第1813話 書き始めよう
予定も無いという事で、いよいよ新作を書き始める事にした亜美。
☆亜美視点☆
5月11日の木曜日。 今日はこれといって予定も入っていないので、お仕事をしたいと思うよ。 夕方にはまたプールやトレーニングルームでトレーニングするから、それまでの時間でやるよ。
仕事というのは小説家音羽奏の方だ。 いよいよ新作に着手するよ。 内容は恋愛物。 ヒロインのモデルは奈々ちゃんだ。
「まずはプロットだねぇ。 サクサクと書いていくよ」
主な登場キャラクターは、主人公の女子、名前は夢野奈々子にしよう。 とても明るくクラスでも人気者のヒロインだ。 うん、奈々ちゃんモデルだし親近感湧くね。 男子キャラはどちらかというと、ちょっと暗い性格でいわゆる陰気臭いキャラにするよ。 いわゆるサブカルに傾倒したオタクと言われるようなタイプだ。
「名前は……とりあえず佐藤宏介(仮)で行こう」
我ながら安直なネーミングである。 話の筋としてはこうだ。
幼稚園の頃は仲の良かった奈々子と宏介。 よく一緒に遊んだりしていたのだが、中学に上がった頃ぐらいから、お互いの性格の違いから距離が出来てしまい、高校に上がると会話も無くなってしまうようになる。 片や学年カーストトップ組の奈々子と、学生カースト底辺の宏介。 そんな2人が再び仲良くなるまでの恋愛ストーリーである。 もちろん双方にライバルキャラを出現させ、一悶着起こさせる予定である。 奈々子に想いを寄せる陽キャ組のイケメン。 名前はそうだねぇ……朝日大地としよう。 それに対して、宏介に想いを寄せる陰キャ文学少女を夜月みなもと名付けよう。 この4人が主要登場人物となる。
「うんうん。 良い感じだね。 後は脇役なんかで人間関係の肉付けをして、大まかな話の流れを作っていこう」
カタカタ……
さて、そろそろ彼女が来そうな気がするよ。
「なは……」
「……」
来たようである。 私が部屋で仕事をしていると、何故か嗅ぎつけてやって来るのだ。
「なはは!」
「いらっしゃいアシスタントの麻美ちゃん」
「な、なぬ?! びっくりしないだとー?!」
「そろそろ来そうだと思ったからねぇ」
「読まれてたー?!」
「そうそう。 大体いつも軌道に乗って来た頃に麻美ちゃんが背後から現れるからね」
「なははー。 今は何してるのー?」
「プロットを打ってるんだよ」
「ふむふむ。 たしか恋愛物だよねー?」
「うん。 今回のは陽キャと陰キャの幼馴染のお話だよ」
「何か面白そー」
「まだプロットだから何とも言えないよ」
麻美ちゃんと話しながら、プロットを打つ手は止めない。 タイピングも早くなったものである。
「ヒロインの性格、お姉ちゃんみたいー」
「正に奈々ちゃんがモデルだよ」
「名前も奈々子になってるー。 男の子は宏介? 宏太兄ぃがモデルー? でも宏太兄ぃは陰キャじゃないかー」
「名前は仮だよ。 思いついたのを適当に入れただけ」
「そっかー。 アシスタントの出番あるー?」
「脇役の名前を考えてほしいかな? とりあえず4人分、男女2人ずつ」
「りょーかーい」
脇役はお互いの部活仲間とかで6人は出したい。 あとは本当のちょい役程度にするつもりだ。
◆◇◆◇◆◇
麻美ちゃんにお願いしていた4人分の名前を脇役に振り分けて、プロットは完成。 元からある程度頭の中で構築出来てたから、割とすぐに出来たねぇ。
「よし。 千夏さんに送信」
「お疲れ様ー」
「まあ、本番はこれでゴーサインが出た後だよ」
「たしかにー」
「麻美ちゃんはまだ新作書かないの?」
「うむー。 『時を越えて』の映画が終わってからかなー」
「そかそか。 撮影まだやってるのかな?」
「ゆりりんチャンネルでまだ撮影続いてるって言ってたよー」
ゆりりんチャンネルとは、ゆりりんが生配信している動画サイトのチャンネルだっけ? 忙しいのに情報発信とかやってるんだねぇ。
「映画公開されたら皆で観に行こうねぇ」
「うむ! 楽しみー!」
私は自分の作品を観るのは恥ずかしいんだけど、麻美ちゃんはそうでもないらしい。
◆◇◆◇◆◇
夕方だよ。
今日は筋トレ&プールトレーニングもあるのだ。 紗希ちゃんや麻美ちゃんと一緒にトレーニングだよ。 まずは器具を使った筋トレからだ。
「んんしょ! んんしょ!」
「亜美ちゃん、かなり力ついたんじゃない?」
「かなぁ?」
「普通に10回3セット出来るようになってるー」
「まあ、負荷はまだ最低重量だけどねぇ」
「それでもかなりの進歩でしょ?」
「そだねぇ」
最近のトレーニングのおかげで、多少は筋力アップしたようだ。 このままもっとパワーアップして、スパイクの威力を上げるよ。
「お、やってるわね」
「あ、奈々ちゃんやほほ」
奈々ちゃんは今日からプールトレーニングに合流する事にしたらしい。 この後でプールトレーニングがあるからね。
「奈々美もジャンプ力強化?」
「そうね。 パワーは十分だからあとは高さが伴えばって思ってね」
「守備面の強化は?」
「攻撃あるのみ!」
「な、なはは。 お姉ちゃんらしい」
「ま、良いじゃん。 守りは希望ちゃんに新田さん、それに亜美ちゃん、弥生、マリアがいるし」
「そうだけどさぁ」
「攻撃は最大の防御よ!」
「まあ、そうとも言うけど……攻守交代制のスポーツであるバレーボールにおいて、それはどうなんだろうね」
奈々ちゃんはとにかく攻めを強化したいのだとか。 本当にゴリラなんだから。
◆◇◆◇◆◇
という事で奈々ちゃん、それとお仕事から帰ってきた遥ちゃんも加えてプールトレーニングを開始。 いつも通りのメニューをこなしていくよ。
「1、2、3」
水中から水面に飛び出るイメージで、片足ジャンプを繰り返す。 バランスも取りながらなので、これが意外と難しい。
「あ、あんた達、こんなハードな事やってたのね?」
「なはは。 結構足に来るー」
「亜美ちゃんが筋肉痛で呻き声を上げるのも納得でしょ?」
「た、たしかに」
初参加の奈々ちゃんは、このプールトレーニングのハードさに驚いたようだ。 これは奈々ちゃんも明日筋肉痛だねぇ。
「よーし、休憩ー!」
「ふぅ……」
片足ジャンプ左右3セットを終えて一旦休憩に入る。 スマホに着信が無いかだけ確認すると。
「あ、千夏さんからメールが来てるや」
「おー。 プロットに対しての反応?」
「うん。 えっと、音羽奏の恋愛小説は読者皆が待っている物。 是非これを良い作品にしましょう! だって」
「ゴーサイン出たー」
「だね。 これからは執筆作業もやらないと」
「亜美ちゃん、大忙しね」
「あはは」
まずは奈央ちゃんに話して、秘書業務の量を減らしてもらうところからだね。 バレーボールと執筆の優先度を上げるよ。
「三足の草鞋は履き過ぎよねーん。 亜美ちゃんだから何だかんだでこなしちゃうんだろうけどさー」
「ま、あんま無理しないようにしなさい」
「わかってるよ」
さあ! 色々と頑張るよ!
ゴーサインも出て本格執筆開始。
「希望です。 また缶詰になるのぅ?」
「そこまではしないよ……」