第1722話 差
亜美と出かけている夕也。
☆夕也視点☆
今日は亜美と2人でちょいとしたデートだ。 まあ、デートというか俺に付き合ってついてくるだけなんだが。
「バスケの試合観戦だよー」
と、亜美が言っているように、バスケの試合観戦に出かけているというわけだ。
「神戸のチーム対東京のチームなんだよね?」
「おう」
「神戸のチームっていうと、あの人……あの怖そうで、夕ちゃんが憧れてた選手がいるんだよね?」
「佐田さんな」
そう。 佐田さんは高校を出てすぐにBリーガーになった。 以前一度試合観戦した事はあるが、あれからもずっとBリーグのステージで戦っている人だ。 日本代表にもなっていたな。
「あれからどんくらい差が開いたか、今のうちに確認しとかねーと」
「そんなに差があるかなぁ?」
「あるだろうな。 あっちはずっと一線級相手に戦ってるんだ。 それに比べて俺は大学のサークルとかだぜ?」
「最近は春くんや宏ちゃんとも1onしてるよ?」
「それぐらいじゃあ、差は縮まらないさ」
「そっかなぁ? まあ、見てから判断しようよ」
「まあ、そうだが」
亜美はやたらと俺を信頼しているようだ。 まあ、バスケの腕は立つ奴だが、バスケ界に詳しいってわけじゃないからな。
「お、着いた。 ここでやるみたいだな」
「おー。 中々立派な体育館だね」
「よし、入るぞ」
「らじゃだよ」
入場チケットを見せて試合会場内に入る。 観戦席は2階だな。 案内板に従って、チケットに書いてある番号の席を探す。
「あったよ」
「ナイス亜美」
あまり客足が多いという事も無いが、それなりに賑やかではあるようだ。 どっちのチーム贔屓という事はないが、一応佐田さんの動きを注意してみておくとしよう。
「よいしょ。 録画準備OKだよ」
「……何してんの?」
「前田さんに見せるんだよ。 今の夕ちゃんと佐田さんの戦力分析をしてもらうんだよ」
「必要か?」
「具体的な力の差を知りたいならね」
「ふむ……」
というか、前田さんってそんなに凄いのか? 普段はペットショップで働いてるんだろ? 不思議な人だな、あの人も。
15分程待つと、コートに選手達の姿が現れた。 しっかりと佐田さんもいるな。 相変わらず威圧感あるぜ。 じっと佐田さんのアップを眺めていると、佐田さんが不意にこちらを振り向き視線がぶつかる。
「こっちに気付いたみたいだねぇ。 凄い睨んでるよ」
「だ、だな……」
しかし、何でそんなすぐに俺に気付いたんだ? 普通、わざわざ観客席の方なんか見ないだろうに。
「何かね、わかるもんなんだよ。 強い人の気配って」
と、亜美が俺の考えている事に答えるように呟いた。
「気配?」
「うん。 あの人はあそこから、ここにいる夕ちゃんのオーラを感じ取ったんだよ。 佐田さんの中ではまだ夕ちゃんはライバルなんだよ」
「まさか……」
ただの偶然だろう。 そんなオカルトみたいな話があるわけない。
「始まるよ」
「お、おう」
試合が始まると、佐田さんはやはり攻めのバスケを展開。 相変わらず強引な突破やキレのあるドライブを見せている。
「やっぱり強くなってるな」
「私はよくは知らないけど、たしかに凄いプレーヤーだねぇ」
「あれはちょっとやそっとでは止められないぞ」
もはやBリーグ界でもあれを止められる人はそうそういないだろう。 化け物め。
「でもねぇ。 夕ちゃんもやっぱり負けてないと思うよ」
「何言ってんだよ……今やったら100%負けるぞ」
「いやいや。 タイプが違うよ。 見た感じはあの人の方が豪快だし凄いって感じるけど、夕ちゃんはもっとこう、巧いとか綺麗とかそういう感じ。 凄さのベクトルが違うだけで、そこまで差は無い気がするよ」
「そりゃ身内贔屓が過ぎる」
「そんな事無いと思うけどなぁ」
と、亜美はそう言うのだった。
◆◇◆◇◆◇
試合終了後。 何故か俺は試合会場前で待たされていた。 神戸チームの人に呼び止められたのだ。
「多分あの人だね」
「だろうな」
こういう事をするのは十中八九佐田さんだろう。 しばらく待っていると、やはりというかその人が現れた。
「おう、今井。 日本の天使様とデートかよ」
「に、日本の天使様?」
「清水さん知らないのかよ? あんた、そう呼ばれてんだぜ?」
「また恥ずかしい渾名を付けられてるよ?!」
俺も知らなかった。
「まあ、それは良いや。 んで?」
「んでとは?」
「何しに来やがったよ?」
「バスケ観戦に」
「バスケはもうやらないんじゃねぇのかよ?」
「見るのは自由じゃないっすか?」
と、返すと。
「ちげぇだろ。 その目は何だっつってんだ。 ギラつかせやがって。 バスケ辞めた奴がする目じゃねぇんだよ」
「今年のトライアウト……受けるつもりなんで」
そう言うと佐田さんは、眉をピクッと動かした。
「あぁ? トライアウト? 辞めたんじゃないのかよ」
「気が変わったんすよ」
「はっ……そうかよ」
佐田さんは、俺の前まで歩いて近付き、俺を見下ろした。 やっぱでけーな。
「5年だぞ」
「?」
「待たせやがって。 ようやく楽しくなって来やがった」
「正直言って、今の佐田さんには勝てる気しないですけどね」
「あぁ? 何言ってやがんだ? 一生かかってもお前は勝てねーよ。 わからせてやるからさっさとここまで来やがれ」
そう言い残して佐田さんは体育館の中へ戻って行った。 またミーティングサボったんだな、あれ。
「嬉しそうだったよ、あの人」
「そうかぁ?」
「うん。 やっぱり夕ちゃんを待ってたんだねぇ」
「そうみたいだな」
「私も……弥生ちゃんを随分待たせたしねぇ」
「お前らはちょこちょこ試合して遊んでるだろ」
「まあね。 でも弥生ちゃんはあくまで公式戦での勝ちに拘ってるみたいだよ」
「そうかよ」
「うん。 さ、帰ろ? 前田さんにも見てもらわないとねぇ。 今の夕ちゃんとあの人の差とやらを」
「へいへい」
◆◇◆◇◆◇
「うわぁ、凄い人ですね」
「バスケもわかるのか?」
「まあ、人の身体能力の話なんで。 バレーボールであろうとバスケットボールであろうと人の能力的な物は変わりませんよ。 しかしまあ、フィジカルモンスターですね。 藍沢さんみたい」
「誰がモンスターですって?」
「ひぇっ」
「まあまあ、奈々ちゃん。 抑えて抑えて。 それで、夕ちゃんと佐田さんを比較するとどう?」
「私が見た感じ、今井さんと佐田さんはプレースタイルの違いこそあるものの、能力的な差はほとんどないかと。 ただ、やはり体格差がある分この佐田さんの方が有利ではあると思いますよ」
「ぬぅ。 体格は今更嘆いても仕方ないな。 で、能力に差がないとは?」
「もちろんタイプが違うので、総合的なという意味ですよ。 パワーや高さなら佐田さんですがスピードやテクニックならば今井さんの方が優れているとか、そういう感じです。 自分の武器を理解して戦えば、十分に勝負になるはずです」
「ほら、言ったじゃん」
と、亜美は得意気にそう言うのだった。 俺は何処かであの人には敵わないと、壁を作っていたのかもしれない。 亜美や前田さんの話を聞いて、少しは自信が持てた気がする。
「待ってろよ……」
「チームは是非我が西條グループのチームへ!」
そういえばそんな話もあったなぁ……。
夕也も少しは自信がついたか?
「亜美だよ。 夕ちゃんは凄いんだよ」
「何がよ?」




