第155話 お返し
4月に入って今更ホワイトデーのお返しを貰えることになった亜美。
☆亜美視点☆
強化合宿から戻ってきた私達。
今日は4月3日。
もう後1週間もすれば私の誕生日だ。
そして今日は、夕ちゃんと2人でお出かけの日。 ホワイトデーに熱を出してダウンしたために一緒に遊びに行けなかった分の埋め合わせということになっている。
「おはよう夕ちゃん」
「んーおはよう……」
「眠そうだね夕也くん」
朝食を作りに来たわけだけど、夕ちゃんは本当に眠そうだ。
大丈夫かな? 今日お出かけできるかな?
「んー……」
「朝ご飯作るね、ちょっと待ってて」
「おう……」
夕ちゃんはそういうと、ダイニングのテーブルに腰かけた。
ダメだ、半分寝てる。
「夕ちゃん、今日はやめとく?」
「いや、大丈夫だ……コーヒーでも飲めば目も覚める」
「そう? じゃあコーヒー淹れるね」
「頼む」
夕ちゃんはそう言うと、テーブルに突っ伏してしまった。
私は、コーヒーを淹れて夕ちゃんに渡す。
すぐに希望ちゃんが、ベーコンエッグと味噌汁も持ってきた。
私はお茶碗にご飯を入れて、テーブルに並べていく。
「夕ちゃん、食べよ?」
「おう」
夕ちゃんは、朝食を食べて行くうちに少しずつ目が覚めてきたようだ。
良かった。
「今日はどこ行くよ?」
「ん? 隣町でいいよ? 歩いて行こ?」
希望ちゃんがそうしたらしいから、同じでいい。
「了解」
「私は先月楽しんできたし、亜美ちゃんも楽しんできてね」
「うん」
久々に夕ちゃんと2人でお出かけだ。
しっかり楽しむよ。
◆◇◆◇◆◇
朝食を食べた後、私は一旦着替えに戻り軽く化粧をしてから、再度夕ちゃんの家に行く。
「夕ちゃーん、準備出来たよー」
私が呼びかけると、夕ちゃんがリビングから出てきて玄関へやってきた。
「お、そのワンピースは去年誕生日にプレゼントしたやつか?」
「うん。 暖かくなってきたからね」
4月にもなり、気温も上がって来たので多少薄着でも大丈夫だ。
「可愛いな」
「ん、ありがと」
夕ちゃんは、とりあえずその語彙力の無さを何とかしてほしいものである。
家を出て、予定通り2人で歩いて隣町を目指す。
手を繋いで、実に仲良しだよ。
「で、お返しに欲しい物は何かあるのか? おっと、現金とか婚約指輪ってのはナシだぞ?」
「婚約指輪? 魅力的だねぇ。 でも今はまだいいかなー」
ていうか、何調べなんだろうそのチョイス。
「んとね、そろそろ財布を換えようかなって思ってるんだ」
「財布か? ブ、ブランドものとかじゃないよな?」
「いやいや、安物でいいよ」
夕ちゃんの懐状況を考えると、高い物を要求する事は出来ない。
ちゃんと、夕ちゃんの事を考えられる私って偉い。
「すまんな、貧乏で」
「ううん、お返ししてくれるだけでもありがたいことだよ」
あんな手抜きの手作りチョコでも、ちゃんとお返しを考えてくれる夕ちゃんはやっぱり優しい。
「そういえば、強化合宿はどうだった?」
ここで話題は、先日まで行われていた私達の強化合宿の事へ移る。
「うん、夕ちゃんが言った通り、いい経験になったよ」
色んな人の練習や、普段一緒にプレーしない人との連携は、とても楽しかった。
どんどんレベルアップしていく皆に、負けたくないっていう気持ちも働いて、私自身も強くなれた気がする。
「行って良かったな」
「うん。 でも、夕ちゃんは退屈だったんじゃない? 私達がいない間何してたの?」
私と希望ちゃん、奈々ちゃんもいなかったし、長期連休の旅行主催者奈央ちゃんもいなかったから、さぞかし退屈だったはず。
と、思ったけど──。
「宏太と適当に遊びに行ったりしてたぞ? あと、紗希ちゃん遥ちゃんがバレーの練習手伝ってほしいっていうから、2人のサポートとかもしてたぜ」
「へぇ、私達がいなくても紗希ちゃん達と会ったりするんだ」
結構意外だなぁ。 私達が間にいるから一緒に行動してるんだと思ってたけど、ちゃんと友達やってるんだ。
「2人とも、お前達合宿組に置いてかれないようにって、めっちゃ頑張ってたぞ」
「おお、それじゃ2人もきっとレベルアップしてるね! 月学に死角無し!」
「そうだな」
これは夏の予選が楽しみだよ。
ゆっくりと歩きながら、気付けば喫茶緑風の近くまでに来ていた。
そこで夕ちゃんが口を開く。
「帰りに、緑風にでも寄るか?」
「ん? 良いの?」
「おう」
んーそれなら……。
「希望ちゃんも呼んで3人で良い?」
「ん? お前が構わないなら別に構わんが」
「じゃあ、呼ぶね」
私はスマホを出して、早速希望ちゃんに電話をかける。
希望ちゃんは準備しておくとの事で、私達が買い物を終えて良い頃合いにまた連絡することにした。
電話を切って、ふと公園の方に目を向けると──。
「うわわ、桜綺麗だねぇ」
「ん? そうだなー。 暖かくなってきたしな」
「皆でお花見したいね」
と、思い立ったが吉日というやつである。
明日か明後日でお花見しませんかという旨を、ラインのグループチャットに投げかける。
返事は後で確認しよう。
「行動の早いやつだな」
「えへへー」
楽しい事はどんどんやるべきだと思うわけだよ。
皆でお弁当持ち寄って、桜の見える公園とかで皆とお話ししながらわいわいする。
素敵だと思う。
「お、そろそろ駅が見えてくるな」
「うん、いつも降りる駅だね」
普段は電車で行き来している駅だ。
こうやって改札以外の場所から隣町に入ってくるのは新鮮でいいね。
私達は、財布を見る為に雑貨屋さんに入って財布コーナーを物色する。
「うーん」
悩む。
可愛さ重視のこの猫さんの財布か、機能性重視のこの地味な財布か。
「ゆっくり選べよ」
「うん」
夕ちゃんも待っていてくれるみたいだし、後悔しないようにゆっくり選ぶ。
たっぷり悩んだ私は結局、猫さんの可愛いお財布を選んだ。
「それでいいのか?」
「うん、これでいい」
「そうか。 んじゃ会計に行くか」
「うんっ」
夕ちゃんと並んで会計へ向かう。
夕ちゃんが代金を払ってくれて店を出る。
近くの休憩所で財布の中身入れ替えて、新しい財布を鞄の中に入れる。
古い方のお財布さん、今までありがとうね。
「さて、行くか」
「うん」
買い物だけしてすぐに帰るというせわしなさ。
でも、今日はこういう予定だし仕方ないよね。
緑風でのんびりした後は、夕ちゃんの家にでも行ってゆっくりしよう。
「っと、そだ、希望ちゃん呼ばないと」
電話で希望ちゃんを呼び、私達は緑風へ向かう。
緑風に着くと、看板の横で希望ちゃんが待っていた。
ちょっとおめかししてて可愛い。
「お待たせ」
「おかえり。 でも私まで一緒で良かったの?」
「うん。 3人の方が楽しいじゃない」
遠慮はいらない。 何事も楽しいが一番だよ。
「じゃあ、入るか」
「うん」
3人で緑風に入り、席に案内してもらう。
私達は特にメニューを見るでもなく、早速店員さんを呼び注文を告げる。
「フルーツパフェ1つ」
「ホットケーキとオレンジジュース」
「ホットコーヒー」
それぞれの注文を繰り返し、店員さんは去って行った。
すぐに希望ちゃんが話しを始める。
「で、お買い物楽しかった?」
「うん」
「何買ってもらったの?」
そう訊かれたので、鞄から財布を取り出す。
「これ」
「おー、猫さんのお財布! 可愛い!」
希望ちゃんからも大絶賛だった。
やっぱり可愛いのが良いよねぇ。
見た目は大事だよー。
「あ、そうだ。 グループチャット見たよ。 お花見良いね」
「あ! 皆の返事どうだろ?」
スマホを開くと、皆からメッセージが返ってきていた。
「んーと、皆明後日なら大丈夫みたい! じゃあ、明後日お花見決定ー」
「おー!」
「良かったな」
「うん」
また春休みの楽しみが増えたよ。
「そういえば、もう来週は亜美ちゃんの誕生日だよね」
「そうなんだよなー」
「早いよね?」
そう、私と夕ちゃんの初キッスをからもう1年なのだ。
あの時は強引に奪ったし、今とは心境も全然違うけど。
ふふ、今年もキスもらっちゃおうかななんて。
「またプレゼント買いに行かないとなぁ」
「今年も私と買いに行く?」
「むっ」
去年は「いってらっしゃーい」だったけど、今はちょっと複雑な気分である。
「そだなぁ。 また希望のチョイスでいくか」
「むむぅ」
「亜美ちゃん怒らないの。 亜美ちゃんの為だよぉ?」
「むむむぅ、仕方ないなぁ」
ここは、私も折れざるを得ない。
そうだ……私の誕生日の後はすぐ夕ちゃんの誕生日。
「夕ちゃんの誕生日、私からの誕生日プレゼント期待しててね」
「ん? おお、あまり高いのじゃなくて良いぞ?」
「ぬふふー」
すでに予約していて、後は日を見て買いに行くだけ。
お金もちゃんと貯まったし良かった。
ここで、それぞれ注文した物が運ばれてきた。
私達は3人で雑談しながら、楽しい時間を過ごす。
今の幼馴染という心地よい関係も良いものだと思いながら、夕ちゃんと希望ちゃんの顔を眺めていた。
2人でも楽しいけど、3人ならもっと楽しい。
「紗希です。 仲良しだよねー3人は。 本当に男の子の取り合いしてるの? 忘れるなかれ! 恋愛は戦争だー! んー、でもあの3人はあれで幸せそうなんだよねー。 何というか微笑ましい」