第127話 焦り
スキー旅行から戻ってきた奈央。
春人に気持ちが届かない事に焦り始めて?
☆奈央視点☆
翌朝、私達は朝食を取り、午前中少しだけスキーを遊んだ後で、慣れ親しんだ我が街へと帰った。
一時はどうなる事かと思ったけど、亜美ちゃんも今井君も無事に戻ってきてくれて良かった。
2人とも「楽しかった」と言ってくれて救われた。
帰って来た翌日は始業式であり、またいつもの日常が始まる。
私は変わらず、春人君を追いかけ回しているのだけど、どうも手応えが悪い。
もっと早く彼の魅力に気づけていればと、悔やんでしまう。
そんなこんなで、私は親友である紗希と、相談マスターの奈々美を呼び出して、放課後の喫茶緑風へ来ている。
「何というか、定番イベントね。 相談に来たのが、奈央ってのは新鮮だけど」
「2人も呼ぶとか、切羽詰まってるねー」
「当たり前でしょー! あと1ヶ月半しかないのよ?」
春人君は来月末にはアメリカに戻ってしまう。
それまでに何とか、私に振り向かせなければならないのだ。
「春人は、亜美の事をまだ引き摺ってるのかしら?」
「見た感じ、引き摺ってる様には見えないけど」
「本人に聞いても「もう大丈夫ですよ」って言ってたわよー」
本当かどうかは知らないけどねー。
でも、フラれてまだそんなに経ってないはず。 そんな簡単に忘れられるものかしら?
本気じゃなかった? いや、アメリカにまで誘うぐらいだし、本気だったはず。
「あんた、ちょっとアタックが激し過ぎるのかもしれないわよ」
「あー、それはあるかもー? 北上君、結構引いてる時あるし」
と、2人が意見する。
アタックが激しい? 私は普通なつもりなんだけど……。
「結構強引に家に連れ込んだり、そこら中連れ回したりしてるでしょ?」
思い返してみる──。
「春人君、明日は暇? 暇よね! よし、どこか行きましょう!」
「え、あ、あの……」
……。
「普通ね!」
「どこがじゃー!」
私の回想シーンに、奈々美がツッコミを入れてくる。
「えー、これ普通じゃないのー?」
「あんたの独断じゃないの……」
「北上君の都合とか考えてないでしょー?」
ポリポリとフライドポテトを食べながら、紗希が呆れた様に言う。
「春人君の都合……」
「しゃーないねー! 私が見本見せたげよー!」
と、紗希がスマホを取り出して、どこかへ電話をかけ始めた。
あー、柏原君ね。
私に、デートの誘い方を見せてくれるわけだ。
「あ、もしもし今井君?」
「「何でっ?!」」
私と奈々美が同時に声を上げる。 何でそこで今井君なの?
「うんと、今週の日曜日、もし良かったらデートしない? ううん、無理なら良いんだけど……そっかー、わかったー。 ううん、ありがとう、それじゃまた明日ねー」
電話を切る。
「断られた」
「そりゃそーでしょーねー」
紗希は「ワンチャンあるかと思ったんだけどなー」と、腕を組んで首をかしげる。
「まあ、でもあんな感じで誘うのが普通よ?」
「断られてたじゃん……」
「仕方ないでしょ? 今井君には今井君の都合があるんだから」
なるほど、これが相手の都合を考えるという事なのか。
「って、断られたらデート出来ないじゃないー!」
「まあ、そうね」
他人事だと思って、適当に流す奈々美。
相談相手間違えたかしらね?
「何であれ、北上君の気持ちを考えて上げなよー?」
「そうそう」
「春人君の気持ち?」
「例えばよ? 宏太があんたを毎日追いかけ回して来たらウザいでしょ?」
想像してみる。
うーん、中1の頃の私なら、嬉しかったかもしれないわね。
今だと、ウザいとまでは言わなくても、少し困るかも。
なるほど、今私はまさに春人君にウザがられてる可能性があるのね?
「あびゃー……」
「うわ、どしたの奈央?」
「なんか壊れた?」
「ねぇっ、もしかして私ってウザがられてる?!」
我に帰り、紗希と奈々美の意見を聞いてみる。
「別に、ウザがられては無いと思うわよ?」
「だねー。 多分、ちょっと困ってるーぐらいな感じだと思うよ」
「こ、困ってる……」
2人は「そうそう」と、頷く。
もしかして、脈無しなのかしら?
「焦る気持ちはわかるけどさー、別にアメリカに戻っちゃったらそれで終わりじゃないでしょ?」
……?
「どういう事?」
「日本とアメリカだって、電話したり出来るでしょ? それに、あんたなら直接会いに行くのだって簡単なんじゃないの?」
「つまり、時間はまだまだあるって事」
盲点であった。 日本にいる間に恋人になれなきゃ終わりだと、そうだとばかり思っていた。
もちろん、気軽に会ったりはできないかもしれないけど、連絡を取る手段はいくらでもある。
そうか、焦る事は無いのね。
「大体、日本にいる間に恋仲になれたとして、遠距離恋愛になる事とか考えてなかったの?」
奈々美が頬杖を突きながら言う。
「考えてなかった!」
「バカなの?」
2人が揃いも揃ってこめかみを抑える。
れ、恋愛初心者に色々求めないで欲しいわ。
とにかく春人君に振り向いてもらう事に必死で、その後の事なんか頭に無かったわよ。
「そんなんで恋仲になれても、先は短そうね」
「そ、そんなことないわ!」
「自信だけはあるみたいねー」
でも、そうかぁ……遠距離恋愛になるのか。
いや、まだ付き合ってすらないけども。
「はぁ……まあ、焦らず頑張りなさいよ」
「そうそう。 焦らずにじっと耐えて、佐々木君と両想いになったのがここにいるしねー」
「が、頑張ってみる……」
相談して聞けたアドバイスは「焦らない」であった。
今度からは少し、春人君との接し方を気を付けてみよう。
◆◇◆◇◆◇
翌日の部活終了後──
校門でバスケ部の3人が、私達を待っていた。
もはや当たり前になっているこの光景。 夏や今みたいに寒い冬に待たせるのは悪い気がするのだけど、亜美ちゃんや奈々美が言っても「気にすんな」の一言で片付けてしまう。
好きで待っているらしい。
「お待たせ」
「おう、今日もお疲れさん」
そして、いつものように合流する。 この時期の18時はとても暗い。
街灯にに照らされた帰り道を並んで歩くが、私や紗希、遥はすぐに別の道に分かれてしまう。
その為、帰りは春人君とあまりお話しする機会が無いのだけど。
「奈央さん、ちょっと寄り道でもしませんか?」
「……え?」
「お、珍しく春くんの方から誘ってる!」
珍しいなんてものじゃない。 私が春人君にアタックするようになってからは、間違いなく初めて。
一体どういう風の吹き回しかしら。
「行ってきたらー?」
紗希に言われるまでもなく、行くつもりである。
「じゃあ、ちょっとだけ……」
私と春人君は、駅前の方に足を向ける。
「すいません、急に」
「ううん、いいのよ別に!」
むしろ、ありがたいぐらいである。
2人で適当な喫茶店に入る。
「それで、今日はどうしたのよ?」
「いえ、その後おじ様達に何か言われたりされていないかと」
「お見合いの話とかって事? 無いわね。 まだ、私達が付き合ってると思ってるんじゃ?」
「バレてますよ、あの芝居は」
「え?」
バレてるって? だってお父様、何も言ってこないけど……。
「あの時、僕だけがおじ様と残って話を続けていましたよね? 実は最初からバレてたんですよ」
「さ、最初から?」
「はい。 あの後、『見合いを断る為の芝居に付き合わせられたのだろう』と言われました」
「そ、そうなの……」
さすがは西條グループ総帥……簡単に出し抜けるわけがなかったということね。
「奈央さんの自由にさせるつもりだとは言ってましたが、気になりまして」
「お父様がそう言ったのなら、信用するわ。 もう見合い話を持ってくる事は無いと思う。 少なくとも、学生の間はだけど」
大学生になっても浮いた話が無ければ、問答無用で見合いをさせられるだろう。
「彼氏が出来ればねー」
春人君に聞こえるようにそう言った。
春人君は少し困った顔をして、苦笑いをする。
焦りは禁物だったわね。
「まあ、良いわ。 絶対に素敵な恋人作るんだから」
私は。目の前の春人君を見つめながら力強く宣言するのだった。
焦らずゆっくり……。
「亜美だよ。 奈央ちゃん頑張ってるんだね。 春くんもいい加減に受け入れれば良いのに……って、フッた私が偉そうにしちゃダメだね。 そうだ、今後の展開だけど、ここまで付いてきてくださった読者さんには、少し辛い展開になるかもって作者さんが……どうなるの?」