第146話 希望の夢
ホワイトデー
夕也、亜美、希望3人で出かける予定だったが……。
☆希望視点☆
私達は、期末試験を乗り越えてホワイトデーがやってきた。
まだ試験の結果はまだ返ってきていないが、佐々木くんも結構できたと思うと自分で言ってたし大丈夫だろう。
さて、本当なら今日は夕也くんと私と亜美ちゃんの、3人でお出かけの予定だったんだけど……。
「ぁぅ……私も行くぅ……」
「ダメだよー熱あるんだから……」
亜美ちゃんは、珍しく熱を出してしまってお出かけできなくなってしまった。
さすがの亜美ちゃんも、風邪のウイルスにまでは無敵ではないのである。
「うぅ……」
「すぐ帰ってくるから安心してよ。 別に何もしないし」
今日はバレンタインのチョコのお返しを何か買ってくれるらしく、何が良いかわからないからついて来てほしいということらしい。
なので、隣町辺りで安い物を見繕ってすぐに帰ってこようと思う。
私だって、亜美ちゃんがこんな状態の時に夕也くんとの仲を進めるつもりはない。
「夕ちゃん……ぁぅー」
本当に夕也くんの事好きだねー。
「元気になったら、2人で出かければいいじゃない?」
「うん……」
亜美ちゃんは、布団の中で小さく頷いて目を閉じる。
風邪を引くと、少し子供っぽくなるあたり凄く可愛いのだけど。
「じゃあ行ってくるね」
「うんー……」
私は、亜美ちゃんに手を振って部屋を出る。
夕也くんとの約束に時間は、あと30分後。
少し部屋でくつろいだ後に家を出た。
◆◇◆◇◆◇
「おはよ、夕也くん」
「おはよう。 亜美、大丈夫か?」
「うん。 お母さん達が家にいるし」
看病の方は、お母さんに任せて来たので問題無い。
「帰ってきたら、顔を見せてあげて」
「あぁ」
私と夕也くんの2人で、歩き始めた。
目的地はとりあえず隣町へ行くのだけど、今日は趣向を変えて歩いて行こうという事になった。
歩いて30分ほどの距離なので、電車賃の節約にはたまにいいかもしれない。
「こうやって2人だけで出かけるの、久しぶりだよね」
「そうだな」
別れてからは当然初めて。
最後に2人でお出かけしたのって、もしかして去年のイブじゃないだろうか?
本当に久しぶりである。
こうなると、このチャンスをちょっとでも生かしたくなるけど、今日は我慢だよ。
「ちょっとずつ暖かくなってきたね」
「そうだなー。 まだ冷え込む日もあるけどな」
「うん。 多分、亜美ちゃんもその所為で体調崩したんだろうね」
たまに佐々木くんの家に勉強見に行ったりもして、夜遅くまで無理してる日もあったしそういうのが重なったのかな?
「結構辛そうだったか?」
「うーん、熱がそこそこ出てるからね」
「そうか。 希望も伝染らないように気を付けろよ?」
「うん」
私は昔からあまり風邪とかひかないタイプなのだけど、気を付けるに越した事は無い。
「でも。こうやって歩いて隣町に行くのは新鮮だね」
「そうだな。 いつも電車だからな」
こうやって2人で歩いていると、付き合っていた頃の事を思い出す。
手とか繋いでもいいのかな? やっぱりやめた方がいいのかな?
亜美ちゃんの事もあるし今日は遠慮したほうがいいか。
「そういえば、まだ私と亜美ちゃんとのデートはまだ出来なさそう?」
「うーん、もうちょっと待ってくれないか? 恋人でもないのにデートっていうのもどうかと思うが」
「今更でしょ」
「それもそうだな」
大体、デートとただのお出かけの境界ってどこにあるのだろう?
当人同士の認識の違いってだけではないのだろうか?
今日のこれだって、デートだと思えばデートになるんじゃ?
「まぁ、私も亜美ちゃんも気長に待つって決めてるから。ゆっくり考えて良いよー」
「ははは……悪いな」
「本当にそう思ってるぅ?」
「当たり前だろー。 特にその……お前には本当に悪いと思ってんだ」
「あはは。 そんなに気にしなくてもいいよ」
「でもなぁ。 希望の事大事にするとか言いながらこの始末だからよ」
まぁ、それはそうなんだけど。
「前にも言ったけど、この状況はある程度想定してたんだよ? 夕也くんが亜美ちゃんと私の間で迷ったら、こうなるだろうなって思ってた」
「そうだったな……」
「そんなに悪いと思うんなら、私の事選んでよねー」
「図々しくなったな、希望」
「あはは」
そうやって、仲良く歩いていると、不意に可愛らしい声を掛けられた。
「のぞみお姉ちゃん!」
「ん?」
声の方を見ると、これまた可愛らしい女の子が走り寄ってきた。
この子は。
「さゆりちゃん!」
さゆりちゃんは、この間の幼稚園の先生体験の時に仲良くなった女の子。
見てみると、お友達と公園で楽しく遊んでいる最中のようだ。
良かった、一杯お友達出来たんだね。
「この子は?」
「うん、この前の家庭科で女子は幼稚園に行ったでしょ? その時に仲良くなった子だよ」
「へぇ、可愛いな」
「……」
さゆりちゃんは、夕也くんを見て私の後ろに隠れてしまう。
やっぱり人見知りなところがあるようだ。
「お、俺そんなに怖いか?」
「そうじゃないと思うよ? 昔の私みたいなもんだよ」
「人見知りは今でもだろう?」
「はぅ……」
その通りだから何も言えない。
さゆりちゃんは、私と仲良くしている夕也くんを見て。
「のぞみお姉ちゃんのおともだち?」
「うん、そうだよ」
「怖くないぞぉ」
「……」
さらに隠れてしまった。
うーん、本当に昔の私みたいだ。
「さゆりちゃーん」
「あ、みんながよんでるからいくねー」
「うん、またね」
走り去っていくさゆりちゃんに、手を振って別れる。
夕也くんは、なんだか知らないけどショックを受けていた。
「あの子ね、昔の私みたいに1人で遊んでたんだよ」
「ん?」
幼稚園に行った時の様子を、夕也くんに話す。
「それが気になって声を掛けたの」
「そうか」
「私ね、将来幼稚園の先生目指そうかなって」
あの体験の日以来、密かに気になっていた幼稚園に先生という職業。
元々小さな子は好きだし、ああいう子の力になって上げたいと思うようになったのが切っ掛けだ。
「いいんじゃないか? ただ、人見知りはなんとかしねぇとな?」
「はぅ……」
それは中々克服できそうにない。
でも、頑張らないとね。
勉強もしないとだし、今から夢を叶えるのは大変だ。
「応援してやるよ。 希望のその夢」
「ありがとう」
ようやく見つかった私の将来やりたいことだし、全力で頑張るよ。
歩いて数十分で、隣町に到着した私達。
さて、バレンタインのお返しは何買ってもらおうかなぁ。
「何か欲しい物はありますか、希望先生?」
「もぅっ! 先生じゃないよ」
「ははは」
んー、そういえばこの間、亜美ちゃんにぬいぐるみ1つあげちゃったんだっけ。
よし、ぬいぐるみ買ってもらおうっと。
「じゃあ、ぬいぐるみ買って」
「ぬいぐるみか? OK」
私は、すごく大きくて可愛いクマのぬいぐるみを買ってもらい、それを背中に背負って帰るのだった。
この大きさのクマさん、置くスペースあったかなぁ?
希望の将来の夢は幼稚園の先生。
その前に色々と克服すべき事があるようだ。
「希望だよ。 幼稚園の先生になる為に色々勉強しないとね。 え? 人見知りを何とかしろって? わ、わかってるもん……それは追々頑張って克服するよぅ……」