第157話 春の陽気
夕也と2人でボートに乗りに来た希望。
付き合っていた頃の事を思い出し、少しドキドキ。
☆希望視点☆
皆が宴席で寝てしまい、起きているのは私と夕也くんだけになってしまった。
私は、ここぞとばかりに一緒にボートに乗ろうと夕也くんを誘ってみた。
夕也くんは特に反対するでもなくOKしてくれた。
静かに宴席を離れて、ボート乗り場へやってきた私と夕也くん。
「ありがとね」
「ん? 別にこれぐらいいいだろ」
「そ、そうなんだ」
この辺の事は別に気にしないんだね。
やっぱり幼馴染感覚に戻っちゃってるのだろうか? だとしたら寂しいものだ。
「んじゃ乗るか」
「うん」
久し振りに夕也くんとボートに乗る。
ドキドキするよ。
「な、懐かしいね」
「ははは、そうだなぁ。 もうずいぶん前になるよな」
「うん……」
「ごめんな」
「ううん! 良いの」
お別れしたこと自体は私も納得はしている。
「……夕也くんの中では今はどうなってるの?」
「まだなんとも……本当にすまないと思ってる」
「そっかそっか」
夕也くんは夕也くんなりに、頭を悩ませているのかもしれない。
私が同じ立場でも、同じように悩んで迷っていたはずだ。
「希望はやっぱり悔しいとか思ってるか? 一度は通じ合えたのに、横から来た亜美に邪魔されて振り出しに戻った事」
「もちろんだよ。 悔しいと思ってる」
もう離したくないと、そう思って頑張ってみたけど、届かなかった。
それだけの事なのだ。
「そうか……」
せっかく2人になれたのだから、暗い話題はやめたいな。
よし、話題を変えよう。
「亜美ちゃんの誕生日プレゼント、今年も一緒に選ばない?」
「ん? ああ、いいな。 そうしよう」
「いつ買いに行く?」
「もう学校も始まるからなぁ」
「明日かな? 午前中には部活終わるし」
「そだな、明日だな」
「決まりね。 今年は何をプレゼントしよっかなぁ。 去年はワンピースだったし。 うーん」
亜美ちゃんは、何が欲しいのだろう?
あまり「あれが欲しい」と主張するようなタイプじゃないしなぁ。
「本人に聞けば良いだろ」
夕也くんはまた……。
「去年言ったでしょ? 何が欲しいか本人に聞くのはナンセンスだよ。 0点」
「相変わらず厳しい採点だな」
当然だ。 イマイチ女の子の心がわかっていないんだよね、夕也くん。
そこが欠点だよ。
「となると、今の亜美に必要そうな物だな」
「ボケねこファンブックかな」
ボケねこの全てがわかる解体全書。
もちろん私は持っている。
何故か対面に座る夕也くんは、顔を痙攣らせている。
「それは、喜ばないと思うぞ」
「えー! 何でー?」
ファンなら垂涎のアイテムなのに。
亜美ちゃんは猫さん好きだから、きっとボケねこの事好きになれるはずなんだけど。
「っし、明日も市内まで出て来るか」
「お、良いね! 明日はボケねこショップ行っても良い?」
「おう、構わないぞ」
「い、良いの? やった!」
夕也くんは、湖の真ん中でボートを止めて、少し一休みする
「周りはカップルだらけだなぁ」
「多分、私達もそう見えてるよ」
「だろうな」
周りのカップルはイチャイチャとしている。
う、羨ましい。
「じーっ」
「な、何だ希望? 物欲しそうな顔して」
「ちょっとぐらいならイチャついても良いですかっ?」
「んー? あぁ、周りが羨ましいのか」
夕也くんも察したらしい。
夕也くんは、少し考えると「仕方ない奴だな」と、微笑んだ。
「でもボートの上ではちょっとやめとこうぜ。 降りて、皆の所に戻るまでの間で良いか?」
「んー、うんっ」
言ってみるものである。
何と、久し振りに夕也くんとイチャつけるらしい。
ごく短時間とは言え、最近不足気味だった夕也くんパワーが補充出来る貴重な機会だ。
「ふふふ……」
「可愛い奴め」
夕也くんはそう言うと、ボートを再び漕ぎ出した。
2人でこうしていると、付き合っていた頃を思い出す。
もう一度、あの時に戻りたい。
◆◇◆◇◆◇
ボートを降りた私は、早速夕也くんの腕に自分の腕を絡める。
こうやって歩くのも、本当に久し振りだ。
「えへへ」
「本当に嬉しそうだな」
「うん、嬉しいよ」
ゆっくり歩きながら、皆の所へ戻る。
宴席では、奈々美ちゃんと亜美ちゃんが起きて、お話をしていた。
「あら、おかえり。 2人で抜け出して何してたのよ?」
「ちょっとボートに……」
「あー! 希望ちゃん抜け駆けだよー!」
「はぅぅっ」
そんな風に言われると、凄く申し訳なくなる。
でも亜美ちゃんは「まあ、良いか」と、あっさり流してくれた。
「それにしても、他の皆はよく寝てるね?」
「暖かくて気持ちいいのよねー」
「うん。 でも、そろそろ起こさないとね」
最初に寝始めた張本人がそう言って、皆を起こし始める。
「んんー……今何時ぃ?」
「ふぁー……気持ち良かったぁ……」
皆、爆睡していたようだ。
私もちょっと寝てみたくなったのは内緒だよ。
「あまり時間は経ってないんだな。 結構寝てた感覚なんだが」
「そうねー」
私達がボートに乗ってたのが30分くらいだし、本当に短時間だけど、ぐっすりだったらしい。
「で、これからどうする? お花見はもう終わり?」
「そうね、後はさっき言ってた写真撮って、この辺片付けましょ」
亜美ちゃんと奈々美ちゃんがそう言って、その辺のお客さんにカメラを渡して撮影をお願いしている。
快く承諾してもらえたようで、私達は桜の木の前に並ぶ。
「お願いしまーす!」
◆◇◆◇◆◇
写真撮影を終えて、周辺の後片付けを済ませてから公園をあとにした。
まだまだ時間があるので、皆でショッピングモールをウロウロと散策することにした。
これなら、明日じゃなくて今日のうちに亜美ちゃんへの誕生日プレゼント買えるのではないだろうか?
いや、でもここは敢えて明日買いに出る事にしよう。
夕也くんと2人で出かける、良い口実なのだから。
「おー、このバッグ可愛いなぁ。 猫さんバッグ」
「本当だね」
亜美ちゃんが、珍しくバッグに見惚れている。
持ち合わせが無くて諦めたようだ。
「希望……」
「ん?」
夕也くんが、耳うちで話しかけてくる。
内容は亜美ちゃんへのプレゼントについてだ。
どうやら、同じことを考えたらしい。
「これが良いよな?」
「そうだね」
あっさりと、亜美ちゃんへのプレゼントが決まったのだった。
洋服屋では、紗希ちゃんと奈々美ちゃんが色んな服を試着して、私達の目を楽しませてくれた。
2人とも、モデルさんみたいだし何を着ても似合う。
紗希ちゃんに至っては、気に入った服を買っていた。
色んなお店を梯子して、ショッピングモールを出る頃には、夕方になり空が赤く染まっていた。
「いやー、今日も遊んだわねぇ」
「そうだなぁ」
時間を忘れて遊べる友人達。
本当に素敵な縁だと思う。
私達は駅へ向かい、見慣れた街へ戻ってきた。
駅前で解散する前に、亜美ちゃんが皆を呼び止めた。
「皆、待って!」
「ん? どしたのー?」
皆が立ち止まり、亜美ちゃんを振り返る。
すると亜美ちゃんは、かしこまったように言葉を続ける。
「今日は本当に、急な思い付きで誘ったのに集まってくれてありがとうございました!」
皆は、それを聞いて顔を見合わせたあと、輪になって手を差し出した。
それぞれの手首には、同じデザインのブレスレットが着けられている。
「私達の仲でしょ?」
「そーそー」
「あぅ……」
亜美ちゃんも、輪に加わり手を出した。
「私達の友情は永遠だー!」
「おー!」
「よし、それじゃまた明日、学校で!」
紗希ちゃんが明るくそう締めて、私達は手を振り解散した。
うん、やっぱり友達って良いね。
「さて、私達も帰りましょ?」
「うん」
幼馴染5人だけになったところで、私達は「明日同じクラスだと良いね」などとお話しをしながら、自宅への帰途へついた。
花見も終えて、満足の一行。
仲間の絆も深まっていく。
「亜美だよ。 お花見成功で良かったよ。 途中でちょっと寝ちゃったりしたけど、ポカポカ陽気で気持ちよくてつい……。 明日から新学年で後輩もできるし、気を引き締めて頑張ろうー! おー!」