第119話 春高バレー閉会
4セット目、月ノ木リードで中盤に差し掛かる。
☆亜美視点☆
第4セット中盤──
序盤に作ったリードを維持して、試合を進めている。
ここまで来てキャミィさんもスタミナが切れたのか、動きが鈍くなっている。
ただ、逆にここまで温存してきた弥生ちゃんが良い動きを見せている。
15-12
「キャミィ……はもうあかんか」
「スンマヘンナー……」
向こうからそんな話声が聞こえる。
バレーボール歴がどんなものかわからないけど、キャミィさんがもっとバレーボールを練習したら……。
キャミィさんはここでベンチに下がってしまう。
おそらくは5セット目を見据えて、スタミナ回復の意味もあるだろう。
5セット目には突入させないよ。
「キャミィさんが下がったのはラッキーだね」
「弥生だけなら何とか……」
そういうわけでもないんだよねぇ。
でも……。
「もう1本!」
「おー!」
奈々ちゃんのサーブ。
遥ちゃんと同じくパワーで押すタイプ。
「ぅぁっ!」
サーブはリベロが拾うと、セッターが上げる基本の流れ。
そして──。
「そろそろ暴れさせてもらうで!」
弥生ちゃんが跳ぶ。
今、うちの前衛は奈央ちゃん、キャプテン、紗希ちゃんだ。
あまり守備力が高くないフォーメーション。
弥生ちゃんのバックローアタックが飛んでくるが、ブロックでは止まらず。
「むぅ!」
私はなんとかそのボールに飛びつく。
「ナイス亜美ちゃん!」
奈央ちゃんはそう言うと、トスを上げる。
「お返しよー!」
そして紗希ちゃんがジャンプする。
スタミナお化けの紗希ちゃんの高いジャンプでスパイクを打ち込む。
スパイクはリベロのレシーブを物ともせずにコート外へ飛んでいく。
「よっしゃっ!」
大きくガッツポーズする紗希ちゃん。
今日は第2セットでも大活躍していたし、もう隠れたエースって感じじゃないね。
さらに点差が開く。
「奈々ちゃん、もう1本!」
「はいはいっ!」
先程と同じコースへ飛んで行く。
やはり、リベロが拾いセッターが上げ──。
「今度はどないや!」
「せーの!」
弥生ちゃんが同じようにバックローアタックを打ってくる。
今度はブロックアウトを取られてサーブ交代。
さすが弥生ちゃんだよ。 すぐに修正してくる。
立華サーブを私が拾う。 希望ちゃんがベンチに下がっている間は、レセプションもディグも私の仕事だ。
もちろん、拾った後は次の攻撃の為に準備する。
「ほら、エース!」
集中して素顔モードになっている奈央ちゃんから奈々ちゃんへ。
「はぁっ!」
声を上げて、奈々ちゃんがバックローアタック。
弥生ちゃんに負けず劣らずのパワーで、ブロックを突き破る。
「っし!」
強い。 月学は本当に強いよ!
私なんかいなくても良いんじゃないかな?
その後は、しばらく点の取り合いが続き──。
23ー21
「もうちょっとよ! 気合い入れなさい!」
「おーっ!」
あと2点。
立華サーブだ。
これを奈々ちゃんが決めてマッチポイント。
「あと1点!」
「終わらせるわよー!」
サーブを弥生ちゃんが拾うと、セッターがすかさず上げる。
「まだやっ!」
クイックに反応出来ずあっさりと点を取られた。
でも、まだ私達のマッチポイントは続いている。
この1プレーで決めるよ!
奈央ちゃんからのサインは……。
「らじゃだよ」
レシーブが上がるのを見て私はレフトへ走る。
ブロッカーがそれを見て2枚ついてきた。
しかしそれはフェイク。
狙いは──。
「奈々美! 速攻!」
「はいよっ!」
目の前がガラ空きの奈々ちゃんにトスが上がる。
既に奈々ちゃんは跳躍しており、後から奈々ちゃんの打点ドンピシャの位置にボールがやってくる。
正に神業だ。
「終わりよっ!」
奈々ちゃんがスパイクしたボールは、誰もいないネット際を斜め下に打ち抜いた。
「試合終了!! 夏に続き、春の大会も月ノ木学園が優勝!!」
「やったっ!」
「こらっ!」
私は、奈々ちゃんに抱きついて喜びを表現する。
すると、皆が次々に抱きついてきた。
「やったー!」
「あははー」
優勝というのは、何度経験しても嬉しい物だね。
審判から整列を促され、ネットの前に並ぶ。
弥生ちゃんも、他の立華の選手も、皆悔しくて仕方ないという顔をしている。
絶対女王と言われてきた、立華女子バレーボール部が同じ相手に2度負けたのだ。
悔しくて当然である。
「ありがとうございました!」
すっと、手が伸びてきた。
弥生ちゃんだ。
「これでウチは5連敗かぁ……ほんまどないしたら勝てんのやろね」
「そんなに力の差は無いと思うんだけどね」
「アホ言うなや。 ウチはあんた程、人からかけ離れてへんよ」
「えぇ……」
またこうやって人外扱いする。 私だって傷付くんだよ!
「アミッ!」
「うわわ」
目の前にキャミィさんがやってきた。
身長どれくらいあるんだろ? 190はあるよねこれ?
「マケテモウタわ! スモールなのにグレイトや!」
「ははは、ありがとう! キャミィさんも凄いパワーだったよ! もっとバレーボール練習すれば、凄い選手になれると思う」
「オウ! モットれんしゅーシテ、スーパープレーヤーにナルデ!」
元気な人だなぁ。
「ほな、また表彰式で」
「うん」
私達は、手を振って別れるのだった。
◆◇◆◇◆◇
表彰式を終え、ホテルへ戻って来た私達は、応援団に囲まれていた。
「優勝おめでとう! って、1年の皆はもう慣れてるかぁ!」
「いやいや……ていうか先輩、受験大丈夫ですか?」
「なんとかなる!」
応援団には元キャプテンがいた。
受験生だし、もうセンターも近い筈なんだけどなぁ?
「おう、おめでとう」
「夕──」
「夕也くーん!」
夕ちゃんに声を掛けられて、そちらへ行こうとしたら、希望ちゃんに先を越されちゃった。
まあ、いっか。
「皆さん、おめでとうございます」
「春──」
「春人くーん!」
奈央ちゃんが、私を突き飛ばして春くんの所へ行ってしまった。
ま、まあ……。
「お前ら凄いな、相変わらず」
「宏ちゃん、えへへ」
何故か奈々ちゃんには邪魔されない謎。
とりあえずは、宏ちゃんとお話でもしてようかな。
「あら、宏太」
「おう、お疲れ。 大活躍だったな」
と、思ったら奈々ちゃんがやってきた。
うぅっ、独り身の辛さよねぇ。
「あら、お邪魔だった?」
「別にぃ……」
私はそう言って、応援団の塊から抜け出し、先に部屋に戻るのだった。
部屋に戻って数分後、奈々ちゃんと希望ちゃんが、宏ちゃんと夕ちゃんを連れて戻ってきた。
むぅ、私の前でイチャつくつもりだ。
出て行ってやるぅ。
私は黙って立ち上がり、4人とすれ違うように部屋を出ようとする。
「こらこら、どこ行くのよ?」
「安息の地へ」
「何を訳わかんない事言ってんのよ」
「だって、今から4でイチャつくんでしょ? 私お邪魔じゃない?」
「イチャつかないよぅ」
「あんたが、1人寂しそうに部屋に戻るのが見えたから追いかけて来たんじゃない」
「うんうん」
「別に遠慮せずに話に入ってこりゃ良いのに」
「そうだぜ? 俺達は幼馴染だろ?」
「幼馴染……そうだよね」
うん、私達は幼馴染。 私は邪魔なんかじゃないんだね。
「亜美、お疲れ」
「お疲れさん」
夕ちゃんと宏ちゃんは優勝のご褒美に、頭をわしゃわしゃと撫でてくれる。
んー、幸せだ。
立華を下し、夏春連覇した亜美達!
「亜美だよ! わーい、優勝だよ! 何回しても嬉しいね。 でも、キャミィさんがもっと上手くなったら、次はどうなるかわかんないよ。 足下掬われないように、私達ももっと頑張ろう」