表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/2182

第147話 亜美の我儘

熱を出して、一緒に出掛けられなかった亜美を、夕也が見舞いに来た。

 ☆夕也視点☆


 希望との買い物を済ませた俺は、家に戻らずにそのまま亜美の部屋に向かった。

 熱を出して寝ていると聞いていたが、幾分熱は下がったようで静かな寝息を立てている。


「……」

「すー……すー……」

「この分なら明日には良くなってそうだね?」

「だな」


 希望は安心したようにそう言うと「私は夕也くんの家の掃除してくるね」と、部屋を出て行った。

 俺はどうしようかと悩んだが、亜美が目を覚ますまで本でも読んで暇つぶしでもすることにした。

 亜美の部屋の本棚には、同じ著者の小説が並んでいた。

 しかも大体が恋愛小説だ。

 あまり読む気が起きないな。

 仕方ないので、スマホでネットサーフィンでもしながら時間を潰す事にした。


「……」

「すー…」


 ニュースサイト何かを見てみる。

 世間では結構いろいろなことが起こっているらしい。


「物騒な世の中だなぁ。 明るいニュースは無いのかよ」


 ニュースサイトを閉じて、ふと亜美の方に視線を送る。

 まだ心地よく眠っているようだ。

 仕方なく、適当な本を取り出して読んでみることにした。


 ◆◇◆◇◆◇


「うーん……夕ちゃん?」


 本を読んでいると、亜美がようやく目を覚ましたようだ。

 時間は17時の夕方である。


「おう、おはよ」

「……んー……今、夕方だよ?」

「知っとるわ」

「ずっといたの?」

「あぁ、帰って来てからずっとな」

「変なことした?」


 亜美は、布団に寝転びながらそう言う。

 俺はただスマホや本を見ていただけだと告げると、つまらなさそうに「ふぅん……何もしてないんだ」と言った。

 風邪で寝てる幼馴染相手に、一体何をしろというんだろうか?

 俺だってそこまで飢えてはいない。


「どうだ、体調は?」

「んー……熱は無さそう……でも怠い」

「そうか」


 亜美は体をゆっくり起こしてベッドの上に座る。

 確かに怠そうだ。

 

「うーん……汗でベタベタして気持悪いよぉ」

「あぁ、だろうな」


 読んでいた本を本棚に戻しながらそう応えると、亜美が言った。


「夕ちゃん背中拭いて?」

「……さーて、亜美の様子も見れたし帰るかなぁ」


 まったく、こいつは恥ずかしいとかそういうのはないのか?

 いくら16年一緒にいて、何度かはそういう関係にもなったこともあるにはあるが、もう少し恥ずかしがっても良いだろう?


「夕ちゃんの意地悪」

「何がだよ……」

「いいじゃん……背中ぐらい拭いてよぉ」

「後で希望にやってもらえ」

「いーまー」


 元気じゃないかよ、自分で出来るんじゃないのか?


「今ー! 今ー!」

「あーもう、わかったから静かにしろ」

「はい」


 俺が折れたとわかるや否や、大人しくなる亜美。

 くそ、亜美の掌の上で踊らされた感があるな。

 こいつにはどうしても甘くなってしまう。


「タオルとか借りてくる」

「うん」


 俺は、おばさんからタオルと洗面器を借りて部屋に戻る。

 おばさんが意味深に「あら、うふふ」と含み笑いをしていた。

 全くこの親子はよぉ。


 部屋に戻ると、亜美は背中を出して待っていた。

 あのなぁ……。


「早くぅ……」

「前は自分でやれよ? 背中だけだからな?」

「うん」


 俺はゆっくりと亜美の背中を拭いてやる。

 白くて綺麗な肌してんだよなぁ。


「希望ちゃんとのお出掛け、楽しかった?」

「ん? まあな。 久し振りだったし」

「……ふぅん」


 亜美は、下を向いて「私も行きたかった……」と小さく呟いた。

 なんだかんだ言って、楽しみにしてたからな。

 ま、亜美だけ仲間はずれってわけにもいくまい。


「元気になったら、一緒に遊びに行こうぜ?」

「いいの?」

「あぁ、約束だ」

「うん!」


 一転して「えへへー」と、嬉しそうな声を上げる。

 可愛いやつだ。

 背中を拭き終り、タオルを亜美に渡して背中を向ける。

 何度か見たものではあるが、さすがにマジマジと見るのは気が引ける。


「希望ちゃんは?」

「ん? 俺の家だ。 もう夕飯の準備でも始めてるんじゃないか?」

「私、行けなくてごめん」

「ばーか。 お前は早く復活しろ」

 

 見た感じはほとんど回復してると思うが、明日1日はまだゆっくりさせるべきだろう。

 希望にもそう伝えておこう。

 

「夕ちゃん、もういいよ」

「おう」


 振り向くと、新しい寝巻に着替えた亜美がベッドに座っていた。

 さっぱりしたようだ。


「ありがと、夕ちゃん」

「気にすんな」

「ふふふ……」


 亜美は嬉しそうに微笑みながら「さて、もう少し寝ようかな」と言ってベッドに横になった。

 最後に「襲ってもいいよ」と、冗談っぽく口にしたが、俺はそれを無視して立ち上がった。


「ぐっすり寝ろよ。 じゃあな、明日も来てやるよ」

「うん。 また明日」


 亜美は、特に文句を言うこともなく手を振って俺を見送った。

 


 ◆◇◆◇◆◇



 自宅へ戻ると、希望がせっせと夕食の準備をしていた。

 俺が手伝っても碌なことにならないので、帰ってきたことだけを希望に伝えてリビングへ向かう。

 リビングでテレビを点けてボーッとする。

 テレビではホワイトデー特集なんてものをやっており、バレンタインのお返しで送られたら嬉しい物ランキングをやっていた。

 世間の声では「お金」といったものから「婚約指輪」など高額なものが多い。

 うーん、希望は良心的だな。

 亜美は何が欲しいと言うだろうか?

 

「まあ、あいつはあまりそういうのに拘らない奴だしな」

「何の話?」

「うん?」


 独り言のつもりだったものに反応が返って来て一瞬びっくりするが、振り向くと希望がエプロンで手を拭きながら立っていた。


「いや、亜美はお返しに何欲しいって言うかと思ってな?」

「あー……夕也くんと一緒に出掛けられればそれでいいって言いそうだよね」

「お金とか婚約指輪とか言い出さないよな?」

「絶対に言わないと思う」

「だよな」


 まあ、今度2人で出掛けた時に訊いてみるとしようか。

 希望は、調理の方が一段落したのかソファーに座ってテレビを一緒に視る。


「あー、なるほど。 これ視て気になったんだね。 お金とか婚約指輪ってさすがに……」


 やっぱりテレビ的、にこういうのを誇張していたりするのかもしれない。

 希望も「こういうのは信用しちゃだめだよ」と言っている。

 

「でも、婚約指輪は嬉しいかも?」

「おーい」


 希望は俺から婚約指輪を貰ったら、という妄想を脳内で繰り広げているのか「えへ、えへへー」と、変な笑みを浮かべていた。

 しかし、俺もいつかは希望か亜美にそういうものを送る日が来るんだろうな。

 

「希望、帰って来い」


 こつんと頭を叩いてやると「はぅ」という声とともに現実へと戻ってきた。


 希望と2人で夕食を囲み、2人で他愛ない話をしながら時間を過ごす。

 食後は、希望の夢となった幼稚園の先生についてパソコンで色々と調べた。

 幼稚園教諭になるには色々なルートがある様で、希望は時間をかけて考えてみるとの事らしい。

 将来やりたいことなんて考えたこともなかったが、もう考えている奴は考えているんだな。

 宏太や奈々美、亜美はどうなんだろうか?

 希望のように、何かが切っ掛けで見つかったりするものだろうか?

 考えてみても、今は何も見えてこない。

 

亜美はホワイトデーのお返しに何を望むのか?


「奈々美よ。 ロボットでも風邪ひくのね? ……あれ? 『人間だよ!』が来ない? まだ安静にって事なのかしら? しかしホワイトデーのお返しねぇ……私はなんでも良いんだけどね? 宏太は香水買ってくれたわよ? 亜美は人とズレてるとこあるから想像できないわねぇ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ