第1771話 アテナの検査
奈央達の式の翌日である。
☆渚視点☆
西條先輩と北上……あーいや、あの人も西條にならはったんやったっけ。 西條夫妻の式と披露宴の翌日。 私はアテナを連れてペットショップへと向かっていた。
「妊娠してるといいねぇ」
「はい」
「アテナ、どないやぁ? 腹に子供おるかー?」
「わふー?」
「あはは。 ハルトも気になるね」
「わん?」
清水先輩が車を出してくれはったから助かるわ。 天堂さんとハルト君、それにお姉ちゃんもついてきとるわ。
「にしても亜美ちゃんの運転、丁寧やなぁ」
「ですよね」
「安全運転だよ」
「まあ、大事な事や」
「お姉ちゃんとキャミィ先輩とミアさんていつまでこっちおらはるん?」
ちなみに三山夫妻と新田さんは今朝帰りはった。 可憐ちゃんが心配やから早よ帰ったみたいや。
「明日には帰るよ。 明後日ファイナルやからな」
「ファイナルって優勝決定戦?」
「そや。 今年もホワイトフォックスが相手や。 ほんまあの姉妹厄介やで」
「黛姉妹、やっぱり強いよね」
「そこに神園も入りよったからなぁ」
「神園さん! 来シーズンは遂にVリーグの舞台で勝負出来るんですね!」
「そやった。 Vリーグではまだ天神対決やれてへんのやな」
天神対決っていうのは、天堂さんと神園さんが高校時代にライバルやった事から付いたキャッチコピーやな。 2人は月ノ木学園と京都立華のエースやったからかなり騒がれた対決や。
「ちなみにウチと亜美ちゃんの対決には月姫激突とかいうキャッチコピー付いてたんやで」
「恥ずかしいねぇ!」
「ほんま。 やめて欲しいで。 巷では亜美ちゃんがVリーグに参戦するいう噂が流れとって、月姫激突再び! みたいに騒がれとるらしいで」
「え、えぇ……知らなかったよ」
この2人はほんま凄い試合しはるからなぁ。 バレーボールファンやったらまた見てみたいと思うんもわかるわ。
◆◇◆◇◆◇
ペットショップに到着や。
「いらっしゃいませー」
「うん。 安定の入り口前田さんだよ」
「あ、あはは。 たまたまですー」
もはや誰も信じへんレベルで毎回出入り口付近におらはるな。
さて、ペットショップに着いたって事で、私はアテナと一緒に獣医施設へ行くで。 他の皆は適当に店内を見て回った後、併設されとるペット同伴可能なカフェに移動して待ってくれはるみたいや。
「アテナ、ちょっと大人しく待ってよなぁ」
「わふ」
ビーフジャーキーで上手い事釣りながら、呼ばれるのを待つ事15分。
「月島アテナさん、どうぞ」
「よしゃ。 行くよアテナ」
「わふ」
呼んでやると、私の膝の上に乗り大人しく抱きかかえられるアテナ。 お利口なやっちゃ。
診察室に入り、腹部検査やら何やらようわからん検査をやってはる。 西條グループの技術の粋を集めた機械やらも飛び出す始末や。
「ふむ」
「ど、どないでしょう?」
「無事妊娠している事が確認出来ましたよ。 ただまだ何匹いるかとか、そういうのがわかる段階ではないのでね。 大体3週間後ぐらいにまた来てください」
「わ、わかりました。 やったなアテナ!」
「わふ」
「天堂さんにもええ報告出来るで」
早速カフェに行って天堂さんにも教えたらな。
「検査費用8840円になりますー」
「……け、結構しはりますね」
「最新機器を使用していますので」
「は、はぁ」
しゃーない。 これぐらいは払ったらぁ。
「お大事にー」
「うぅ……仕送りだけやと辛いなぁ。 私もバイトしよかいな……」
◆◇◆◇◆◇
カフェへ移動して天堂さん達と合流。 清水先輩は相変わらずパフェをパクパクと食うてはった。 マロンとメロンも何やらおやつをもろたみたいやな。
「おー、渚。 アテナどないやったん?」
「無事妊娠確認出来たで」
「おお! ハルト、良かったね!」
「わふん!」
「わふー」
「あはは。 2匹とも喜んでるみたいだねぇ。 んむんむ。 帰ったら宏ちゃんに色々と質問してみると良いよ」
「ですね。 わからん事だらけやし」
「宏ちゃんさんとは?」
「ウチらの友人や。 さっきのペットショップで働いたはるんよ。 動物に詳しいからペットの事で何や聞きたい事あったら、その人に聞いたらええわ」
「そうなんですね」
「んむ。 ご馳走様だよ。 ちょっと休憩したら車に乗り込むよ」
「そやな」
「天堂さんはどないしはる? 先に家まで送る?」
「お願いします」
「らじゃだよー」
天堂さんは市内に住んだはるから、私達と「皆の家」について来たらまた戻って来なあかんからな。
「と、その前に役所に寄らせてもらうよ」
「役所? 何か用事かいな?」
「うん。 婚姻届もらってくるよ」
「おー。 亜美ちゃんもいよいよやな」
「うん。 いよいよだよ」
清水先輩と今井先輩は、4月中頃ぐらいに入籍しはるみたいや。 その準備を始めるみたいやな。
「渚、今のうちやで? 今井君に甘えられるんわ」
「もうええて。 私は今井先輩の事はもう吹っ切れとるから。 麻美とはちゃうよ」
「だはは。 さよか」
「麻美先輩は今井大先輩が好きなんですか?」
「だ、大先輩ねぇ。 まあ、麻美ちゃんは小さな頃から夕ちゃん一筋だよ。 麻美ちゃんの夕ちゃんへの愛の深さは凄いんだよ。 私も敵わないねぇ」
と、清水先輩でも麻美に敵わん事があるらしい。 それでも今井先輩と結ばれる事が出来たんやから、やっぱり凄い人や。
「よし、じゃあ行こう」
「はい」
清水先輩の合図で席を立ち、カフェを出て車へ。 会計を聞いてたら、どうやら清水先輩はパフェを2杯食べはったらしい事がわかった。 好き過ぎやろ。
◆◇◆◇◆◇
「渚ちゃん、次の検査はいつ頃?」
「たしか3週後です。 そんくらい経てば、腹の中の子供の数とかわかるようになるみたいなんで」
「そかそか。 手が空いてたらまた車出してあげるよ」
「ありがとうございます」
「あ、清水先輩。 その交差点を右でお願いします」
「らじゃだよ。 右折レーンに入りまーす」
先に天堂さんを家まで送る。 天堂さんのナビで、10分程走ると、中々立派な一軒家が姿を現した。
「え、天堂さんのお家、大きいねぇ?」
「立派な庭付きの一戸建てやん。 一人暮らしやろ?」
「いえ。 ここは祖父母の家でして」
「あー、そうなんだね」
実家よりこっちの方がアルテミスドームから近いからっていうんで、祖父母の家に世話になっとるらしい。 いずれは稼いで一人暮らしするつもりみたいやよ。 私はいつまで藍沢姉妹の家に世話になるんやろなぁ。 いずれは出る事も視野に入れとかんと。 麻美がまた怒りよるかもしれんけどな。
◆◇◆◇◆◇
役所へ行き、清水先輩の予定も済んでから「皆の家」へと向かう。
「ほぉー。 婚姻届てこんなんなんやな」
「これはテンプレ形だね。 市町村によってはオリジナルデザインの用紙もあるみたいだよ」
「へぇ」
「お姉ちゃんも今の内に書き方覚えた方がええんとちゃう?」
「まだ早いわ」
「あはは。 武下君ならきっと知ってるよ」
「まだ武下君やて決まったわけやないやろ……」
「決まってないの?!」
「お姉ちゃん、それはちょっとどうか思うで」
「何があるやわからへんやん」
「まるで宏ちゃんみたいな事言ってるよ……面倒臭い性格だねぇ」
「やかましわい!」
婚姻届か。 私にはまだまだ先の話やなぁ。 まず新しい恋を探さんと何も始まらんわ。
渚も前に進もうとしているようだ。
「遥だ。 渚はモテるだろう?」
「モテてもええ人がおらんと」




