第1717話 心配あらへん?
こちら東京の弥生。 渚と電話中のようだ。
☆弥生視点☆
こちら東京。
「はぁ? ギター始めたやて?」
「そやねん。 麻美に感化されて私と藍沢先輩も始めてん」
「さよか」
渚から何やら連絡が来た思うたら、ギターを買うて練習しとるらしいわ。 まあ、色々な趣味見つけて楽しむんわ悪いことやないさかい、ええとは思う。
「まあ、頑張りや。 今度会うた時、聴かせてもらうで」
「えっ?! ちょいと時間足りへんかなぁ」
「だはは。 まあ、出来るとこまででええやないの」
「出来るだけ頑張るわ」
その後は、ちびっ子達の初めての練習試合が凄かっただのといった報告も受けたで。 気になったんは、アルテミスが月ノ木3年の星野照をスカウトしよったらしいっちゅう話や。 たしか、クリムフェニックスもスカウトしとったはずや。 他にも有力どころから声がかかっとるはずやし、獲得は難しいかもしれんな。 それと、2年の海咲夏生がもうアルテミス入りを表明しよったのも驚きや。 まだ1年あるのに気の早いやっちゃで。
「クリムフェニックスは選手の層は厚いけど、若手は大体2軍で踠いとるからなぁ。 活きのええ若いのが欲しいとこや。 来年には大空獲得に動くやろうけど」
「ナニぶつぶつイウとるんヤ」
「キャミィかいな。 部屋におったんやないの?」
「ヒマやからおりてきたデ」
「試合も練習もあらへん日は退屈やわな」
「ソヤ」
まあ、休養日って事なんやけど。 やっぱり何かしてへんと暇を持て余してしゃーないわ。
「タケシタはきょうよばへんのカ?」
「今日は中学のスキー旅行の引率で今頃は長野や」
「なんや、おらへんのカ」
「そやな」
中学教師っちゅうんも、中々大変やな。 旅行言うても日の大半は生徒の監視やろし、何もおもろないやろな。
「わかいオンナのセンセがいっしょかもしれんナ」
「だから何やの」
「しんぱいやナ」
「別に」
「ナンヤ、しんぱいやないんカ」
「武下君はそないに甲斐性あるタイプやないやろ」
「たしかにナー」
「それにや。 同僚にそないな先生がおるいう話は聞いてへんで」
「さよカー。 まあ、おってもいうヒツヨウあらへんしナ」
「何やさっきから。 まるで武下君が他の女の人と浮気でもしとるみたいな」
「かのうせいのはなしヤー。 きにすんナー」
「ぬぅ……」
そう言われたら途端に気になるやないか。 今はまだ引率しとる時間やろから連絡も出来へんし……。
「ワハハ。 きにしとるナ」
「誰の所為やねん!」
「ワハハ!」
ま、まあ、武下君は冴えへん男やし、そないにモテるタイプでもあらへんし。 大丈夫やろ。
「はよ夜にならへんかいな」
「ワハハ!」
◆◇◆◇◆◇
ほんで夜。
「もうさすがに消灯過ぎとるやろ。 連絡しても大丈夫なんやろか? メールでとりあえず確認やな」
「きにしすぎヤ」
「あんさんの所為やがな」
ウチかてこないな事でいちいち心配しとうないで。 せやけど、一回気になってもうたらもうあかん。
「お、大丈夫やて。 向こうからかけてくれるみたいや」
「オー」
しばらく待ってたら、武下君から電話がかかってきよった。
「もしもし、なんやすまんな」
「いや。 それよりどうしたの?」
「あ、いや。 長野はどないかなぁと思うてな」
「こっちは東京と違って、空気も澄んでて気持ちいいよ。 星もよく見える」
「ほぅ、そらええな」
「ヤヨイ。 ききたいんはソレやないやロ」
「ん? 何か訊きたい事でも?」
「あ、いや別にあらへんよ」
「ワハハ。 ヤヨイはわかいおんなセンセとウワキしてへんか、きになってしょうがないんヤ」
キャミィの奴が全部言うてまいよった。 後で覚えときや、この子は。
「浮気? 若い女の先生と? 無い無い……引率してる先生で女性は保険医だけだし、もう40代の方で既婚者だからね」
「ワハハ! よかったナ!」
「別に心配しとらへんよ」
「ワハハ!」
まあ、とはいえひとまず心配事は減ったわな。 これ以上は武下君にも悪い、電話はこれぐらいにしとこか。 旅行の話やったら帰ってきてから聞いたらええし。
「ほな、もう寝るさかい電話切るで」
「はい。 じゃあまた」
プツッ……
「はぁ。 キャミィ、あんさんなぁ」
「まあまあ、ヨカッタやン」
「大体、武下君はそないな奴やないやろ」
「ソヤナー。 ウチもそうおもうデ」
こやつ、ウチが困ってるのを見て面白がっとるな? ほんまええ性格しとる。
「タケシタはヤヨイひとすじヤ。 しんぱいないデ! ワハハ!」
「そやからあんさんの所為や言うてるやろ」
あかん。 疲れてきたわ。 はよ寝よ。
◆◇◆◇◆◇
翌日、クリムフェニックスの練習を終えたウチは、美智香と近くの喫茶店で話でもする事にした。
「うわはは! キャミィっちも相変わらずねー」
「ほんま、何とかならんのか」
「ワハハ!」
「でもさ、キャミィっちは何だかんだ言って、弥生っちと武下っちの仲を心配してるのよね?」
「ソヤ。 ウチはしんぱいなんヤ」
「ほんまかいな。 ウチで遊んどるだけやろ」
「しつれいナ。 ああでもせんかったら、ヤヨイはタケシタに連絡せぇへんかったやロ」
「中学生のスキー旅行の引率中に連絡はするもんちゃうやろ。 一応仕事中やで、あちらさんは」
「それは昼間の間だけじゃん? 消灯になったら一旦教師の仕事はお休みっしょ」
「ソヤ」
「そらそうやろうけど。 次の日かてあるやん?」
「あー、面倒くさ」
「ほんまヤ」
2人して何やねん。
「一応付き合ってんるんだから、もっとお互いの事知る時間作んないとダメよー?」
「ソヤ!」
「キャミィはわかってて言うとるんか?」
「ソヤ!」
絶対嘘や。
「私なんて付き合い始めた頃は、しょっちゅう旦那に電話してたわよ」
「美智香姉は凄かったですよ……旦那さん、よく相手してだなぁって思います」
黙って話を聞いとった千沙が、その話に食いつく。 まあ、そない言われてもなぁ。
「彼の職場だって家から近いんだし、もっとガンガン距離を詰めていくべきよ」
「ソヤ! キスすらまだやロ!」
「放っとけ!」
ウチらにはウチらのペースっちゅうもんがあるわい。 その内なるようになるっちゅうねん。
「まあ、そう怒らない怒らない。 キャミィっちはキャミィっちなりに色々と考えてくれてるんだから。 ね?」
「ソヤ! レンアイはようわからんケド、ヤヨイのチカラにはなりたいんヤ」
「そらまあ、ありがたいんやけどなぁ」
結構色々とすっ飛んでるんがちょっと気になるわ。 キャミィ自身が恋愛経験とかあらへんからわからんのやろうけど。
「力になってくれるんはほんまに嬉しいんやけど、もうちょっと落ち着いてくれんかいな? ウチはゆっくりでええねん」
「オバハンになってまうデ」
「それまでには何とかなるわ!」
「そうカー。 ほなちょっとおちつくデ」
「頼むでほんま」
「うわはは。 仲良くやりたまえよ、お2人さん」
「ですです」
これでキャミィが落ち着いてくれたらええんやけどな。
キャミィは弥生が心配なようだ。
「奈々美よ。 弥生は自分の事になると慎重よね」
「他人の事は急かすのにね」




