第1741話 宏太とリン
休みの日にはリンと過ごす宏太。
☆宏太視点☆
今日は店も定休日。 リンとゆっくり過ごせるな。 リンを家族に迎えてからは「皆の家」で過ごすようになった。 家事という家事は買出しぐらいで、他は前田さんや廣瀬がやってくれている。 特に廣瀬は掃除に洗濯、炊事までこなす。 ありがたいが、休みの日の掃除ぐらいは俺が引き受けることにする。 前田さんや廣瀬曰く「たしかに住んではいるが、基本的には皆が過ごす拠点なので遠慮なく過ごして良い」との事だ。 世話になっているとか、そういう風に思うなという事らしい。
「おしおし。 リン、今日は一緒にいられるからな」
「くんくん」
「返事するのは偉いな」
「きゅーん」
吠え癖にならなきゃ良いが。 その辺はちゃんと躾ないとや。
「うーん。 まだ散歩は無理だな。 もうちょっと成長してからな」
「はふはふ」
「よーし朝飯やるからなぁ」
「くんくーん」
「む。 まだだぞ。 『待て』だぞリン」
「はふはふ」
犬の躾というのは飴と鞭だ。 厳しくして、ちゃんと躾を聞けたら思い切り甘やかす。 犬というのは頭の良い動物で、されて嫌な事、されて嬉しい事というのをしっかり覚えている。 特にご主人様に褒めてもらえた事というのはよく覚える。 例えば、返事をする時に声を小さくすれば褒めてもらえるのだと覚えれば、次からは返事する時は声を小さくするようになる。
「さあ、もうちょっと待てるかー?」
「わふ……」
「おう。 そうだ。 良い子だぞリン。 よーしよしよし。 ほら、ご飯だ」
ちゃんと出来たらこうやって褒めてやり、褒美を上げる。 これを繰り返す事で覚えさせるのだ。
「はむはむ」
「良い食べっぷりだな。 よしよし」
これを食わしたらリビングへ行くか。 今日は目一杯相手してやろう。
◆◇◆◇◆◇
「あ、佐々木さんおはようございます」
「おはようございます」
「おう、おはよう」
「わん」
降りてくると、前田さんと廣瀬は既にリビングに来ていた。 やはり早起きだな。
「腹減ったな」
「相変わらずですね、佐々木先輩。 朝ご飯ならキッチンにありますよ」
「サンキュー廣瀬」
リンをリビングに待たせて、サクッと朝食を済ませて皿も洗う。 夕也と違ってこれぐらいは余裕だぞ。
リビングに戻ると、トレーニングルームにいたのであろう蒼井が増えていた。
「おう、蒼井」
「佐々木かー。 今日は休みか」
「定休日だ。 リンこっち来いー」
呼んでやると、耳をピクッと動かしてこちらを振り向く。 俺の姿を見つけると嬉しそうに駆け寄ってくる。
「本当に佐々木に懐いてるんだな」
「お店にいた頃から佐々木さんには懐いてましたよ」
「動物に好かれるんですね、佐々木先輩」
「どうなんだろうなぁ」
「動物に同レベルだと思われてるんじゃないかい?」
「ふん。 違うわい。 少なくともこいつはちゃんと、俺をご主人様だと認識している。 ゴールデンレトリバーってのは飼い主への忠誠心が凄いんだ。 まあ、まだ子供だから遊び相手感覚なのはあるだろうがな」
今も俺の右手をペロペロナメて遊んでいるリン。 可愛い奴め。
「産まれてどのくらいなんだい?」
「2ヶ月ちょいだな」
「何か芸とか教えるんですか?」
「精々『待て』ぐらいだな。 それだけ出来れば外に出ても大人しくしてくれる」
「そうなのかい?」
「ああ」
そんなにたくさんの事を教え込んでも、あまり使う機会は無いからな。 「お手」だとかそういうのは飼い主の自己満足だしな。 その点「待て」は外出した時とかでも急に走り出したりするのを防げたり、他人に反応して動いたりするのを防げたりする。 結構大事なんだな、これが。
◆◇◆◇◆◇
昼過ぎには、大体いつものメンバーが「皆の家」に顔を見せる。 亜美ちゃんはというと、最近車の免許を取る為に教習所へ通っているらしく、昼は姿を見せない。
「わふわふ」
「わんわん」
「ワフ」
奈々美達が連れてきたくぅとアテナは、リンの犬友だ。 麻美曰く、いつも3匹で遊んでいるらしい。 犬は犬同士仲良くやっているようだ。 マロン達猫組もたまに一緒になって遊ぶようだが、基本的に猫組は自由気ままに過ごしている。
「そういえばもうすぐバレンタインね。 宏太はどんなチョコ欲しいの?」
「どんなって言われてもなぁ。 別にどんなのでも良いが」
「まあ、宏太ならそう言うわよね。 じゃあ適当にその辺の店で買ったやつにするわね」
「おう」
チョコレートなんて実際何でも良いからな。 大体毎年貰いすぎなんだよなぁ。 高校時代程じゃないが、ここにいる友人達や、職場の女性スタッフからなどでまあまあな数になる。 チョコレート恐怖症になるぜ。
「渚ー。 今年はどうするのー?」
「私は藍沢先輩と同じやな。 その辺で買ったやつ配るわ」
「そっかー。 私は本命だけ手作りにするー。 夕也兄ぃ楽しみにしておくといいぞー」
「お、おう」
「希望姉も今年は手作りー?」
「そぅだねー。 皆の分を作ろぅかな」
「希望はお菓子作り好きね」
「奈央はどうするんだい?」
「私? 私は超高級チョコを海外から取り寄せますわよ」
「さ、さすが西條先輩……」
「おほほほ」
西條は相変わらず金と力を存分に使うなぁ。 今年も美味いチョコレートが食えそうだ。
「マリアはどないするんや?」
「私ですか? そうですね……皆さんに市販のミルクチョコレートでも配ろうかと」
「バレンタイン用のチョコレートですらないのね」
「はい」
ひ、廣瀬は廣瀬で廣瀬らしいというか何というかだな。 マジで誰にもデレないというか何というか。 蒼井は彼氏さんには手作りを渡すようだ。 自信が無いらしく、希望に教えてもらって作るらしい。 亜美ちゃんはどうするのだろうか? 店で買ってきたチョコレートである年が多いといえば多いが。
「弥生はどうするのかしらね? 渚、ちょっと聞いておいてよ」
「わかりました。 たしかに気になりますね。 彼氏が出来たんやし、チョコレートは渡しはるやろから」
「あいつは買ってきたチョコレートだろ。 そういうタイプだ」
「わかる気はしますわね」
「まあ、たしかに」
わかりやすい性格してるからな、月島は。
◆◇◆◇◆◇
夕方には亜美ちゃんが帰ってきて「皆の家」で夕飯を食べる。
「んむんむ。 バレンタイン? 教習で忙しいから今年は市販のだよ」
「なはは」
「教習優先なのね」
「うん。 次で学科教習が終わるからね」
「という事はもうすぐ技能講習か」
「そだよ。 いよいよ教習車に乗って運転だよ。 ブロロロだよ」
何かめちゃくちゃハイペースだな、亜美ちゃん。 ほぼ毎日通ってるからだろうが。
「なはは。 亜美姉が車運転してるとこ見たいー」
「さすがに教習を見に行くのは無理だろ」
「そだねぇ」
まあその内見られるだろう。 亜美ちゃんが車を運転する姿とやらを。 俺も免許が取れれば良いが、ちょっと仕事が忙しいからなぁ。 ちょっと無理かもしれんな。 ペット関係の資格なら公休も取れたりするんだが、運転免許では無理らしい。 早く取っておけば良かったぜ。
バレンタインデーが近付く。
「希望です。 今年はどうしようかなぁ」
「普通で良いんだよ」




