第159話 後輩
HRも終わり、部活の時間。
後輩達が見学に来るのだが?
☆亜美視点☆
初日の授業が終わり部活の時間。
午前中のみなので、あまり時間は無いのだけど、今日は新入生の部活見学もありそれがメインだ。
私達は更衣室へ向かい服を着替えたあとで体育館へ。
去年は新入生として見学してたんだよねぇ。
なんだかもう懐かしい。
私達が体育館へ入ると──。
「ええーっ?!」
「はぅっ?!」
新入生と思しき子達が一杯来ていた。
ざっと見て20人以上は来ている
私達はコートの前に移動して部長に訊いてみる。
「こ、これ皆見学ですか?」
「そうみたい。 さすがに夏と春連覇すると違うみたいね」
「ふぇー」
これは驚きだよ。 こんなに来るとは思ってなかった。
中には麻美ちゃんの姿も確認できる。
「こほん、えーっと今日は月学女子バレー部の見学に来てくれてありがとうございます。 皆知ってると思うけど、私達は去年のインターハイと今年の春高に優勝して波に乗ってます。 って言っても、優勝の立役者は2年生の皆なんですけど」
部長の挨拶は始まり、1年生達は真剣に聴いている。
私達もこれからは、先輩として振る舞っていかなければならない。
「今年度の目標も勿論、全国制覇です! うちは実力主義ですので、1年生でもレギュラーになれるチャンスがありますから、どんどんアピールしてください!」
「はいっ!」
おお、元気な返事だね!
これは中々期待できるかなぁ。
「んじゃあ、順番に自己紹介でもしてもらおうかな?」
「え、まだ仮入部もしてないですよ部長」
「いいのいいの」
うーん、部長は軽いなぁ。
まあ仕方ないか。
1年生が順番に自己紹介していく。
「月ノ木中学出身 藍沢麻美です。 中学時代はMBをやってました!」
麻美ちゃんはハキハキとしていて元気だなぁ。
MBだったねそういえば。
さらに自己紹介は続いていき、ここで気になる名前が聞こえてくる。
「京都早波中学出身 月島渚です」
京都早波の……月島?
まさかねぇ。
っていうか京都?! 遠くから遥々来るような学校じゃないと思うけどなぁ。
その場はとりあえず、流れを止めないために口を挟まないようにした。
全員の自己紹介が終わり、各自の力量を見る為に簡単に練習に参加してもらうが、いかんせん数が多い。
何グループかに分けて、私達が1グループずつ受け持つことになった。
丁度私のグループに月島さんが入ったので訊いてみることにした。
「えぇっと、月島渚さんだっけ?」
「はい」
短めの銀髪に、ちょっとタレ目な可愛い感じ。
泣きボクロは無いけど、どことなく弥生ちゃんに似てなくも……。
「違ったらごめんね? もしかして月島弥生さんの妹さんだったり?」
「そうです」
「おおお! 弥生ちゃん妹さんいるなんて一言も言ってなかったのに!」
でも、どうしてわざわざ?
「どうして京都立華とかじゃなくて月学なの?」
「よくある、理由です。 姉と比べられるのが嫌で遠くの学校へ」
あぁ、なるほど。
出来るお姉ちゃんと比べられるのが嫌で、ワザと違う学校に入学したと。
どうせならライバル校に入学して、弥生ちゃんを倒そうってことだね。
納得したよ。
「ふふ、うちは大歓迎だよ! 頑張ってレギュラー勝ち取ろう!」
「はい!」
それにしても、独特のイントネーションは共通なんだね。
「ポジションは?」
「中学時代はMBやってたんですが、やりたいポジションはOHです」
なるほど、お姉ちゃんと同じポジションだと比べられるからMBやってたんだねぇ。
でもあれ? 中学の頃は渚ちゃんを試合で見なかったような?
まあ、いっか。
「うちのOHは層が厚いからかなり大変だよぉ?」
「頑張ります!」
うんうん、やる気満々だ。
育て甲斐のありそうな後輩だよ。
「よし、1人ずつ見ていくからOHとS志望はこっち、LとMB志望は反対コートへ移動して下さい」
「はい!」
私が受け持つ後輩は5人。
渚ちゃんを含めて2人がOH、1人がS、2がMBでLはいないらしい。
私は手が空いている希望ちゃんを呼んでLをお願いした。
「じゃ、お願いね希望ちゃん」
「ひゃいっ」
人見知りを克服したのかと思ったらそんな事は無かった。
後輩相手に発動してるよ。
「じゃあ、私がレシーブ上げるから、Sがトスを上げてね。 OHの人は欲しいトスを伝えてから助走して下さい」
サインはまだ教えてないからね。
「じゃあいくよ」
Sの子、小川美鈴ちゃんに向けてレシーブを上げる。
「オープン」
渚ちゃんが、トスを要求するとSが、山なりの高いトスを上げる。
渚ちゃんは助走から踏み切ってジャンプして──。
パァン!
中々にパワーのあるスパイクを放つ。
これはこれは、コンプレックスなんか抱かなくても良さそうなものだけど、やっぱり周りには比べられちゃうんだろうね。
「良いよー! ナイススパイク!」
「ありがとうございます!」
さて、次の子はどうかなぁ?
金城有沙ちゃんだったかな。
「Aクイックお願いします!」
「はい!」
有沙ちゃんが助走に入り、美鈴ちゃんがトスを上げる。
「うん、良いトスだね」
パァン!
綺麗にクイックを決めて着地する金城さん。
この子も素質ありだね。
まだまだ伸び代もある感じがする。
ブロックの2人も身長ある方だし、技術を叩き込めば一線級の活躍は期待できそうだよ。
今年の1年は優秀だ。
そのまま、何周かスパイクを見たところで、部長から集合の声がかかる。
「はーい、今年の1年は凄いわね。 数もいるし新人戦にも出ましょう。 今日はまだ見学だけど、入部してくるの待ってるからね!」
「はい!」
いいねいいね。
一気に賑やかになったよ。
「んじゃ、ここいらで全国レベルのプレーを見てもらいましょうかぁ?」
んん? 聞いてないよそんな話。
部長は「ささ、レジェンドの皆様」とか言って、私達にコートへ入れと促す。
「はぁ……」
先程の1年のように、攻撃組と守備組に分かれてコートに入る。
守備組には部長と副部長が加勢した。
「いつでも来ーい!」
「じゃあいくわよ?」
奈々美ちゃんが奈央ちゃんに向けて高いレシーブを上げると、私達はテンポをズラして助走に入る。
私は一番最後。
「後輩に見せつけて差し上げましょう!」
まず、最初に助走を開始していた紗希ちゃんが跳ぶ。
ブロックの遥ちゃんがコミットブロックに跳んでいたが、紗希ちゃんはフェイク。
奈央ちゃんの高いトスが上がり、二番目に助走していた奈々ちゃんも跳ぶけどこれも違う。
最後に助走した私が、高くジャンプして部長のブロックの上からスパイクを叩きつける。
それを自慢の反射神経で、レシーブする希望ちゃん。
落ちて来たボールを遥ちゃんがキャップしてプレー終了。
「おおお! これが先輩方のプレー!」
歓声が起こる。
大したものじゃないと思うけどなぁ。
でも、なんていうか悪い気はしない。
「皆も、この先輩達に負けないように、頑張ってついてきてね!」
「はいっ!」
何だか青春って感じがするねぇ。
最後は、皆でクールダウンしてから解散となった。
私達は、シャワーを浴びて制服に着替えてから、校門へ向かった。
校門では、夕ちゃんと宏ちゃんの他に、麻美ちゃんと渚ちゃんが立っていた。
何故渚ちゃんまで?
「おう、お疲れ」
夕ちゃんが、手を上げて声をかけてきた。
私達も「お疲れー」と、返事をする。
「夕也くん、雨止んだね」
「そうだな」
「何よ? 何処か行くの?」
「ちょっとな」
「うわーん」
「え? 何? 急に亜美ちゃんが泣き出したよ?」
「情緒不安定なんですの?」
皆に心配されるのだった。
当然嘘泣きなんだけど。
そんな私を見て、なんだか困ったような顔をしているのは渚ちゃんである。
「そういえば、渚ちゃんは麻美ちゃんと仲良いの?」
「同じクラスだよ」
「そうですね」
なるほどなるほど。
「この子は後輩か?」
「そうだよ。 月島渚ちゃん。 弥生ちゃんの妹さんなんだって」
「ほう、あの子の妹さん。 たしかにどことなく似てるな」
夕ちゃんが、渚ちゃんをまじまじと見つめる。
渚ちゃんは、少し困ったように俯いてしまった。
「夕ちゃん、見すぎだよ」
「おっとすまん」
夕ちゃんが視線を逸らして謝ると、渚ちゃんは手を振り「ええんです! 気にせんといてください」と慌てていた。
可愛い。
「渚ちゃんって、どこから通ってるの?」
「駅前の、マンスリーマンションからです」
「うわわ、あそこかー……一人暮らし大変だね」
「ええ、まあ……」
そこまでして、弥生ちゃんから離れたかったのかな?
仲悪いんだろうか?
私は敢えてこの場では訊かず、後で弥生ちゃんに電話してみることにした。
分かれ道まで他愛ない話をして、駅の方へ向かう渚ちゃんとは途中で別れるのだった。
「あの子、バレーはどうなの? あんたのグループだったでしょ?」
「かなりやれると思うよ。 弥生ちゃんと比べられるのが嫌だって言ってたけど、気にする程じゃないと思うんだけどねぇ」
「うんうん。 結構なパワーだったね」
「ううーライバルゥ」
麻美ちゃんは、彼女をライバル認定したようだ。
競い合うことは良い事だよ。
頼もしい後輩が出来て嬉しいよ。
バレー部の後輩の中に弥生の妹がいた。
新生月ノ木女子バレー部始動。
「奈々美よ。 弥生に妹がいたのね? あの子何も言ってなかったけど何かあるのかしら? まあ、その辺の事は亜美に任せましょ」