第140話 日帰り温泉デート①
奈央と春人のデート当日。
亜美の考えたプラン、日帰り温泉デート開始。
☆奈央視点☆
今日は春人君とのデート当日。
昨日、亜美ちゃんに考えてもらったプランで、1日楽しむわ。
朝、早朝に目を覚まして朝食を食べた後で、昨日出しておいた服に着替えて軽くメイクをする。
今日は勝負の日なので、気合いを入れる。
駅前での待ち合わせ時間は10時。
お昼は向こうに着いてから食べる事になっている。
「よし!」
準備万端いざ出陣!
部屋を出て、お父様とお母様に一言告げてから家を出る。
時間には余裕があるので、ゆっくりと待ち合わせ場所へ向かう事にした。
「本屋さん……」
時計を見てまだ大丈夫そうなので、本屋さんに寄り道する事にした。
中に入り、女性誌コーナーを物色する。
大体読んだものばかりだったので、小説コーナーに足を向けると。
「奈央さん? 早いですね」
「春人君?」
待ち合わせ場所ではなく、途中寄り道した本屋さんで会ってしまった。
どうやら、同じように早く出てきてしまい、同じように本屋に寄り道したらしい。
「どうします? まだ15分ほど早いですが、もう行きますか?」
「そうね。 早い事に越したことはないし」
「では、行きましょうか」
私達は本屋を出て、2人で並んで駅を目指す。
「そうでした。 チョコレート、ありがとうございました。 大人っぽいビターなチョコレートで、とても美味しかったです」
「そ、そう? 春人君はああいうのが好きかなーと思って」
「そうですね。 甘いよりちょっと苦いくらいが好きですよ」
良かったわ。 何となくそんな気がして、咄嗟にビターにして正解だった。
「ホワイトデーにはお返しを送りますね」
「西條家にお返しする時は10倍返しね」
「は、はい」
素直に頷く春人君を見て、おかしくなって笑ってしまう。
「あははは、あー冗談よ。 普通のお返しでいいから」
「で、ですよね」
春人君は、どうもあまり冗談が通じないようだ。
駅の前まで来てダイヤを確認すると、予定より1本早い電車に乗れそうだ。
「春人君、急ご。 次の電車に乗るわ」
「はい」
春人君を促し、切符を急いで買ってホームへ向かう。
「今日は日帰りで温泉でしたよね」
「ええ、混浴よ」
「え?」
「え?」
何でそんな、不思議そうな顔をするのかしら?
別々に入っても楽しくないじゃないの。
「か、貸し切りですか?」
「金に物を言わせたわ」
ちょっと積めば貸切にしてもらえた。
別に買い取っても良かったのだけど。
「他のお客さんがいないなら、構わないですが……あ、いや、奈央さんと2人というのもあまり良いとは……」
「何よー。 混浴ならスキーの時に皆でしたでしょ?」
「た、たしかにしましたね……」
そんなに楽しみじゃないのかな?
亜美ちゃんプランなのに……。
も、もしかして私とだから? まだ私の事ちょっと避けてたり?
「しょぼーん」
たまに、亜美ちゃんが使うリアクションである。
なるほど、落ち込んだ時とか自然に出るわね。
「どうなしました?」
「何でもない」
平静を装って応える「そうですか?」と言って、私の方を見る。
「デート……楽しみ?」
ついつい口を突いて出てしまった質問に、春人君は笑顔で答えてくれた。
「はい」
◆◇◆◇◆◇
電車を降りて、バスに乗り込んで、目的地である温泉街に到着した。
硫黄の匂いが微かにして、なるほど温泉街に来たという気持ちになる。
さて、亜美ちゃんの考えてくれたスケジュールによりますと……。
「お昼までは、近くのスケート場で遊ぼう!」と、書いてある。
「何を見てるんですか?」
「今日のスケジュールよ」
「おお、用意周到ですね。 まずは何処へ?」
「スケート場があるから、そこでお昼まで遊びましょう」
「スケート、良いですね」
「ふふふ、銀盤の妖精と言われる私の滑りを見せてあげるわ!」
「おお! 二つ名があるんですね!」
春人君は、やっぱり素直に驚いてくれたけど、別にそんな呼ばれ方はしたこともない。
何なら、今自分で付けた。
「と、とりあえず行きましょう。 こっちよ」
「はい」
私達は、並んで歩いてスケート場を目指す。
温泉街にスケート場ってどうなのかしらね?
◆◇◆◇◆◇
スケート場に到着した私達は、靴を借りていざリンクへ出る。
意外にも、結構な人数のお客さんで賑わっていた。
なるほど、温泉街にスケート場はアリなのね。
早速、西條グループでも取り入れていきましょう。
「奈央さんはスケートには良く来るんですか?」
「んー、あんまり来ないかなー。 今日来たのだって何年ぶりかしら?」
「そうなんですね」
2人でゆっくり滑りながら、そんな風に会話してを楽しむ。
春人君も久しぶりのようだけど、問題無く滑っている。
私もだけど、案外体が覚えているものね。
「亜美さんなんかは、スケートさせても凄そうですよね」
確かに。 亜美ちゃんなら、フィギュアスケートでも世界獲れそうな気がするから怖い。
「ていうか、デート中に他の女子の話題しない!」
「あ、すいません……」
即座に謝ってくる春人君。
パッと、亜美ちゃんの名前が出るあたり、まだ引きずっているのかもしれない。
何をやっても、私の前に立ちはだかる大きな壁。
私が初めて完膚無きまでに敗北した相手。
恋愛においても、亜美ちゃんは私の壁として立ちはだかるかしら。
勝てないと思ったことは無いけど、何をやってもあと一歩及ばない。
「やっぱり、亜美ちゃんの事まだ?」
「いえ、そんなこと無いですよ」
それは意外な答えだった。
もう、引きずってないってこと?
「フラれてしばらくは引きずってましたが、ほぼ毎日、夕ちゃん夕ちゃんと、夕也に甘えてる姿を見せられては……」
諦めもつくということか。
確かに、最近の亜美ちゃんを見ていると、他の男の子は眼中に無いって感じだからね。
「そうかそうか」
私にもチャンスは十分にあるわけね。
最強の敵がいないなら、私の勝利は確約されたも同じ。
とはならず、一番問題なのは春人君である。
そりゃ、私はチビで胸はお世辞にも大きいとは言えなくて、一緒にいても兄妹と間違われるような女だけど、将来はきっと奈々美とか紗希みたいなナイスバデーな美女になってるはずよ。
お買い得物件なのに、どうして春人君は買わないのかしら。
女として見られてない? そもそも魅力が無い?
「どうしたんですか? 急に黙ってしまって」
「ううん、何でもない」
どうしてこんなネガティブな思考に陥るのかしら。
前向きに行かないと、上手くいくものも上手くいかないわよ。
「よしっ! 今日は楽しむわよー!」
弱気を吹き飛ばして、気持ちを切り替える為に声に出す。
春人君は、そんな私の隣を滑りながら、不思議そうに首を傾げる。
別に今日恋人になれなくても良いじゃない。
皆からは、焦らずゆっくりってアドバイスを貰った。
春人君には、少しずつ振り向いてもらおう。
その為にも今日は、デートを楽しんでもらって、気持ちも伝える。
「はい、楽しみましょう」
春人君は笑顔になって頷いた。
スケートをしながらも不安になる奈央だが?
「希望だよ。 真央ちゃんと春人くんのデート始まったね。 どうなるんだろうね? 奈央ちゃんは本当にお買い得だと思うんだけど、春人くんは慎重だね」