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第1775話 誰が一番?

本日は(セッター)の練習におじゃましている亜美とマリア。

 ☆亜美視点☆


 4日目だよ。 私とマリアちゃんは(セッター)の練習に合流。 (セッター)は基本的にOH(アウトサイドヒッター)と一緒に練習している。


「やほほ」

「どうも」

「あら。 今日はこっちなんですね」

「だよ」


 (セッター)のメンバーは奈央ちゃん、眞鍋先輩、黛志乃さん、冴木さんにベテランの人の5名だ。 冴木さんは代表初参加という事だけど大丈夫だろうか?


「冴木さんはどう? 慣れた?」

「は、はあ。 練習には慣れたんですが、雰囲気には中々」

「雰囲気?」

「や、やっぱり私はちょっと場違いというか実力が伴わないっていうか」

「いやいや。 冴木さんだって高校時代は月ノ木の正(セッター)として全国優勝経験してるし、実力はあるよ。 自信持とう」

「そうですよ冴木さん。 冴木さんは私の頼れる相棒です。 冴木さんのトスが私には一番合っています」

「マリア……ありがとう」

「大体、実力があらへんような選手やったらこの場には呼ばれてへんて。 あんさんは日本の(セッター)の上澄みや」

「そうどす。 冴木はんは十分日本代表(セッター)に相応しいプレーヤーや」


 他の(セッター)のメンバーからも認められて、冴木さんも少しは自信が持てたらしく「頑張ります!」と気合をみなぎらせていた。


「冴木さんには私が直々に稽古をつけますわ」

「西條先輩、お願いします!」

「うんうん。 さて、私達も(セッター)の練習だよ。 そこまで出番あるかと言われると微妙ではあるけどねぇ」

「セカンドセッターは必要や。 ウチら正(セッター)がトスに行けへん状況は少なからずあるもんやからな。 そん時は頼みまっせ」

「わかったよ」

「はい」


 (セッター)の練習はひたすらにアタッカーさんにトスを上げる事だよ。 地味だけど、各アタッカーさんに合わせたトスをしっかりと供給することが大事だ。 アタッカーさんによって打ちやすいボールっていうのがあるからね。 そういうの完璧に把握して、寸分の狂いも無くトスを上げられるのが奈央ちゃんである。


「そぉい」

「ナイストスやで西條さんっ!」


 パァンッ!


「ふぅ。 やっぱ西條さんのトスは打ちやすいで」

「そうか? ウチは志乃のトスの方が打ちやすいで?」

「そらウチらは姉妹やもん。 姉ちゃんの得意な高さとか微妙な癖とか全部知っとるし」

「まあ、相性みたいなものは少なからずありますわよ。 さっきマリアも冴木さんのトスが一番だと言ってたようにね」

「なるほどねぇ」

「私はやっぱ奈央のトスかしらね。 きゃはは」


 相性か。 私は誰と相性良いのかな? やっぱり奈々ちゃんかな?


「よーし! 奈々ちゃん、トスいくよぉ!」

「お願い」

「てやっ」


 奈々ちゃんに向けてトスを上げる。 奈々ちゃんはそれを見て助走を開始。


「はっ!」


 パァンッ!


「ナイススパイクだよー」

「ふぅ。 ブロックいないとイマイチ燃えないわね」

「たしかに」

「ねね、奈々ちゃん! 私のトスが一番打ちやすい?」


 とりあえず訊いてみると。


「別に一番って事はないかしらね。 やっぱ奈央のトスが一番よ」

「2度と奈々ちゃんにはトス上げないよ」

「何でよ……」

「清水さんのトスはさ、誰でも普通に打ちやすいトスなのよね」

「そやな。 癖もあらへんし変な回転も掛かってへんし」

「綺麗なトスってやつよん。 誰かにとって一番ってわけじゃなくて、皆にとって三番目ぐらいの良いトスよん」

「皆がそれなりに打ちやすいって事?」

「そそ」

「そっかぁ」

「で、私にはトス上げてくれるわけ?」

「しょうがないねぇ。 三番目に打ちやすいトスで良かったら」

「ま、妥協しましょ」


 むぅ。 まあ、本職ではないし仕方ないか。


「マリアのトスはどうなんでしょう?」


 冴木さんが訊くも、あまりマリアちゃんのトスをスパイクした経験の無い皆からは「わからない」としか返ってこない。 じゃあ試しにという事で、マリアちゃんが皆に対して順番にトスを上げていく。 アタッカーが3順ぐらいしたところで皆の評価を聞いてみると。


「まあまあええやんか。 ウチは打ちやすかったで」

「そうねー。 私も好きな感じだったかな」

「私もね。 私はもうちょい高くても良かったけど」

「比較的皆からも高評価だねぇ。 凄いよマリアちゃん」

「ありがとうございます」

「ふむ。 マリアは私に良く似たタイプみたいですわね」

「奈央ちゃんに似たタイプ?」

「ええ。 相手の癖とか得意な高さとか、そういうのを感覚的にわかっちゃうタイプね。 私はそこに完璧な精度まで備えてるから、毎回同じトスを上げられるけど、マリアはまだそこまでには至らない感じですわ」

「へー、マリア凄いじゃん」

「本職やないのにやるやん。 (セッター)としては亜美ちゃんより上ちゃう?」

「ほ、本当ですか?」

「本当本当。 私もそう思うわよ」


 皆、やたらにマリアちゃんを褒めているよ。 そんなに良いトスを上げるんだねぇ。


「清水先輩に勝ちました……」

「いやいや、本職はOH(アウトサイドヒッター)だよねぇ?」

「それはそれ、これはこれです」

「きゃはは! 良かったじゃんマリア」

「はい」

「なんだかなぁだよ」



 ◆◇◆◇◆◇



 この日はとにかくトスの練習をひたすらに続けたよ。 私も奈央ちゃんやマリアちゃんに倣って、アタッカーさん毎に打ちやすいトスを意識してみたけど、どうやら私には無理なようだ。 一部の天才が持つ「感覚」というものは、私には備わってないのだろう。


「まあ、亜美ちゃんにはその代わりに、天性の身体能力と頭脳が備わってるじゃありませんの」

「天才にも色々いるもんや。 藍沢妹みたいな感覚派のようわからん天才もおるし、亜美ちゃんみたいなオールハイスペック人間みたいな天才もおる」

「亜美の凄い事は、あらゆるプレーを超一流レベルでこなせる事よ。 一つの分野で一番じゃなくても全ての分野で二番や三番を取れる方が凄いわよ」

「何か自己肯定感が高まるねぇ。 もっとそういうのちょうだいよ」

「あまり調子に乗らない」

「あぅ」


 というわけで、4日目の練習は終了。 冴木さんは奈央ちゃんに直接師事して特訓を行っていたようだ。 奈央ちゃん曰く、冴木さんも奈央ちゃんやマリアちゃんに似たタイプだと言う。 基礎や技術はしっかりしているから、精度をもっと高めれば同時高速連携のトスも物に出来るはずだとの事。 奈央ちゃんの(セッター)の素質を見抜く目は本物だと思うし、冴木さんには期待大である。



 ◆◇◆◇◆◇



 というわけでお風呂だよ。


「明日は(リベロ)の練習ですか?」

「そだねぇ」

(リベロ)は中々にハードだよぅ」

「みたいね」


 明日の練習もハードになりそうだ。 ただ、私とマリアちゃんが、一番役割として回ってくるのがこの(リベロ)というポジションだ。 正(リベロ)は前衛になるとコートから出ちゃうからね。 その代わりに私とマリアちゃんが守備に回るのだ。 明日の練習はいつもより頑張らないとだよ。

亜美のトスは誰にでも合う。


「希望だよぅ。 私のトスなんてめちゃくちゃ打ちにくいと思うよぅ」

「たまには練習しようね」

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