第1709話 スカウトに行こう
こちらは奈央。 今日は何やら予定があるようだ。
☆奈央視点☆
さて、年が明けてから色々あったけど、今週はのんびりですわよ。
「アルテミスは新年初っ端も勝ったみたいね。 よしよし」
バレーボールチームの方は順調順調。 千葉西條アルテミスは二部リーグでは無傷の連勝中でもはや敵無し状態。 本番は来シーズンってとこかしらね。
「それはそうと、新戦力の獲得にも乗り出さないとね」
私達が加入するのは決定事項として、ほかにも選手を獲得したいところ。 トライアウトをする必要は無いから、直接交渉になるんだけど……。
「直接会いに行きますか……。 今日はたしか、前田さんも定休日でしたわよね? あとは亜美ちゃんも連れて行きましょう」
という事で、早速2人に連絡を取るのであった。
◆◇◆◇◆◇
「こんにちは」
「こんにちはだよ」
「はい、こんにちは」
16時前に「皆の家」に集まってもらった。 一応理由は説明してあるわ。
「スカウトだよね?」
「えぇ。 月ノ木学園3年のMB、星野さんをスカウトに行きますわよ」
「星野照さんですね。 昨年のインターハイでも最優秀MBに選ばれています」
「さすが前田さんね。 ついでに、来年の為に海咲さんにも唾をつけておきますわよ」
「海咲夏生さん。 月ノ木学園2年生のエースですね」
「さすが前田さん……。 海咲さんは春高でも大活躍だったね。 優勝を決めたスパイクは凄かったよ」
「ですわね。 来年是非とも獲得したい選手ですわよー」
というわけで、今から月ノ木学園へ向かいますわよ。 学園がわには話を通してあるから、顔パスで入れるわ。
◆◇◆◇◆◇
さて、月ノ木学園へと足を踏み入れた私達。 月ノ木祭の時には来ているけど、通常の日に来るのは久しぶりですわね。
「先に星野さんと話をしますわ」
「らじゃだよ」
「星野さんはVリーグ行きを目指してるんでしょうか?」
「その辺りも聞かないとね」
「進学希望なら諦めるしかないですわね」
というわけで、私達は応接室に通してもらい、星野さんを待つ事に。 すぐに呼んで来てくれるとの事ですわ。
コンコン……
「失礼します」
控えめなノックの音とは裏腹に、凛としてはっきりとした声が聞こえた。
ガチャ……
「おー、星野さんだよ。 本物だよ」
「こらこら……星野照さんですね? 急にお呼びたてして申し訳ありません。 私Vリーグチームの千葉西條アルテミスのオーナー、西條奈央と申します」
「あ、あ? はい?! 存じております!」
「いきなり超大物が出て来たらそうなりますよね……」
「まあ、固くならずに。 あ、こっちは私の秘書の清水亜美さんですわ」
「以後、お見知りおきを」
「ぞ、存じております……」
まあ、バレーボールをしている学生なら大体の人は知ってますわよね。
さて、本題に入りますか。
「こほん。 時に星野さん。 卒業後の進路については決まっておられるでしょうか?」
「し、進路は一応、プロを目指そうかと」
「なるほど。 希望されているチームとかがあったり?」
「い、いえ。 プロ選手としてやっていけるならどのチームでも……ただ、やるからには一部リーグのチームが良いです」
「ふむ」
まあ、中々考えてはいるようですわね。 一部リーグでのプレーを希望するか。
「具体的には?」
「この辺りだと、やっぱり東京クリムフェニックスが第一候補です」
「クリムフェニックス強いからねぇ」
「今シーズンも大阪ホワイトフォックス、福岡ブルーコンドルズと激しい首位争いをしていますね」
「ふむ。 クリムフェニックスさんね……。 そちらから話が来ていたりは?」
「先日、お話を伺ったところです」
むきーっ! 出遅れましたわ!
「もう返事をされたり?」
「いえ、とりあえず保留です。 他にも色々なチームからお話が来ていますので」
「そ、そう」
さすが昨年の最優秀MB。 どのチームもしっかり声を掛けてきてますわね。
「じゃあ、西條アルテミスも交渉して大丈夫かな?」
「それは大丈夫ですが……二部リーグのチームですよね?」
「今シーズンは仕方ありませんわ。 参戦初年度ですし。 しかし、現在二部リーグでは負け無しの連勝中。 来シーズン一部リーグ昇格はほぼ間違いありませんわ」
「な、なるほど」
「その他諸々の細かい内容はこのプリントに書いてあるよ」
亜美ちゃんがチームの詳細データや、初年度の契約条件。 福利厚生や寮の詳細などが細かく書いてあるプリントを手渡す。
「これはまた凄い条件ですね……」
「まあ、他の選手達も似たような条件ですわ。 活躍に応じて上下することになるけど」
「なるほど……あ、天堂先輩もいらっしゃるんですね」
「天堂さんは星野さんの直接の先輩でしたわよね。 昨年スカウトさせてもらいましたわ」
「なるほど」
と、プリントに目を通していく星野さん。 多分、今日返事がもらえる事は無さそうかしら。
「少し持ち帰って考えさせていただいても?」
「もちろん。 貴女の将来の事ですから、ゆっくり考えて結論を出してください。 もし、アルテミスと契約を結ぶと決まったら、そちらの番号に一報をお願いしますわ」
「わかりました」
と、こちらの交渉はここまでとなった。 出来ればうちのチームに欲しい選手だけど、引くて数多のようね。 果たしてうちに来てくれるかしら?
「さて、次は海咲さんだね。 まだ2年生だけど、あの活躍ぶりだともう各チームが目を付けててもおかしくないよ」
「ですわね。 次はもうちょっと早めに動かないとね」
ちょっとのんびりし過ぎたみたいですわねー。
◆◇◆◇◆◇
2年生という事は、放課後のこの時間はバレー部の練習に出ているはず。 という事で、バレー部体育館へやってきましたわよ。
キュッ! キュッ!
パァンッ!
「やってるねぇ」
「ですわね」
「良いスパイク打ってますね。 あの人が海咲さんです」
と、前田さんが指差す先にお目当ての人物が。 いきなり声を掛けるのはマナー違反なので、まずはコーチに話を通す。
「すいません。 千葉西條アルテミスのオーナーの西條奈央と申します」
「は、はい?!」
「奈央ちゃん、いきなり過ぎでコーチがびっくりしてるよ」
「あら」
「あ、ああ、西條さんですか……。 何年か前に一度特別コーチをお願いした事がありましたね」
「ありましたわね」
もうかなり前の話だわ。
「今日は海咲目当てで?」
「あら、わかります?」
「まあ、あいつは今や全国トップですから。 京都の大空も凄いですけどね」
今年の春高を沸かせた3人の内の2人ですわね。 もう1人、東京の浜波選手も凄かったわ。
「呼んでいただいても?」
「わかりました。 おーい! 海咲! お客様だ!」
「はい!」
コーチが呼ぶと、駆け足でこちらへやってくる。 身長は奈々美より高いぐらいかしら。 バレー選手としては高い方ではないわね。
「こんにちは。 千葉西條アルテミスのオーナー、西條奈央です」
「秘書の清水亜美だよ」
「チームマネージャーの前田です」
「だ、大先輩じゃないですか?」
「ま、まあ、そうなりますわね」
「あはは……」
「先輩方の試合、テレビでずっと見て憧れてました! この学校を選んだのも、先輩達に近付きたくてですね!」
「わ、わかりましたから。 本題に入っても?」
「あ、はい、すいません。 感動のあまりつい」
「あはは……」
さて、では海咲さんに唾を付けときましょ。
「海咲さん。 来年卒業した後はプロの道へ?」
「そのつもりです。 京都の大空さんと東京の浜波さんの3人でプロの世界で勝負する約束もしています」
「おお、いいねぇ。 私は弥生ちゃんをずっと待たせっぱなしだよ」
月島さんも執念深いわよねー。
「では、来年。 西條アルテミスでプレーしてみるつもりはありませんか?」
「西條アルテミスというと、今年参入したチームですよね? 二部リーグで首位独走中の」
「そうですよ。 今年からは月ノ木のレジェンド6人が合流予定です」
と、前田さんが説明すると……。
「レ、レジェンド6人?! 西條先輩や清水先輩、藍沢先輩に神崎先輩、蒼井先輩、雪村先輩ですか?!」
「そだよ。 皆、今年で大学卒業だからねぇ」
「行きます! 来年、西條アルテミスでプレーさせてください!」
「え? もう決めちゃって良いんですの? まだ1年あるけど?」
「大先輩方とプレーしたいです! よろしくお願いします!」
こちらはあっさりとアルテミス入りが決まったみたいね……。 まあ、ありがたい事ではあるけど。
「ではまた来年窺いますわね?」
「はい!」
「夏の大会、頑張ってね!」
「応援してます」
「頑張ります!」
とりあえず海咲さんは確保と。 問題は星野さんですわね。 まあ、なるようになるでしょう。
アルテミスの新戦力獲得に乗り出すのであった。
「希望です。 下の世代からも凄い人が出てくるね」
「本当、油断ならないねぇ」




