第141話 日帰り温泉デート②
スケートで遊び終えた奈央と春人は、昼ご飯を食べに行くことにした。
☆奈央視点☆
スケート場を後にした私達は、予定通り昼食にすることにした。
この辺は蕎麦が美味しいみたいで、亜美ちゃんの計画でも「お昼は蕎麦を食べる」と書いてある。
たしかに蕎麦屋さんが多い。
どうせなら一番美味しいと評判のお店に入りたいわね。
ネットの口コミを見ていると、元祖本木屋というお店が有名らしい。
そのお店に向かうと、なるほど賑わっている。
なんとか席は空いていたので座る事が出来た。
「蕎麦ですか」
「ええ。 ここが評判良いみたいよ」
「お客さん多いですからね」
「ね。 凄いわね」
さて、色々あるけど。
「私は天ぷら蕎麦にしよう」
「僕も同じですね」
やはり天ぷらよね。
近くの店員さんを呼んで、注文する。
「天ぷら蕎麦2つお願いします」
店員さんがメモを取って戻っていく。
「そこら中から出汁の良い匂いするわねぇ」
「そうですね。 匂いだけでお腹が空いてきますよ」
「ふふ、そうよね」
蕎麦が来るまで待ちきれないわ。
「それにしても今日のデートは、なんというか計画的な感じですね?」
ここは嘘をついても仕方がないので、正直に話すことにした。
「えぇ、昨日亜美ちゃんに考えてもらったの」
「そうなんですか?」
「亜美ちゃんのデートプランニング力が、かなり凄いって聞いてたから」
「らしいですね。 僕も夕也から聞きました」
実際、凄いと思うわ。
色々と練られていて無駄も無い。
少しロマンチックな演出なんかもするあたり、ポイントも高い。
今日はそういった演出は無いけど。
「春人君とデート出来るのは、これが最後になるかもしれないから、良いデートにしたかったのよ」
「そうなんですね」
春人君は、特に何を言うでもなく、笑顔で私を見つめている。
「お待たせしました。 天ぷら蕎麦2人前です」
店員さんがやって来て、注文した天ぷら蕎麦を置いていく。
湯気が立ち昇るお椀の中には、細めの蕎麦と、それに乗った海老の天ぷら。
「これは中々美味しそうね」
「はい。 ではいただきます」
「いただきます」
2人で同時に蕎麦を啜る。
コシの強い麺に、よく効いた出汁が絡まりこれは確かに美味しい。
評判になるはずだ。
海老の天ぷらも、衣が出汁を吸って美味しい。
「んん。 美味しい」
「美味しいですね。 これ程の物は中々食べられないですよ」
春人君の言う通りである。
西條グループで買い取りたいぐらいの店だわ。
私達は絶品蕎麦に舌鼓を打つのだった。
◆◇◆◇◆◇
蕎麦を堪能した私と春人君は、少し歩いた場所にある小洒落た土産物屋さんに入る。
亜美ちゃん、こういうとこもチェックしてるのね。
「色々あるんですね」
「このゆるキャラ、この街のご当地キャラかしら?」
蕎麦の束に目と口を付けて、手を生やしたような謎のキャラである。
人気無さそう。
「奈央さんには、こういうのが似合うのでは?」
春人君が手にしていたのは、蕎麦の花を象った髪飾りのようだ。
この街は蕎麦を売りにしているのね。
温泉じゃないのかしら。
「買いましょうか?」
「えっ?」
「奈央さんに買いましょうか?」
わ、私に髪飾りを買ってくれる?
それはもうプロポーズと言って差し支えないのでは?!
「い、良いの?」
「せっかく来たんですから、記念に」
「じ、じゃあお言葉に甘えて……不束者ですがよろしくお願いします」
「……はい?」
どうやら、私1人で暴走していたようだ。
恥ずかしい。
私は、春人君から髪飾りを買ってもらい、早速着けてみる。
「ど、どうかしら?」
「ええ、とても似合うと思います」
満面の笑みでそう答える春人君。
春人君は、思った事を素直に口にするタイプよねぇ。
昔からそうだったわ。
「髪飾りありがとう。 大事にするわね」
「いえいえ」
幾分、良い雰囲気な気もするわね。
今日はイケるのでは?!
「さて、次の目的地へ移動しましょう」
「はい」
次は、団子屋さん?
亜美ちゃん、年寄り臭いチョイスね。
本当に、今井君とのデートを想定してるのかしら?
それに、蕎麦を食べた後に団子って、亜美ちゃんは、ただ食べ歩きたかっただけなのでは?
まあいいけども。
「こっちね」
「次はどんな所なんですか?」
「お団子屋さんみたいよ」
「お団子ですか? さっき蕎麦を食べたばかりですが?」
「亜美ちゃんに言ってあげてくれる?」
「は、はい……」
とにかく、私達は目的の団子屋に向かった。
数分程歩くと、それらしいお店を発見した。
なるほど、お客さんが団子とお茶を持ちながら足湯に浸かっているのが見える。
「中々良さそうだわ」
「考えられた組み合わせですね」
温泉街ならではといった感じかしら。
亜美ちゃん、疑ってたけど中々やるわね。
雰囲気も良いし、ゆっくり雑談でもしながら寛げそうなお店だわ。
「いらっしゃいませー」
「春人君はどれにする?」
「僕は三色団子を」
「私はみたらし団子」
私達は、それに温かいお茶を頼んで、足湯に浸かる。
んー、歩き疲れた足には良いのかもしれない。
それに、冬場だし温まるのもグッドだわ。
少しすると、お店から団子とお茶が運ばれてくる。
「ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
私は、早速みたらし団子に手を付ける。
「はむ……うん、美味しい」
「そうですね。 モチモチしていてとても美味しいです」
「春人君と私の、一本ずつ交換しましょ?」
「良いですよ」
みたらしと三色を交換して、口に運ぶ。
うん、こっちのも中々いけるわね。
亜美ちゃんは、こういうプランを立てるのにどれくらい調べてるのかしら?
まさか、下見なんかしてないわよね?
いや、亜美ちゃんならあり得る。
「はむはむ……」
「可愛らしいですね」
「んぐっ?!」
あまりの不意討ちにびっくりして、団子が喉に詰まる。
慌ててお茶を飲んで、なんとか流し込む。
「はぁはぁ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「えぇ……急にびっくりするような事言われて」
「す、すいません」
ま、まあでも、可愛らしいと言われたことには関しては嬉しいし、プラマイ0ということで。
「嬉しかったし良いわよ」
「そうですか」
私達は、美味な団子と温かい足湯を堪能した後、本日のメインである温泉に向かうことにした。
亜美ちゃんのプラン通りに動くと、本当に無駄な移動も無いしスムーズね。
天才かしらあの子……天才だったわねそういえば。
「んーと、あ、あそこね」
今回、私が貸し切っている温泉を発見した。
西條様御一行と札が掛かっている。
「ほ、本当に貸し切っているんですね……」
「えぇ。 ゆっくり堪能するわー」
暖簾を潜って、西條である事と、学生手帳を見せて中に入る。
男女に分かれて脱衣所へ向かい、服を脱いでいざ!
ガラガラ……
引き戸を開けると、先に春人君が中に入っていた。
うーん、背中がセクシーだわ。
「広いですねー」
「そうねー」
2人で掛け湯をしてから、貸し切り状態の温泉に浸かる。
冷えた体に、ピリリと刺さるような丁度良い湯加減だわ。
「んんーっ! はぁ……癒えるわー」
「普段、肩肘張って疲れていそうですからね」
「うーん……どうしてもねぇ。 私が西條家の娘だって知ってる人間の前では、お嬢様然として振る舞わないといけないし、本当疲れるのよ」
自由気ままにやらせてもらっている以上、最低限の事は守らなければならないし、仕方ない事だけど。
「だから、仲間内でいる時は楽よー」
気の許せる仲間である亜美ちゃん達は、本当に大事にしたい縁である。
「いつも楽しそうですからね」
「そうねー。 紗希や遥とはいつもバカやったり、亜美ちゃんとは色々競ったり、奈々美や希望ちゃんには色々相談に乗ってもらったり」
最初は、亜美ちゃんの弱点を探るために近付いたけど、そのおかげで今がある。
「本当に、皆といると楽しいわ」
「僕もですよ。 最初は日本への留学もあまり乗り気ではなかったんです」
「あら、そうなの?」
「はい。 ですが、皆さんに会えたので、楽しい留学期間を送れました」
「そう……」
春人君が帰るまで、あと2週間か……。
タイミングは今しかないわね。
「春人君は覚えてる?」
「?」
何の事かわからないような顔で、こちらを見ている。
まあ、わかるわけないわよね。
「昔した約束」
「あ……はい。 お互い好きな人と素敵な恋愛をして──というやつですね?」
「そうそう」
「それがどうかしたんですか?」
「知ってると思うけど、私には好きな人がいるの」
「……」
春人君は黙ってしまった。
困っているのだろうか?
「私はね、その人と素敵な恋愛がしたいの。 でも、その人はそう思ってはいないみたいでね」
「そんなことはないですよ。 ただ、少し迷っているんだと思いますよ、その人は」
迷っている?
「奈央さんの事を大事できるかどうか、本当に望むような恋愛を出来るかどうか」
「春人君……」
そうか、ちゃんと考えてくれていたのね。
でも、答えが出せずに……。
難しく考え過ぎなのよ。
「すいません……日本にいる間に、ちゃんとした答えを出します。 もう少しだけ時間を下さい」
「ふふ、しょーがないわね。 あと少しだけよ?」
それを聞いた春人君は「はい」と、頷いた。
◆◇◆◇◆◇
「という感じだったわよ」
「ふむふむ。 デートは概ね成功したと言えるね」
翌日、亜美ちゃんにデートの報告と感想を伝えた。
ちなみに、亜美ちゃんはしっかりと下見をしており、混浴はするつもりはなかったらしい。
春人の迷い。
答えが出るまで後2週間?
「奈々美です。 何々? デート自体は上手くいったの? 良いじゃん。 それにしても、春人も細かいというかなんというか……ささっとOKしちゃえばいいのよ全く」
「本当その通りですわ!」