第174話 映画観賞会
約束の映画鑑賞会が始まる。
紗希が持ってきた恋愛映画を観ることに
☆夕也視点☆
ただいま、我が家のリビングは超満員になっている。
部屋内の人数なんと10人。
過去最高の観客動員数をマークしている。
今日は皆で映画観賞に集まっている。
「んじゃ、まずは私が持ってきたやつね」
映画は2本。 紗希ちゃんと奈央ちゃんが持ってきてくれた。
最初は紗希ちゃんが持ってきた映画を観ることに。
「じゃーん!」
「おおー! それ映画になってたんだー」
亜美が反応する。
どうやら亜美が贔屓にしている作家さんの小説が映画化された物らしい。
亜美は知らなかったようだ
紗希ちゃんがディスクをプレーヤーに挿れて自動再生が始まる。
タイトルは「約束」というものらしい。
亜美が読む小説だから、おそらく恋愛物だろう。
女子のチョイスだな。
亜美は早くもハンカチの準備をしている。
物語は主人公の男の子と女の子が小さな子供の頃の話から始まる。
男の子を楠樹、女の子を橋永祐美といううらしい。
産まれてから、小学校に上がる前までずっと一緒に育ってきた幼馴染であったが、小学校に上がってすぐ樹が遠くの町へと引っ越してしまう。
「いつきくん、遠くへ行っちゃうの?」
「うん……」
「もう、いっしょに遊べないの?」
「……きっと、また帰ってくるよ! いつかゼッタイ!」
「うん……約束」
「うん、約束だ!」
「約束、もう一つおぼえてる?」
「もちろん! ゆみちゃんをおよめさんにする!」
2人は2つの約束をして別れた。
「うぅ……」
亜美は既に泣き始めている。
おいおい、本で読んで先を知っているとはいえ、まだ導入部分だぞ。
というか、女子は皆すでにウルウルきている。
映画は、樹が高校生となったところまで時間が飛んだ。
どうやら高校生になるまで祐美と再会する事は出来ていないらしい。
そんな中、高校の夏休みを利用して祐美に会いに行くことにした樹。
懐かしい街に戻ってきて、記憶を頼りに街を歩いていると。
「祐美……ちゃん?」
「え?」
「僕だよ! 樹だよ」
「樹……君?」
祐美はまだその街に住んでおり、偶然にも再会した。
色々とな懐かしい話をしていたのだが、そこで祐美には恋人がいるという事がわかる。
ふうむ……まぁ、子供の頃にした約束だし、そこまで拘束力のあるものじゃないからな。
仕方ない事だとは思うが。
樹はその話を聞いて、落ち込みはしたものの応援する。
ただ、少し祐美の様子が気がかりになる。
うーん彼氏と何かあるんだろうか? 先に進めばわかるか。
2人は連絡先を交換して、別れる。
その後は、ちょこちょこと近況を連絡し合うような形で時間は過ぎる。
高校3年。 受験する大学を産まれた街にある大学にした樹。
むう、未練があるのか? 祐美は特に何も言わないようだ。
しかし祐美の方は恋人と上手くいっているのだろうか? その辺りの描写は隠されていて把握できない。
受験シーズンに入り、樹はまた祐美のいる街へ戻ってきた。
ただ2人は会ったりする事は無く、あくまで連絡のやり取りのみに留めていた。
そんな中ふと気になった樹が、祐美に恋人の事を訊ねた。
すると──。
「……亡くなったの、去年の夏に」
なるほど、そういう展開か。
どうやら祐美の恋人だった男は、交通事故によりこの世を去ったという事らしい。
「うぅぅっ……」
亜美はハンカチで涙を拭いながら、完全に映画に入り込んでいる。
ホラー見てる時とえらい違いだな。
さて、その話を聞いた樹は、祐美にその彼を愛していたのかを問う。
しかし祐美からの返答は曖昧な感じだった。
んー、このヒロイン、何か引っかかるな。
以前再会したシーンでも、様子がおかしかった。
そんな中、大学生活が始まる。
樹はアパートで一人暮らしの為、授業が無い日はアルバイトで生活費を稼ぐ。
しばらくすると、バイト先に祐美が新人としてやって来た。
知らされていなかった樹は驚いたが、なんとか普段通りに接する。
「樹くんは、ここ長いの?」
「いや、まだ2ヶ月ぐらいかな」
「そうなんだ。 色々と教えて下さいね、先輩」
「からかうなよー」
最初は祐美との距離感に戸惑っている様だった樹だが、しばらく一緒に働いている内に慣れてきて、仲の良い友人として上手くやっていくのだが。
んー? どうも祐美がおかしいなぁ。
ちょいちょい、樹に気がある素振りを見せているのだ。
亡くなった彼氏の事は、もう良いのだろうか?
それに気付いた、渚ちゃんと麻美ちゃんも首を少し傾げる。
更に話は進み、その年の夏季休講に入るとバイト以外でも会うようになる。
「樹くんは、昔の約束って覚えてる方?」
「そうだね。 だから高校生の時に、ここに一度戻って来ただろう?」
「あれは、約束を果たす為だったんだ?」
「まあそうだね。 君があれからどうしてるかを知りたかったっていうのもある」
「あら。 それで、私に恋人がいるのを知ってどうだった?」
ふうむ、間違い無い。
祐美は樹に気がある。 まるで前の彼氏などどうでも良いかの様だ。
「驚きはしたけど、高校生だったしね。 そういう人がいてもおかしくないって納得したよ」
「そうなんだ」
そうして過ごしている内に、樹は本当のことを知ることになる。
「あれ、祐美じゃん! 久しぶりー!」
どうやら、祐美の高校時代の友人らしい女性と、バイト先で遭遇する。
「ここでバイトしてるの?」
「う、うん」
「祐美ちゃんの友達?」
「あ、樹くん……うん」
「あ、祐美、新しい彼氏? 今度の人は優しそうな人じゃん」
「え、あ、違うの」
「前のあいつ、最低だったもんね? 捕まって清々するわよ。 あんな奴別れて正解よ祐美」
んん? 捕まった? 別れて正解?
死に別れたわけじゃないって事か?
その疑問は、当然樹も感じたようで。
「どういう事? 前の恋人は交通事故で亡くなったんじゃないの?」
「あ、う……」
「あー、そういう事にしてるのか。 ごめんね? ペラペラ話しちゃって」
「ううん……」
この場ではそれ以上は話せないという事なので、バイトが終わってから改めて話の続きを聞く事に。
シーンが変わって、高校生の頃の祐美と恋人の描写が入る。
そこでようやく、祐美とその恋人の関係が、視聴者に明かされる。
祐美の恋人は、とんでもない虐待野郎だったのだ。
付き合い始めた頃は本性を隠していた男だったが、次第に暴力的になっていく。
別れ話を持ちかけようにも、制裁が怖くて別れられなかったらしい。
しかし、ある日恋人が暴力を振るっている場面を友人が動画に撮り、警察へ通報。
傷害罪その他の罪で、恋人は捕まった。
その後一度会いに行き、別れを告げたのだという。
そして、樹に嘘をついた理由は、軽いトラウマになってしまい、男性に恐怖を覚える為だと言う。
ただ、ここのところ樹にだけは恐怖心が芽生えない事に気付いたらしく、樹となら一緒にいても平気だという。
ふむ、昔馴染みだからか?
それとも樹が優しい人間だとわかったからなのか?
どちらにしても、あとは樹次第では無いだろうか。
祐美は既に、樹への一定以上の好意を見せている。
樹はどうだろう?
本当のことを知った樹は、祐美の事を考え始める。
そして、冬のある日。
祐美は樹に告白し、樹はそれを受け入れ晴れて恋人同士になる。
「うぅ……良かったねぇ……ぐすっ」
亜美の奴、泣き過ぎなんだよなぁ。
2人は度々デートを繰り返しながら仲を深めていき、ある日。
「樹は、昔の約束を覚えてる方だって言ってたよね?」
「言ったね」
「じゃあ、もう一つの約束も覚えてる?」
「もちろん。 祐美をお嫁さんにする」
ここで最初のシーンのあれを回収する。
やがて2人は、結ばれてハッピーエンドとなる。
◆◇◆◇◆◇
「ぐすん」
「亜美、入り込みすぎよ」
「だってぇ」
「んー、渚どうだった?」
「全体的には悪くないんと違うかな? 祐美さんが樹さんに嘘を話したってとこはちょっとよくわからんけど」
「遥、何寝てるのよ?」
「んあ? え? 終わった?」
遥ちゃんは途中で寝てしまったようだ。
あまり恋愛映画は観ないのかもしれないな。
その後、原作を知っている亜美から色々と捕捉されて、だいぶ端折られていたことがわかった。
少し休憩を挟み、次は奈央ちゃんが持ってきた映画。
そちらはホラー映画で、希望、渚ちゃんの2人がビクビクしながら時々悲鳴を上げていた。
希望はともかく、渚ちゃんもこういう類のものは苦手らしい。
映画を2本観賞し終わる頃には、日も暮れかけて暗くなっていた。
ここで、夕食の相談をしたところ、奈々美と麻美ちゃん、宏太は帰るとの事。
その他は、ここで食べて帰るらしい。
どうやら夕飯作りには、紗希ちゃん、奈央ちゃんも加わるようで、今から夕飯が楽しみだ。
映画観賞も終わり夕食の時間。
珍しいメンバーが残って夕飯の支度を始める。
「遥だよ。 わ、私は夕飯なんて作れないぞ? 見てるだけで良いよな? 料理ぐらい覚えろって言われても運動以外はからっきしなんだよぉ」