第1477話 トラブルメーカー
最後のお遍路がスタート。
☆麻美視点☆
今日は遂にお遍路最終日! 明日には地元に戻る予定である!
「麻美ちゃん、また納経帳見てるの?」
「うむー。 こういう収集物が集まっていくのを見ると何か楽しいー」
「あはは。 麻美ちゃんはコレクターさんだねぇ」
「うむー」
バスに揺られる事約15分。 本日最初の札所、八十二番根香寺に到着ー!
「朝のお寺は良い物ねー」
「やなー」
「お仲間さんも沢山来てますわね」
頭に笠を被り、金剛杖を片手に持った白装束の人達が一杯いるー。 私達は普段着に金剛杖のみというカジュアルスタイルでお遍路をしているけど、やっぱり他の人達はちゃんとした格好でやっているようです。
「おはようございます。 もう少しですから頑張りましょー!」
「おはようございます。 頑張りますよ」
知らない人とでもきちんと挨拶!
「コミュ力高いねぇ」
「なはは」
私は誰とでも仲良くなれるのだー。
「参拝するぞー」
◆◇◆◇◆◇
チャリーン
「お願いします!」
根香寺も参拝を終えて御朱印を貰う。 納経帳のページがまた埋まったー。
「皆さん終わりましたー?」
「おー!」
「ではバスに戻りますわよー」
「はいよー!」
境内は左側通行! マナーを守りつつバスへと急いで戻るよー。
「次の一宮寺までは約30分。 結構ありますわよー」
「夕也兄ぃ! ババ抜きの特訓をするゾー!」
「おう」
「まだやってたんだ……」
「頑張っテ!」
しかし、何故私達はババ抜きで勝てないのかー。
「良い加減に気付きなさいよ……」
と、お姉ちゃんは呆れたように私と夕也兄ぃに言う。 簡単に気付けたら苦労しないー。
◆◇◆◇◆◇
30分後ー!
「夕也兄ぃとは互角ー」
「だなぁ。 強くなってんのかわからんな」
「なってるわけないでしょ……」
「私達から見てたらどっちがジョーカー持ってるか丸わかりだよ」
「何故……」
「謎ー」
「はいはい。 それより一宮寺に着きましたわよ」
「おー、着いたかー」
「よっしゃ! どんどん参るで!」
「おー!」
順番にバスを降り、山門の横に集合。
山門をくぐる時は合掌して一礼。 これが大事ー!
手水場で手や口を清めるー。 この時、柄杓に口を付けてはいけない。 清めた手に水を垂らして、そこから口へ! 取水する時も、下の水溜りからじゃなくて流れてくる水を取るんだぞー!
「次ー」
鐘撞ー。 西條先輩が代表して鐘を撞く。 私もやってみたいー。
「次ー」
灯明とお線香ー。 これも代表して西條先輩がやるー。 蝋燭とお線香を立てるんだよー。 後から来た人の邪魔にならないよう、奥から立てていくようです!
「次ー!」
お賽銭ー。 お賽銭を入れる時は、静かに入れよー!
「次ー」
次は読経。 お経を読んで納めるんだよー。 納経だー。 これを終えたら納経所でお金を払って御朱印を貰う。
「一宮寺終わり!」
「次は八十四番の屋島寺ですわよー」
「30分ぐらいかかるよ。 屋島寺を終えたらお昼のうどんタイムだから頑張ってね」
「おー!」
「ちなみに今日のお昼はざるうどんですわよ」
「おー、やった!」
「楽しみー」
毎日うどんだけど、色々な食べ方で飽きさせない辺りはさすが西條先輩と亜美姉。 しかも毎回絶品なんだから更に凄い。
「それはさておき。 夕也兄ぃ、ゲームしよー」
「おう。 亜美と希望と宮下さんもやろうぜ」
「やるやるー」
と、ゲーマーが集まる。 携帯ゲーム機ではあるがネットゲームを遊ぶ事は出来る。 30分あれば簡単なクエストぐらいはクリア出来るー。
「夕也兄ぃー、また1人で突っ込んで死んでるー」
「はぅ……蘇生蘇生」
「夕ちゃん、足並み揃えてね」
「うわはは! 夕ちゃん君は相変わらず下手ですなー」
「うぐぐ」
夕也兄ぃは中々上達しないのであるー。 何度言っても単身で敵陣に突っ込んで行ってボコられるー。
「亜美姉、魔法いけー」
「てやや!」
メイジの亜美姉が高火力アタッカーだ。 範囲魔法でモンスターを一網打尽にするのだー。
「いやー、楽勝ですなー」
「バランスの良いパーティーだからねー。 夕也兄ぃはもうちょっと頑張れー」
「お、おう」
クエストを終えると、ちょうど次の札所に着く頃であった。 素晴らしい時間調整ー。
「屋島寺に着きますわよ」
「はーい!」
納経帳と杖を用意してー……。
「なは?」
無い……。 さっきまであった納経帳が無いー!
「どうしたの麻美ちゃん?」
「な、無いー! 納経帳がー!」
「ええっ?!」
「何処いったー?! 何処行ったー?!」
カバンの中や服のポケットの中を探しても見つからない。 まさか失くしたー?!
「……」
「何処かで落とした?」
「ぬわー!?」
「落ち着いて麻美。 いつまであったの?」
「さっきのお寺で御朱印もらってー……バスに乗る前にお手洗いにー……のわー! トイレだー!」
「戻りますわよ!」
「了解しました」
西條先輩がすぐにバスの運転手さんに戻るように指示を出すと、運転手さんもすぐに来た道を戻り始めた。
「み、皆に悪いー」
「何言うてんのや。 あんさんだけ納経帳無くして御朱印集め切れへんかったりしたら皆で来た意味あらへんやろ」
「そうよ。 気にしない気にしない」
「まだ置いてあると良いんだけど」
「うう……でも時間がー」
「多少の余裕を見て出発してますわよ。 それに間に合わなくても明日帰る前に最後のお寺だけ行けば良いだけよ」
「うんうん」
皆は大ポカをやらかした私を責める事無く、気にするなと声を掛けてくれる。 うう、良い人達だー!
◆◇◆◇◆◇
一宮寺に戻って来た私は、急いでトイレへ向かう。
「えーと、たしかこの個室にー……あ、あったー! 良かったー! って喜んでる暇は無いぞー! すぐに戻らないとー!」
自分の納経帳を手に取り、急いでバスの元へ戻る。 亜美姉が心配してバスの外で待ってくれていたよー。
「麻美ちゃんどう? あった?」
「あったー! 皆さんご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!」
「ええて。 あって良かったやん」
「うむうむ」
「じゃあ運転手さん。 すいませんがもう一度屋島寺までお願いします」
「はい!」
私の所為で手痛いタイムロスを生み出してしまった。 亜美姉と西條先輩は時計を見ながら予定変更をかけてくれている。 一往復半のロスタイムはさすがに大きいー。
「すまぬー……」
「うん? 大丈夫だよ。 奈央ちゃんも言ってたけど、最悪明日帰る前に八十八番の大窪寺だけ行けば良いんだから」
「ですわよ」
と、2人であーでもないこーでもないと意見を出し合っている。 そして出た結論はというとー。
「このまま行ったとしてもギリギリ16時過ぎには大窪寺に着ける計算だよ」
「念を入れて、お昼ご飯の時間を45分にしますわよ。 これで多分、今日中に八十八ヶ所終えられますわ」
「りょ!」
「おけまる!」
と、少しお昼休憩が短くなるというぐらいの被害で済んだようだ。 ちょっと安心ー。
「ただし、また誰かが忘れ物したら知りませんわよー」
うう、ちょっと精神的ダメージがー。
ムードメーカーなんだかトラブルメーカーなんだか?
「亜美だよ。 でも納経帳見つかって良かったよ」
「お騒がせしてすいませんでしたー……」