新商品開発中という事でそちらの視察という一面もある。
「こちらが製造ラインとなっています」
「うわわ。 唐辛子の痛い感じの匂いが鼻をつくよ! 退散だよ!」
「亜美ちゃん、見学ですわよ」
「目がやられるよ! 鼻がおかしくなるよ! 唐辛子スティックは製造中止にすべきだよ!」
と、猛抗議してみたものの、呆気なく奈央ちゃんに引っ張られて行く私なのであった。 目と鼻が痛いよぉ。
「ここで味付けパウダーをまぶしています。 今日は唐辛子パウダーですね」
「うわわわ。 赤い、赤いよぉ」
「凄いですわね」
「これは確かに目と鼻に来ますね」
「保護マスクや眼鏡を義務化すべきではないですの?」
「そうですねー。 少し検討してみます」
「早く他のライン見に行きましょう! このままじゃ私の可愛い目が充血して大変な事になるよ」
こんな部屋からは退散だよ退散。
◆◇◆◇◆◇
「こちらはチョコレートチップスのラインになります」
「素晴らしいラインだよ素晴らしい! この鼻腔をくすぐる甘美な香り! まさに楽園だよ」
「お嬢様の秘書様は大変面白い方ですね。 敏腕だとお聞きしていますがあまりそうは見えないですけど」
「あれでも手腕の方はたしかですわよ。 ちょっと可愛らしい性格をしてるだけ」
「チョコレートが流れてるよ……これの中にチップスを潜らせたあと、乾燥させてるんだねぇ。 私もあのチョコレートの中に潜りたいよ」
「鼻詰まって窒息しますわよ……」
「ははは……」
私はここから離れたくないよ。 ずっとここのチョコレートを舐めて生きていきたいね。
「やっぱりこのチョコレートチップスが人気商品ですね。 受注もかなり多いですよ」
「やはりだよ!」
「はいはい。 それで、今度出す新商品というのは?」
「はい。 こちらのラインになります」
案内してもらい先へ進む。 色々なラインがあるけど、それぞれが微妙に違う形をしているようだ。 作る商品によっては工程が異なるからなのだろう。
「この香りは……」
「この少し甘酸っぱい感じの匂いはイチゴだね」
「はい。 新作のお菓子はイチゴを使ったお菓子にしようと思います」
「イチコクリームを使うんですの?」
「いえイチゴをチョコチップにし、イチゴチップクッキーにしようかと」
「美味しそうだねぇ」
「試食出来たりは?」
「ラインの最終工程で検査していますので、そこで試食してもらえます」
「やったよ!」
「亜美さんは本当に甘い物に目が無いですね」
「多分身体も甘いですわよ」
「砂糖菓子みたいに言わないでほしいねぇ」
イチゴチップクッキーとやらのラインの末尾まで移動した私達は、早速その新商品をいただく事に。
「これがイチゴチップクッキーですのね」
「クッキー部分はミルククッキーなんだねぇ。 イチゴミルク的な楽しみ方が出来そうだよ。 いただきます。 んむ」
ぼりぼり……
うん。 このミルククッキーも中々に甘い。 そのクッキーの甘さに対して、イチゴチップのほんのりとした甘酸っぱさが良いアクセントになっていて絶妙なハーモニーを醸し出しているよ。
「これは正に! お菓子の産業革命だよ!」
「何を言ってますのよ……」
「美味しいですね」
「これはいつ店頭に並ぶんですか?」
私は興味津々で訊いてみた。
「こちら7月から店頭に並びますので、是非手に取ってください」
「買い占めるよ!」
「はぁ……」
奈央ちゃんは隣で大きな溜息をつき、呆れたような表情で私を見つめるのだった。
◆◇◆◇◆◇
ブロロロ……
「今日のスケジュールはこれで終了だよ」
「はい、お疲れ様でしたわ」
「何だかんだ言ってスムーズに終わりますね。 さすがは敏腕秘書ですね」
「えっへん」
ちょっと調子に乗ってみたり。
「ところで話はかなり変わるけど、奈央ちゃんと春くんは子供作ろうとはしないの? 跡継ぎを作らないといけないよね?」
「ですわね。 とはいえまだ予定は無いですわよ。 ね?」
「その辺は奈央さんに任せていますから」
「おほほ。 まあ来年以降かしらね。 亜美ちゃんのところは?」
「私のところもまだ予定は無いよ。 あ、右折します」
ウインカーを出して右折レーンで待機。
「奈々ちゃん達と話し合ってからだし、私達も来年以降かなぁ」
「そう。 もしかしたら皆同学年になるかもしれませんわね」
「そうしたら、また私達みたいに仲良しになるかもしれないよね」
「私達の子供が皆幼馴染になるってなったら、それはそれで楽しいですわね」
「うん。 親子2世代仲良しとか最高だよ。 実現したら良いね」
そういう未来もあるんだね。 いずれは「皆の家」も私達から私達の子供達へと引き継がれていくのかな? それとも、子供達が出来たらまた増築するのかな?
「数年後にはどうなっているか、本当に楽しみだね」
「ですわね」
紗希ちゃんや遥ちゃんは子供の事とかどう考えているんだろう? 紗希ちゃんなんかはあれで慎重に考えてそうだけど……。 今度2人にも話を聞いてみよう。
亜美は甘い物が大好物。
「希望です。 亜美ちゃん、辛い物とか苦い物に対しては凄く厳しいんだよぅ」
「あまりにも辛すぎたり苦すぎる物は許されないよ」




