第1749話 亜美のフィギュアスケート
留守番中の夕也達。
☆夕也視点☆
亜美と希望は、昨日から藍沢家との家族合同旅行で長野へ行っている。 自宅では久しぶりに1人になり、静かに過ごしている。
「みゃー」
「なー」
猫やハムスター、海水魚達は連れて行けないという事で皆お留守番だ。 おれが世話しているんだぞ。 俺にだってそれぐらい出来らぁ。
「朝から元気だな、お前達は。 昼前には『皆の家』に連れて行ってやるからな」
「みゃみゃ」
「ななー」
マロンとメロンも昨日は亜美が居なくて寂しそうにしていたが、「皆の家」に行けば仲間がたくさんいるので寂しさも紛れたようだ。 マリアちゃんが食事も用意してくれて、俺も楽だしな。 朝飯は自分で何とかしないといけないが。
「まあ、ふりかけ飯で良いか」
「みゃ」
「な」
マロン達にはいつも通りの朝食を用意してやるぞ。
「ほれ」
「むしゃむしゃ」
良い食べっぷりだなぁ。
「まるで宏太だな」
「みゃー……」
何かちょっと嫌な顔を見せるマロン。 どうやらアレと同じ扱いはしてほしくないらしい。
「すまんすまん。 宏太と一緒は嫌だよな」
「みゃっ」
ふむ。 宏太の奴、猫にまで下に見られてるんだな。
◆◇◆◇◆◇
昼前には約束通りに「皆の家」へ。 「皆の家」には奈々美達が預けて行ってたタマ、レオン、くぅ、アテナにハムスターズ達がいる他、マリアちゃんの愛猫ダイヤにリクガメのリク、更には宏太の愛犬リンもいてめちゃくちゃ賑やかだ。
「みゃー」
「にゃふ」
ペットはペット同士で仲良く遊んでいる。 人間は奈央ちゃんに遥ちゃん、マリアちゃんに春人が来ている。 昼はこのメンバーで食べる事になるようだ。
「亜美ちゃん達は今日帰ってきますの?」
「夕方には帰ってくるらしい」
「そうなんですね。 今頃何してらっしゃるのでしょう」
「今日は観光って言ってたぞ。 朝の連絡を見ると、スケートとか温泉が楽しめる場所があるとか何とか」
「スケートと温泉ですか? なるほど、あそこですね」
マリアちゃんは長野県出身という事で、大体の目星がついているようだ。 結構有名な場所なんだろうか?
「冬を満喫してますわねー」
「きっと美味いもん食ってんだろうな」
「遥は食べる事しか頭に無いの?」
「当たり前じゃないか!」
「はぁ……」
「マリア、昼飯はなんだい?」
「オムライスでもしようかと」
「じゅるじゅる」
「遥、涎出てるわよ……」
遥ちゃんはいつも通りだな。 前田さんがいないので、昼食を作るのを奈央ちゃんが手伝うという話になった。
「亜美達はどうしてんだろうな」
◆◇◆◇◆◇
☆亜美視点☆
「そこで、ジャンプだよ!」
「出来ないよぅ!?」
「無理やー!」
希望ちゃんと渚ちゃんにスケートを教えているところである。 2人ともいい感じに滑れるようになったので、今からダブルアクセルを教えようと思うよ。
「亜美。 別に2人はフィギュアスケートしたいわけじゃないんだし、それは教えなくて良くない?」
「え? フィギュアスケートしないの?!」
「しないよぅ!」
「そんなん清水先輩だけですやん」
「そ、そか。 じゃあ、2人はもう大丈夫そうだね。 よし、ゆっくり一緒に滑ろうか」
「ぅん」
「はい!」
「なはは。 私もゆっくり滑るー」
麻美ちゃんはいつも、スピードスケーターみたいな速さで滑ってるからね。 ただ、普通にゆっくりも滑れるみたいである。
「じゃあスタート」
シャー……シャー……
「おお、良いよ2人とも。 見違える程上手になったよ」
「そうね。 これなら何も問題無いわ」
「ありがとぅ」
「清水先輩のおかげです」
「私も教えたぞー!」
「一応私も」
「麻美の言うてる事は何一つわからへんかったわ」
「なぬー?!」
麻美ちゃんの教え方わあまりにも独特である。 奈々ちゃんもだけど、この2人はとにかく擬音を使って説明したがるのだ。 「スィーッと滑ってクィッと曲がって、ピタッと止まる」と説明されても良くわからないだろうね。
「あら、希望滑るの上手くなったじゃない?」
「あ、お母さん。 ふんす、私だってちょっと練習すれば余裕だよぅ」
「腐ってもトップアスリートだよ」
「腐ってないよぅ?!」
「なはは。 希望姉はやれば出来る人ー」
「うんうん。 ちょっと鈍臭いけどね」
「それはわかってるけど言わないでよぅ」
「あははは」
さて。 ある程度滑っていると、リンク内の人が少し減ってきたよ。 これなら私も自由に滑れそうである。
「よーし。 ちょっと本気で滑ろ」
「出るわよ、亜美のフィギュアスケート始まるわよ」
「なはは」
というわけで、広くなったリンクを使って滑るよ。 後ろ向きに滑りながら片足立ちになる。
「おおー」
「すげー」
「誰あの人? 有名なフィギュアスケーター?」
あっという間に目立ってしまい、気付けばリンクの中央からは人が退いていた。 どうやら他の人達も私の滑りを見学する方に回ったようだ。
「じゃあ早速トリプルアクセルだよ!」
アクセルジャンプはフィギュアスケートのジャンプの中でも、特に難易度が高いジャンプだ。 それの3回転ともなると、世界大会なんかに出ている女子でも成功させている選手は数える程である。
「てや!」
クルクルクル……
スタッ!
「おー!」
「あれってトリプルアクセル?」
「凄い選手なんじゃないの?!」
と、周りのお客さんから驚きの声が上がる。 スマホで検索している人もいるようだけど「検索してもそれっぽい人出てこないけど?!」と言っている。 だってフィギュア選手じゃないからねぇ。 そのまま5分くらい自由に滑り、最後の決めポーズを取ると拍手が巻き起こるのだった。
◆◇◆◇◆◇
スケートを終えた後は、雪見しながら入れるという温泉へ。
「スケートで冷えた足に、温泉の湯がピリピリと効いて気持ち良いわね」
「奈々ちゃん、年寄り臭いよ」
「何処が?!」
とりあえずいつものをやっておくよ。
「にしても、亜美は何であんな滑りが普通に出来るのかしら? あれって、オリンピック選手でも中々出来ないでしょ?」
と、お母さんが不思議がっている。 藍沢のおばさんも「亜美ちゃんって昔から凄い事をすぐに出来るようになるのよね? 美那から生まれてきたとは思えないわ」と、そう続ける。
「何か練習してたら出来たんだよねぇ。 ほら、私って元々跳躍力はある方だから」
「それにしてもでしょ……」
「なはは」
「清水先輩て、フィギュアスケートでも世界獲れるんやないですか?」
「どうだろうねぇ」
「真面目にやれば金メダル候補でしょ……」
「遊びレベルでトリプルアクセルしちゃうんだから、真面目にやったらメダルは取るでしょうね」
藍沢のおばさんにまで言われてしまうのであった。 私はやっぱりおかしいのだろうか?
「さて、後はお土産見て帰るだけね」
「だね。 夕ちゃん達も待ってるし」
「またこうやって皆で旅行したいものね」
「そうね。 昔みたいにちょこちょこ計画して行きましょう」
「やったー!」
清水家と藍沢家の交流はこれからも続いていくようである。
亜美は何故かフィギュアスケートが出来るのか?
「希望です。 亜美ちゃんのやる事に理由を求めちゃダメだよぅ」
「練習したら出来るようになったんだよ」




