第1807話 素潜り
時間は夜になり、皆別荘内に移動しているようだ。
☆奈々美視点☆
夕飯を食べ終えた私達は、辺りも暗くなってきたところで屋内へと入り、ゆっくり過ごす事に。 電気が来ていない為、明かりはカンテラによるもののみ。 娯楽の類も無いので、基本的には駄弁るのみ。
「どないでしょうか?」
「ふうむ。 こりゃ連れて来たのは失敗だったかもな。 日数的にいつ出産が始まってもおかしくない」
アテナの話ね。 アテナは現在妊娠中で、もう既に出産が始まってもおかしくはない時期との事。
「こないなとこで始まっても大丈夫なんやろか?」
「まあ、若い母親なら問題無いだろうが、アテナは8歳だからな。 何かあったら危ないかもしれん」
「せめてあと2日保ってくれればいいんだが」
そればかりはわからないとの事。 当のアテナはまだ元気に歩き回っていたりする。
「奈央。 やっぱりいきなりだとこういう事もあるから、もっと事前に計画は話したほうが良いわよん」
「も、猛省しています……」
「ま、まあ奈央ちゃんに悪気は無いんだし、あまり言わないであげようよ」
「わかってるわよ」
「とにかく、明日1日と明後日帰るまではアテナの様子をちゃんと見ておかないとな。 月島妹は明日は作業しなくていいから、アテナと可憐ちゃんのお守り係を頼む」
「わかりました」
「私も可憐ちゃん見守り隊に参加したいよ!」
「亜美っちは食事係と火の番ー」
「あぅ」
亜美は可憐ちゃんが本当に好きね。 まあ、私もだけど。 その可憐ちゃんはというと、簡易ベッドですやすやと眠っている。 今日何度か自分だけで座ったりしている姿や、ハイハイのような動きを見せていた。 何ともまあ成長の早い事。
「さて、麻美、亜美ちゃん、紗希。 トレーニングの時間だぜ」
「なは?」
「ト、トレーニング?」
「きゃはは。 今からやんの?」
「今からやんだよ。 砂浜があっただろ? 砂浜トレーニングやんぞ」
遥の奴、無人島に来てまでトレーニングとか頭はどうなってんのかしら? 結局、亜美達は渋々ながらも遥と外へ出て行った。
「だ、大丈夫なわけ? 夜出歩いても?」
「大丈夫だとは思いますわよ。 猛獣の類は確認されてないし」
それなら安心! ってなるわけもあらずだけど、まあ何かあったら逃げてくるでしょ。
「すぴー……すぴー……」
「希望はブレねぇな」
「どこでも寝れるんやな……」
「さすが雪村先輩です!」
新田さんの希望崇拝も極まってきたわね。 希望が寝てるだけで興奮してるわ。
「奈央。 明日も今日のグループでやんの?」
「適材適所ですわ。 いじる必要無いでしょ」
「やな。 明日はウチ、釣りやのうて魚突きやるわ」
「そんなこと出来るんですの?」
「やったことはあらへんけど」
「うわはは! 私はあるわよ!」
宮下さんが笑いながら偉そうに胸を張る。 宮下さん、どんな幼少期を過ごしていたのかしら? 新田さん曰く「美智香姉は猿で河童」との事。 謎だわ。
「じゃあ、宮下さんは明日漁に出る?」
「亜美と紗希に断りを入れなくていいわけ?」
「それもそうね……」
宮下さんの代わりに食事係りに入る人を探さないとダメそうね。
◆◇◆◇◆◇
「もうダメだよ……明日筋肉痛だよ」
「亜美姉、いつもそれー」
「きゃはは」
「お疲れさん」
砂浜トレーニングとやらに出ていたメンバーが戻ってきた。 亜美は犬のように四つん這いで移動している。 どんなトレーニングやってんのよ……。
「亜美ちゃん、紗希。 ちょっとお話が」
「んん?」
「何よ?」
「明日なんだけど、宮下さんを食料調達組にしようと思うんだけど」
「え? 何で?」
「明日は素潜りで魚突きをやるっちゅう話になってなぁ。 美智香が経験者らしいから一緒にやってもらお思うて」
「す、素潜り……海女さんかな?」
「うわはは」
亜美と紗希は2人で話し合い、「代わりに誰か1人食事係りに来てくれるなら」と返事をした。 林の食料調達があまり期待出来ない事から、そちらへ行っていたマリアが食事係へ入ることで解決したようよ。
「でも大丈夫? 潮の流れとか」
「だいじょぶだいじょぶ」
と、宮下さんは自信満々。 多分色々と知識を持っているのね。
「じゃあ明日はその予定で動きましょ」
「らじゃだよ」
「さて。 やる事無いしもう寝ましょ」
「おやすみー」
こうして初日の夜は更けていくのであった。
◆◇◆◇◆◇
☆弥生視点☆
翌日やよ。 今日は予定通り美智香と2人で素潜りや。 一応サバイバルアイテムとして銛を持って来てあるよ。 美智香は海で魚を突いたりした経験もあるみたいやで。
「ポイントはどないするんや?」
「今、海岸をぐるっと見て回ってるとこよ」
「やっぱりどんなとこでもええってわけやないんやな」
「うむ。 まず離岸流は避ける」
「離岸流についてはウチも知っとるけど、避けられるもんなんか?」
「離岸流には見分け方があるのさ。 この辺りだとあそこからここまで、大体幅15mくらいの離岸流よ」
「ほぇー」
「波が割れて形が他と違うっしょ? それに海の色も周りと違う」
「い、言われなわからへんで」
「地形的にもこの辺は離岸流が出来やすいみたいだから、ここはダメ」
「た、頼りなるやん」
そんな美智香の蘊蓄を聞きながら、ようやく潜れそうなポイントに到着。
「さて。 これから潜るんだけど、2人同時には潜らないように」
「何でや? 一緒に潜る方が効率ええやん」
「もし同時に意識失ったらどうするのよ? 海ナメてたら死ぬわよ」
「うっ」
「何かあった時の為にどっちか1人は水面にいるべし」
「了解や」
「あと、潜る時間を決めとくべし。 潜り始めてから1分。 1分以内に水面に上がって来なかったらもう一人が救助に動く。 OK?」
「了解」
言うだけあってしっかりしとるな。 決して海をナメてへん。
「ほい、これ持って」
「何やこれ?」
「ペットボトルで作った箱メガネよ。 これをこうやって水面につけて覗くと」
「ほう。 潜らんでも水中がくっきり見えよる」
「まずはこれで獲物を探すわよー」
「なるほどや」
「ま、あまり深いとこは見えないけど」
「しゃあないやろ」
「おっ、いるいる」
「おー。 あれは……」
「イシダイですな」
「どっちがやる?」
「まずは私がやるわ。 見てて」
「了解や」
美智香は銛を握り、静かに潜水を開始。 ここから1分やな。 ペットボトルメガネで美智香の漁風景を観察や。 岩陰に隠れたイシダイにゆっくり近付いて銛を構えて狙いを定める。 握ったゴムから指を抜く。 その反動で銛は獲物に向かって突かれる。
「おお」
海中でおけまるサインを出した美智香。 その美智香が手に持つ銛の先には、しっかりとイシダイが突き刺さっていた。
「ぷはーっ! まあ、こんな感じ」
「なるほどやな」
「最初は難しいけど、慣れたら出来るようになるわ」
「あんさん、なんでこないな事出来るんや?」
「うちの田舎が本当に田舎でね。 海と山と川が遊び場だったのよ」
ほんま変わった特技持っとるなぁ。 さて、ウチも挑戦してみよか!
素潜りで魚を突く宮下。 サバイバル能力が高いらしい。
「奈々美よ。 本当に河童なのね」
「猿でもあるらしいよ」




