第1773話 次のエースは?
代表合唱2日目開始。
☆亜美視点☆
日本代表強化合宿2日目だよ。 アルテミスドームに集まった選手一同は各ポジションに分かれ練習を行っている。
「あれ? マリアちゃんはOHの練習行かないの?」
「私は今回も清水先輩と同じユーティリティなので」
「でも、それだとエース争いから離脱しちゃわない? 大丈夫なの?」
「清水先輩を目指すなら、拘るべきはエースではなくユーティリティですから」
「あ、あはは。 なるほど」
エースより私のポジションを狙ってるってことか。 まあ、マリアちゃんがそれで良いなら私からは何も言う事は無いね。
「じゃあまずは、エース争いが気になるOHの練習に合流しよう」
「わかりました」
私達ユーティリティの練習は、色々なポジションの練習に混ざって行うのだ。 私とマリアちゃんに期待されているプレーとは、状況に応じて各ポジションのプレーに切り替え、臨機応変に動く事だからね。 あらゆるポジションの練習が必要なのである。
「やほほ。 エース争い熾烈だねぇ!」
「おじゃまします」
とりあえずOHの練習に参加だよ。
「おー、亜美ちゃんにマリアかいな。 今日はこっちの練習かいな」
「うん。 エース争いを見守りながらOHの練習をやるよ」
パァンッ!
「よし! 粉砕!」
「藍沢ー。 ワシが手作りしたブロックボード壊すなー」
「脆すぎるのよ……」
「ダンボール1枚やとなぁ」
「あのおっさん、工作の才能皆無やろ」
「あ、あはは……」
OHの練習は、基本的にはSやMBと一緒になって練習する事になる。 が、現在MBの皆は機械を使って鬼の練習中。 なので、今は監督が自作したダンボール製のボードをブロッカーに見立てて練習しているようだよ。
「奈々ちゃんのパワーで打ったらねぇ」
「亜美、マリア、あんた達ブロックに入りなさいよ」
「え……」
「私達はOHの練習に来たんだけど」
「そやけど、あんなゴミみたいな板やと練習にならんのや」
「黛姉ー! ゴミとか言うなー」
「……ゴミみたいなもんやろこれ」
「あはは……しょうがないねぇ。 じゃあ私がブロックに入るよ」
「では私も」
「マリアちゃんはアタッカーの方に居て良いよ」
「そ、そうですか」
「うん。 さぁさぁ、この私がエースに相応しいのは誰か見極めてあげるよ! 順番に来たまえだよ!」
「ほなウチからいかせてもらうでぇ」
「どんどん来なさーい」
というわけで、皆のスパイクを受けていくよぉ!
パァンッ!
「てやや!」
パァンッ!
「てやや!」
パァンッ!
「てーややー!」
◆◇◆◇◆◇
皆のスパイクを順番に受けて感触を確かめる。 天堂さん、神園さんのスパイクに関しては初めてブロックで受けたけど、なるほど中々の逸材である。 佐伯さんは高校時代に比べてかなりレベルアップしているよ。 他の皆も相変わらず化け物揃いだね。
「どうだった?」
「うーん。 私目線だと宮下さんかなぁ」
「うわはは! チミ達、シーズン全休で育児中の選手にも劣るのかね!」
「ぐ、ぐぬぬ」
「宮下さんからはあまりブランクを感じなかったよ。 凄いと思うよ」
「うわはははは!」
「まあ、宮下さんにやったら負けてもしゃーないやろ。 月島に負けるんは嫌やけどな!」
「黛梨乃さんもやっぱりレベルは高いよ。 妹さんとセットに捉えられがちだけど、単体としても日本トップクラスだねぇ」
「清水さん。 あんたはようわかっとる」
「亜美ちゃん、誰にでも甘い評価しとったらあかんで」
「いやいや、正直な評価だよ」
「あの、私はどうでしたか?」
「マリアちゃんはねぇ、技術は申し分無しだよ。 もう少しパワーを意識すれば一皮剥けると思うよ」
「パワーですか。 ありがとうございます」
「わ、私の方はどうでしたか?」
と、次々と若手から評価とアドバイスを求められる事になったよ。 日本代表が強くなる為だし、私もちゃんとアドバイスを返していくよ。
「天堂さんはバランスが良くて非常に良きだよ。 ただもうちょっとブロックとの駆け引きを覚えた方が良いぐらいかな。 神園さんはパワーに引き摺られてる感じかなぁ? コースの打ち分けを意識しよう」
「はい!」
「ありがとうございます!」
「2人共レベルの方は申し分無しだからね。 頑張って!」
「頑張ります!」
2人共素直な良い子達だねぇ。 この2人はこれからもお互い切磋琢磨して強くなる事だろう。
「他の皆は言わずもがなだよ。 和香ちゃんもやっぱり凄いしね」
「はーっははっ。 でしょでしょ」
「うんうん。 万年私達に負けっぱなしだったけど、個人レベルでは全国区だっただけはあるよ」
「何か腹立つわね。 で、私はエースにはなれそう?」
「可能性は十分にあるよ」
「うし、やったるわよ」
うんうん。 やる気になる事は良い事だよ。
「皆、自分に何が足りないかとか、どうした方が良いかを知りたい時は前田さんに聞いてみると良いよ」
「そやな。 前田さんは皆のデータをしっかりと取ったはるから、的確なアドバイスくれはるよ」
「わかりました」
さて私もOHの練習に参加する為に、マリアちゃんとブロックを交替するよ。
「さて。 全力で跳ぶからねぇ」
「え、全力の先輩なんて止められませんが?」
「頑張ってねぇ」
というわけで、次は私がスパイクだよ。 冴木さんがトスを上げてくれるようだ。
「いきますよー」
「どぞー」
冴木さんの合図でトスが上がる。 私もタイミングを取って助走に入り、跳ぶ!
「てやや!」
パァンッ!
私のスパイクの打点はマリアちゃんのブロックの遥か上。 余裕で打ち抜いていくよ。
「ふぅ。 気持ちいいねぇ」
「で、でしょうね」
「だはは。 相変わらず高いなぁ、あんさんは」
「ていうか、また高くなってない?」
「まさかだよ。 351より高くなったらもうそれは化け物だよ。 私は人間だからね」
「誰かマグネシウム粉持って来てんかー」
「うわわ。 測る流れだよ」
「どうせ近い内に測るんだから別に良いっしょ」
というわけで、指高測定をすることになったよ。 仕方ないねぇ。
「ささ、どうぞ」
「そんな簡単に自己ベスト更新なんか出来るわけ」
と、軽い気持ちで助走して跳んでみる。
「てや!」
トンッ……
「よいしょ。 どうかな?」
「測るわよん」
紗希ちゃんがメジャーを持ってきて高さを測ると。
「355!」
「化け物じゃない……あんた400でも目指してんの?」
「う、うーん」
ま、まさかまた伸びているのは。 私の身体どうなってるのかな?
「とりあえずおっさんに伝えとくで。 ひっくり返るんちゃうか?」
「ど、どうだろうねぇ」
そろそろ私も自分が人間なのかどうか怪しんでいるよ。 合唱はまだまだ続くよ。
亜美の跳躍力はまた上がっているようだ。
「亜美だよ。 ま、まさかまさかだよ」
「亜美ちゃん、何処へ向かってるのぅ?」




