第180話 答え
女子はキッチンに集まり夕飯の準備を始めた。
☆亜美視点☆
お風呂から上がってきた私達は、手分けして夕飯の支度にとりかかる。
「砂抜き終ってるかなー?」
「んー、時間経ってないし終わってないかも」
「まあ、それは仕方ないじゃん。 潮干狩りしてきた感あって良くない?」
キッチンに総勢8名の女子がわちゃわちゃしている。
こんな賑やかな夕飯の準備は初めてだよ。
「えーっと、アサリ汁と醤油バター焼きとパスタだっけ?」
「使い切れんのこれ?」
「11人分だしいけるでしょ」
結構な数の貝があるけども……。
「あの、私は何すれば?」
「私もー!」
「私もだよ……」
後輩2人と遥ちゃんが所在無さげに立っている。
うーん。
「じゃあ、私とパスタ担当しようか」
私が3人を面倒見る。
どんと来いだよ。
「ほらほら、貝焼いてねぇ」
「はーい」
最近は料理を教えることも増えたなー。
昔、希望ちゃんに教えてた時の事思い出すよ。
私は3人を監視しながら、自分の作業もこなす。
◆◇◆◇◆◇
皆で作った夕飯が完成した。
パスタもちゃんと出来てるよ。
「おお! すげぇ!」
男子達もテーブルに並ぶ貝料理に驚きの声を上げている。
湯気を上げるアサリ汁に、大皿に盛られたパスタ。
香ばしい匂いをさせている醤油バター焼き。
一杯あった貝をふんだんに使った夕食だ。
「アサリ汁はおかわりもあるから、どんどん食べてねー」
「うおおおお」
「いただきまーす!」
という事で実食だよ。
まずは、麻美ちゃん達が作ったパスタ。
遥ちゃんは言うだけあって、だいぶ苦戦していたね。
「んん、美味しいパスタ」
「どれどれー」
私の言葉で、皆がパスタを小皿にとって食べ始める。
「おお、美味いな」
「塩加減とか絶妙ね。 誰の味付け?」
「あ、私です」
渚ちゃんが小さく手を上げる。
渚ちゃん、最初は庖丁もまともに使えなかったけど、味付けのセンスはかなりあるんだよねぇ。
「うぐうぐ、渚ちゃんは作るたびに上達するな。 んぐんぐ、良い嫁さんになれるぞ」
「い、いやそんなことは……」
あらら照れて赤くなっちゃって。
夕ちゃんも、すぐそんな勘違いさせるような事を言うんだから。
「アサリ汁も美味しいわよ」
奈々ちゃんが汁を啜って感想を述べる。 紗希ちゃんと奈央ちゃんが作ったやつかな。
どれどれ私も。
「んん、おおーこれも美味しい。 これ何?」
「ふふふ、神崎家秘伝の味噌を持って来て正解だったわねぇ」
「神崎家秘伝……」
「紗希の料理はいつも何かしら隠し味があるんだよね」
おそらく、紗希ちゃんの料理を一番食べているであろう柏原君が言う。
神崎家恐るべしだよ。
「出汁を取る昆布も良い物を使ったのよ」
「西條家必殺の最高級品?」
「もぉちろん」
なんだかただのアサリ汁なのに、凄い贅沢な逸品になってしまった。
でもおいしい。
「で、最後は醤油バター焼きだね」
ハマグリを一つとって身を食べる。
「んぐ……これもイケるね」
「うんうん!」
醤油とバターのバランスが絶妙だ。
少し塩の味もしていて美味である。
うん、どれも大成功だ。
潮干狩りして、獲ってきた貝で料理。 良い旅行なった。
☆夕也視点☆
夕飯を食って、部屋で少し休憩をする俺達。
今日は中々疲れたが、楽しい1日だった。
明日はこの辺を観光することになっている。
「……その前にだ」
「何がだ?」
「?」
声が出ていたようだ。
宏太と柏原君が「どうした?」みたいな顔でこちらを見ている。
「いや、なんでもねぇ。 ちょっと散歩行ってくるわ」
「お、おう」
「気を付けて」
手を振って部屋を出た俺は、そのまま奈央ちゃんの別荘から外に出た。
「そろそろ……覚悟決めるか」
宏太に言われて、この数日間ずっと考えていた。
いつまでも今のままで良いのか。
選ばななかった方はどうなるのか。
どちらも傷付けたくないと思って、今まで以上に悩んだ。
そして、覚悟を決めたのだ。
俺はスマホを取り出して、亜美と希望を呼び出し、先に砂浜へ向かった。
傷付けることになるかもしれないが、宏太の言った通りあいつは強いという事を信じる。
少し砂浜で待っていると、2人が並んで歩いてきた。
表情を見ると、何かを察したのかとても緊張した面持ちである。
「お待たせ夕ちゃん」
「話ってどんなお話?」
一応確認の為に、希望が訊いてくる。
「2人の事で、ちゃんと答えを出してきた」
その言葉を聞いて、2人は顔を見合わせる。
「これはまた急だね」
「だよね」
「ま、まあな……で、話を進めて良いか?」
2人は頷いて、俺の言葉を待つ。
本当の事を言えば、俺の答えはもうとっくに決まっていたのだ。 それもずっと前から。
ただ、もう1人の大事な女の子を傷付けるのが怖かった……。
だから、今の関係に甘えていたかったのだ。
実際、2人はそれでも構わないと言ってくれていた。
ただ、それでも2人は俺の1番になりたいと言った。
「まずは言わせてくれ。 俺は本当にどっちも同じぐらい好きで大切だ。 小さな頃から、ずっと一途に想ってくれていた希望も、俺がどんな酷い事を言って遠ざけても、俺を信じてくれた亜美も、どっちもだ」
これは俺の本当の気持ちだ。
「……」
「……」
2人は、黙って俺の話の続きを待っている。
「ただ、あえてどちらかを1番に選べと言われたら……それはずっと前から決まってる」
それを聞いたうちの1人の女の子が全てを悟ったのか、顔を下に俯ける。
「亜美、お前が俺の1番なんだ。 恋人になってほしい」」
「夕ちゃん……」
「……」
希望と付き合っている時は、希望を俺の1番好きな女の子にしてあげようと思っていた。 希望を大事にしようと思ってきた。
でも、最後まで希望を1番にしてやれなかった。
亜美を忘れることは出来なかったのだ。
希望には本当に申し訳ないと思っている。 いくら謝っても足りない。
亜美は、チラリと希望の方に目をやる。
やはり気になるのだろう。
だが、それでも俺の方を向き直った亜美は。
「うん。 喜んで」
小さく頷き、俺の告白を受け入れた。
「希望ちゃん……その──」
「おめでとう亜美ちゃん、夕也くん」
希望は笑顔でそう言った。
強がっているのは見て明らかだ。
「やっぱり、私は夕也くんの1番になれなかったかぁ。 亜美ちゃんを焚き付けたのは失敗だったかな?」
「の、希望ちゃん。 その……」
「謝らなくていいよ? そう言う勝負だったんだから。 夕也くんも謝らなくていいからね」
「え、あ、あぁ……」
「でも悔しいね。 亜美ちゃんもこんな気分だったのかな?」
「あ、あれは私の自業自得だし」
「あはは……そか。 さて、私は邪魔者だし戻ろうかな」
そう言うと、希望は後ろを振り向いた。
「亜美ちゃん! 私は夕也くんの事、諦めないよ? 隙を見せたりしたら奪いに行くからね」
「あぅ……頑張る」
希望はそれだけ言って、奈央ちゃんの別荘へ戻っていった。
最後まで、俺達の前では泣かなかったな。
強くなった、本当に。
「でも、良かったの私で?」
「言ったろ。 俺の1番はずっと前からお前だったんだよ」
「一度は私にフられたのに?」
「そ、そうだな」
亜美は「むう」と、怒り顔になる。
「どうした?」
「希望ちゃんが可哀想だなって。 私が1番だったならどうして希望ちゃんを受け入れたの? 希望ちゃんの事、本当に好きだったの? それに、ずっと1番だったなら、どうして今まで迷ってたの?」
「希望の事は今でも好きだ……それは変わらない。 ただ、お前が1番好きだっただけなんだよ。 その他の事は、旅行が終わってから全部話すよ。 希望を受け入れた事や、今まで迷っていた理由」
「ふぅん……まあ、わかったよ。 旅行終わったら聞かせてね」
「……というか、お前嬉しくないのか?」
「え? 嬉しいに決まってるじゃん。 小躍りしたいぐらいだよ。 ただ、希望ちゃんの事を考えると今は抑えようと思う。 強がってはいたけど、きっと落ち込んでるから」
「だよな……」
さすがにすぐには立ち直れるはずないだろう。
「私達も戻ろっか」
「だな」
「ね、今度、デートしようね」
「ん? そうだな」
俺達は、2人並んで別荘へ戻った。
☆亜美視点☆
夕ちゃんに選んでもらえた。 とても嬉しい。
希望ちゃんには悪いとは思っているが、自分でも言っていたようにそういう勝負だった。
お互い恨みっこなしという約束でもあった。
「じゃあ、また明日ね」
「おう」
夕ちゃんとは部屋の前で別れる。
それにしても、夕ちゃんなら3人で一緒にっていうのを選ぶと思ってたんだけどなぁ。
どうして1人に絞ったんだろう?
「今度訊いてみよ」
独り呟き、部屋へ入る。
希望ちゃん、泣いてるかな?
「ただい──」
「亜美ちゃん、おめでとー!」
「うわわわ」
何故か部屋内には女子が全員集まっていた。
話を聞くと、夕ちゃんが出て行った後で私と希望ちゃんが揃って出て行ったのを見た奈々ちゃんが、何かを察して私の部屋に集合をかけたらしい。
何て洞察力。
で、先に帰って来た希望ちゃんが結果を皆に話したという事らしい。
の、希望ちゃん、泣くどころか……。
「改めておめでとう、亜美ちゃん。 でも、さっきも言ったけど私はまだ諦めないからね? 隙を見せたり、2人が別れたりしたらすぐに割り込むんだから」
「あ、あはは……」
心配はいらなさそうだ。
この分だと、私と希望ちゃんの争いは本当に永遠に続きそうだ。
気の抜けない日々が続きそうだよ。
急な夕也の返事。
夕也が選んだのは亜美だった。
「紗希よ。 今井君が選んだのは亜美ちゃんかー。 いやいや、おめでとう亜美ちゃん。 希望ちゃんは残念! 私が慰めたげよー。 そだ、今井君に今度迫ってみよー」
「紗希ちゃんっ!」