第1823話 練習も大詰め
音フェスも2日後に迫り練習に励む亜美達。
☆亜美視点☆
5月26日金曜日。 音フェスはもう明後日と迫っています。 ギター合わせと歌の練習も大詰めだ。 奈々ちゃんはもう完璧そうだ。 渚ちゃんも先週もらったアドバイスを活かして上達している。 とくに問題は無いだろう。
問題は……。
「むぅん。 残り2割ぐらいー」
「間に合うの?」
「頑張るー」
麻美ちゃんである。 2週間前に演奏難易度を上げたのだが、その難易度の演奏は現時点で8割程の出来。 もう少しではあるのだが、今日明日で仕上がるかどうかは半々ぐらいの確率だろう。
「ここまで来たら前のに戻すのも嫌だもんねぇ」
「うむー」
という事で、今日明日はひたすら練習の予定だ。
ピロリン……
「ん?」
「グループチャットにメッセージね」
「あ、お姉ちゃんや」
「何々?」
『今日の夕方過ぎに皆でそっち行くさかい、夕飯よろしく』
「週末は練習休みみたいだからね」
「暇人ねー」
「多分音フェスを見る為に来るんだよ」
「なるほどね」
東京組にも音フェスに参加する話はしてあるからね。 多分早めにこっちに来て寛ごうという事だろう。
「夕飯って、今は『皆の家』にいるのマリアだけでしょ? 前田さんと宏太は仕事だし」
「まあ、他に誰かいるとは思うけど」
ただ夕飯を一緒に食べて帰るかは知らない。 遥ちゃんは基本的には旦那さんの待つ自宅に帰るし、他の皆も宴会でも無ければ夕飯前には帰ってしまうからねぇ。
「マリアちゃんに大丈夫か訊いておこう」
というわけで、グループチャットでマリアちゃんに確認を取ってみる。 すると、すぐに返事が帰ってきたよ。
『9人分は無理です。 助けてください』
との事だ。
「なはは。 1人でそれは無理ー」
「仕方ないねぇ。 練習は早めに切り上げて、夕飯の支度が間に合うように『皆の家』に行くよ」
「りょーかーい」
「仕方ないわね」
「まあ、ええでしょ」
「私はあっちで1人で練習続けるー」
麻美ちゃんはまだ全曲マスター出来ていないので、練習に集中してもらうよ。
「じゃあ、もうちょっとだけ合わせ練習するよ」
「おー!」
◆◇◆◇◆◇
夕方には練習を終えて、SOSを発信しているマリアちゃんを手伝うべく「皆の家」へ移動する。 夕ちゃんも連れて行き、希望ちゃんには夕飯は「皆の家」で食べると連絡を入れてある。
「可憐ちゃんまだかなー?」
「東京組が来る事の一番の楽しみは、やっぱり可憐ちゃんよね」
台所では、私と奈々ちゃんとマリアちゃんがせっせと夕飯の支度を進めている。 食べる人数が多くても簡単に量を作れる汁物をメインにするよ。
「今日は豚肉と白菜の煮物を作るよ」
「いつもの説明しながらのやつね」
「白菜と豚バラ肉、後はエノキなんかも切っていく。 量が多いからね。 手分けして切っていくよ」
「はい」
「任せなさい」
トントントン
「速い……」
「あんた1人でできるんじゃないの?」
「出来るわけないでしょ。 さ、早く早く」
既に白菜を切り終えて、2人が終わるを待つのである。
「テキパキだよ!」
「急かさないの」
「も、もう少しで終わります」
数分程で具材が準備出来たので、巨大寸胴に投入していく。
「てややや!」
「出汁と醤油とみりん持って来たわよ」
「ありがとう」
寸胴に出汁を投入し、ぐつぐつと煮込んでいくよ。
ぐつぐつ……
「一杯作らないといけない時は汁物に限るわね」
「ですね」
「カレーとかも良いよね」
後は灰汁を取りつつ、煮込み具合を確認。 程よく煮えてきたら、醤油とみりんで味を整えて。
「はい、完成ー」
「楽勝よね」
「助かりました」
「いつでも頼ってねぇ」
さて、まだ東京組は来ていないみたいなので、少し待つとするよ。
◆◇◆◇◆◇
19時前ぐらいに東京組がやって来たよ。 他には紗希ちゃんと奈央ちゃんもやって来ている。 宏ちゃんと前田さんは仕事から戻って来て、少しのんびりしている様子。
「まーう」
「おー、ハイハイが完璧だよ」
「掴まり立ちもするわよ」
「おー!」
「もう立てるのね」
「何かに掴まってへんと無理やけどな」
「ウチのてにつかまってたったんヤ!」
「そうなんですのね」
「きゃはは。 きょろきょろとしてて可愛いわね」
「何か動く物とかを目で追ったりするのが好きみたいだな」
「なるほど」
「まうー」
「きゃは。 私のおっぱいに興味津々じゃん」
「ママのより大きいですからね」
「きゃはは。 吸っても何も出ないぞー」
紗希ちゃんは可憐ちゃんを抱きかかえて「おー、よちよち」と頬擦りしている。 う、羨ましい。
「可憐ちゃん、私もよちよちしたいよ」
「手を叩いて呼べばそっち行きよるよ」
「なるほど!」
早速手拍子しながら可憐ちゃんの名前を呼んでみると、音に反応してこちらを振り向き、ハイハイでてちてちと近付いて来た。 その姿までもが愛らしい。
「まーま」
「そうだよ。 私がママだよ」
「違うでしょ」
「今から擦り込んでおくんだよ」
「やめてね?!」
宮下さんは本気で困っているようだ。
「おー、よちよち。 ほっぺた柔らかくてすべすべだねぇ」
すりすり……
「ところでや。 日曜日やろ、音楽フェスティバルいうの?」
「そうよ。 見に来るんでしょ?」
「その為に来ましタ」
「楽しみにしてるのよー?」
「なはは。 頑張りますー」
麻美ちゃんは相変わらず最後まで完璧に演奏しきれていない。 途中、とても激しくコードチェンジを繰り返す場所があり、そこでどうしても引っかかってしまうようだ。 夕飯の後で、私も練習に付き合うつもりではあるが、果たして本番までにマスター出来るだろうか?
「キャミィさんとミアさんって楽器出来たりするの?」
「できないでス」
ミアさんは楽器はやった事がないようだ。 趣味も絵を描く事らしいし、楽器には触れてこなかったみたいだ。 そしてそんな中もう1人の方はというと?
「ウチはバイオリン、ピアノ、ハープにオーボエ、ホルンにサックスにトランペットやったらできるデ」
「ほんまかいな?」
「ほんまやがナ」
「アメリカのキャンベルグループの令嬢なら、それくらいは出来ても不思議じゃないですわよ」
そういえばキャミィさんはアメリカではお嬢様なんだったねぇ。 すっかり忘れてたよ。
「ワハハ。 まあ、シュクジョのタシナミっちゃうやつヤ」
「な、なるほど」
キャミィさんは本当に謎である。 アメリカの実家ではどんな暮らしをしていたのやら、今の姿からはまったくもって想像もつかない。
「それより腹減った。 飯にしようぜ」
宏ちゃんの腹時計が鳴ったようなので、そろそろ夕飯にするよ。
◆◇◆◇◆◇
食後に麻美ちゃんの部屋へやって来た私は、麻美ちゃんのギターの練習に付き添う。
ジャンジャガジャガジャンジャガジャガ……
「ぬわー、また間違えたー」
「うん。 やっぱりこの場所がネックだね」
「リズムも速いし、コードがころころ変わるしで頭と指がこんがらがるー」
「こればかりは指で覚えるしかないからね。 反復だよ」
「りょーかーい!」
今日はとことん練習に付き合うよ。 頑張ろうね、麻美ちゃん。
麻美は間に合うのか?
「遥だぞ。 努力家の麻美なら何とかなるだろう」
「頑張れー」




