第181話 海辺の町観光
亜美と希望の部屋で騒ぐだけ騒いで解散した女子達。
希望はまだまだ諦めないようである。
☆亜美視点☆
私の部屋に集まっていた皆は、騒ぐだけ騒いで自室へと戻っていった。
本当に皆は騒ぐのが好きなんだから……。
「皆元気だねぇ」
「そうだね」
希望ちゃんと2人になり、ようやく落ち着いた。
希望ちゃんはフラれたというのにあっけらかんとしている。
「ね、希望ちゃんはその……大丈夫? 一度は通じ合っていたのに」
「大丈夫だけど、さすがにショックだよ。 でも、これは夕也くんが決めた事だし納得するしかないよ」
「……」
「もうっ! 夕也くんの恋人になれたんだからもっと喜んでよね? 負けた私が惨めじゃない」
「あぅ」
希望ちゃんは強いなぁ。 私が負けてたら、きっとこんな風には振る舞えてなかったと思う。
「ありがとう……私、頑張るね」
「うんうん。 あ、でも油断してたら私だって黙ってないからね?」
「あはは、もう絶対に夕ちゃんは離さないもん」
このままゴールまで一直線だもんね。
「さて、明日は観光があるし、もう寝ようよ」
「そだね」
私と希望ちゃんは、電気を消してベッドに入る。
今日はびっくりな1日だったなぁ。
まさか、夕ちゃんに選んでもらえるなんて……。
◆◇◆◇◆◇
翌朝、広間で集まって朝食を食べていると、話題はすぐさま私と夕ちゃんの事になる。
「でもさ、2人が付き合うって言われても、なんだかピンッと来ないわよね?」
紗希ちゃんがそんな事を言い出した。
どうしてだろう?
「だって、今までだって付き合ってるのと大差なかったじゃない? 『え? 今更?』みたいな感じ?」
「あー、わかる」
奈央ちゃんまでそんな事を言う。
今までは幼馴染だったんだけどなぁ。 皆から見たらそう言う風に見えてたのか。
「ねぇ夕也。 どうしてどっちか1人に絞ったの? 2人は別に両方でも良いって言ってたんでしょ?」
「あ、それは私も聞きたい。 どしてなの夕ちゃん?」
ちょうど聞きたかったことを、奈々ちゃんが訊いてくれたので便乗する。
夕ちゃんは朝食を頬張りながら答える。
「2人とも1番になりたいって言ってたからな」
「ふうん。 そうだったの」
「やっぱり1番になりたいって思うよね!」
麻美ちゃんが大きな声でそう言う。
渚ちゃんも「うんうん」と頷いている。
渚ちゃんも、京都に好きな男の子でもいるんだろうか?
「しかし、雪村は良かったのか?」
「まあ、仕方ないかなって……。 夕也くんの1番にしてもらえなかったのは、私に足りないところがあったからだし。 でも諦めてはいないんだよ? 2人の側でいつでも起死回生の大逆転を……」
「もう渡さないもーん」
「がるるー」
「がおー」
「心配いらなさそうだな」
「たくましくなっちゃって」
奈々ちゃんと宏ちゃんが、微笑ましそうに私達を眺めるのだった。
朝食を食べた後は、皆で観光に繰り出す。
海辺の町なだけあり、鮮魚などを売っている市場があるらしい。
早速そこへ向かうことに。
「夕ちゃん、手繋ごう?」
「ん、おう」
隣に移動して、夕ちゃんの手を握る。
えへへー。
「早速イチャついてるよこの2人は。 あ、いや普段からこんなもんだっけ?」
遥ちゃんが後ろからちょっかいを出してくる。
その隣では希望ちゃんが羨ましそうに見つめていた。
やっぱりまだまだ未練があるようだ。
「希望ちゃん、もう片方の手が空いてるよ?」
「え?」
私がそう言うと、一瞬驚いたような声を上げる。
私もまだまだ甘いね。
「えっと……」
「私は別にいいよ? 夕ちゃんは?」
「ん? 俺も別に良いぞ?」
「じゃ、じゃあ」
希望ちゃんはいそいそと夕ちゃんの隣へやって来て、戸惑いながらもゆっくりと手を握った。
「……あの、ありがとう」
「ふふふ、希望ちゃんだって、私に色々と許してくれてたじゃん? おあいこだよ」
「本当、仲良いですね先輩方」
渚ちゃんが私達を見て、率直に感想を述べた。
何年もずっとこんな感じだからなぁ。
「こいつらはこれが普通だからな」
「みたいですね」
そんな話をしながら、市場へと到着した。
「あー、魚の生臭い匂いが漂ってくる!」
「これ苦手な人は苦手よね」
紗希ちゃんが言う通りで、麻美ちゃんはちょっとダメみたい。
鼻と口を押えている。
私達は、今朝獲れたであろうお魚さん達が並んでいる通りを歩いて行く。
「ねぇねぇ、あそこマグロの解体やるんだって。 見にいこ―?」
紗希ちゃんが指差す方を見ると、大きなマグロを今から解体するらしい。
貴重だよこれは。
私達はぞろぞろと解体をしている場所まで移動した。
見事な手際で、素早くマグロを解体していく。
あんな風にやるんだね。
次第に、私達が良くスーパーで見るような切り身の姿になっていく。
1尾から大トロってあれだけしか取れないんだね……。
「す、凄いね」
柏原君が感嘆の声を上げている。
中々見られる物じゃないからねぇ。
私だって、目の前でやってるのは初めて見たよ。
「良いもの見たわねぇ」
「あー、マグロ食べたくなってきたわ」
「ふっふっふー、そう言うと思ってましたわ」
「おお?」
奈央ちゃんが、ちょっと高くなっている台に乗っかり、踏ん反り返って偉そうにしている。
「美味しいマグロ料理が食べられる店を、予約してあるわよ! お昼はそこで食べます!」
「さっすが奈央!」
紗希ちゃんが大きな拍手で奈央ちゃんを称える。
さらに奈央ちゃんが踏ん反り返るのだった。
そんな鮮魚市場を後にして、私達は次の観光スポットへ。
次なる目的地はサイクリングロード。
レンタルで自転車を借りて、整備されたサイクリングロードを潮風を感じながら走る事が出来るらしい。
自転車を借りられる場所へやって来た私達は、自転車を選ぶ。
「夕ちゃん、これかっこいいよ」
「そうだな。 クロスバイクか」
「そういう自転車なんだ?」
よーし、私も乗るよぉ。
「んしょ。 うわわ、サドル狭い」
「ははは、確かにな」
「はぅーっ、乗りにくいー」
「すぐに慣れるよ」
遥ちゃんはなんだか様になってるなぁ。
あと、渚ちゃんも乗り慣れてるみたいだ。
「皆、乗れたー?」
「はーい」
「んじゃ行くわよー」
奈央ちゃんが先頭になってゆっくりと走り出す。
おお、普通の自転車に比べてなんか楽々だよ。
「うん、気持ちいいねぇこれ」
潮風を感じながら走って行き、私達はサイクリングロードへと入った。
自転車専用の道で、私たち以外にもかっこいい自転車に乗って走っている人がいる。
は、速いよぉ。
「夕ちゃーん、海が綺麗だねー」
「そうだな。 潮干狩りしてた時は気付かなかったけどな」
「集中してたもんね」
夕ちゃんと並んでゆっくりと走る。
「はぅ、はぅ」
「んん?」
後ろから希望ちゃんの「はぅ」が聞こえるので振り返ってみると、乗り慣れない自転車に苦戦しているようだ。
運動神経は良いんだから、すぐ慣れると思ったのに。
「希望ちゃん大丈夫?」
「う、うんなんとかぁ」
ぺースを落として希望ちゃんに並走する。
むむ……。
「希望ちゃん、ペダル重たくないそれ?」
「重いよぉ」
あー、やっぱり。 変速してないんだこの子。
「希望ちゃん、その右のハンドルのボリュームを手前に回してみて」
「え? これ?」
希望ちゃんは言われた通りに回すと、ガチャッッと音を鳴らしてペダルが軽くなるのが見えた。
「あ、ちょっと楽になったよ!」
希望ちゃんはもう1段ギアを下げて「ちょうど良くなった」と言った。
「ありがとう亜美ちゃん」
「いやいや……」
普段自転車とか乗らないもんね私達。
学校も駅も歩いて行ける距離だし、自転車で行くようなところもそんなにないし。
「ささ、景色を楽しもう希望ちゃん」
「うん」
私達一行のサイクリングはまだまだ続くよ。
2日目の観光、市場を後にした一行はサイクリングロードを颯爽と走る。
「遥だよ。 風が気持ち良いね。 クロスバイクは家にもあるから乗り慣れてるんだよ。 本島はロードが欲しいんだけど、安いやつでも手が出ないんだよなぁ。 奈央ー買ってくれよー」
「150万ぐらいので良い?」