第1184話 清水亜美という人間
スケートのコーチをしている夕也。
☆夕也視点☆
長野県旅行最終日。 スケート場へやって来た俺達。 リンクの貴公子と呼ばれた俺は、希望、紗希ちゃん、新田さんにスケートを教えている。 基礎もかなり出来るようになった3人。 飲み込みが早いのは助かるな。 今は手すりから手を離して、片足だけで真っ直ぐ滑る練習中だ。 後はここから足を交互に蹴り出して進むだけ。
「はぅ、こぅ?」
「おう、出来てる」
「さすが雪村先輩です!」
「おりょー。 私今まで基礎何も出来てなかったのね。 全然違うわ」
と、今まで多少なりとも滑れていたらしい紗希ちゃんも、今までの滑り方は基礎が出来ていなかったらしい。
「よし。 次は止まり方だな。 まずは俺を見てな。 このリンクの貴公子の足を」
「出た」
「はぅ」
「は、はい」
何か微妙な反応されるな。 そんなにダサいかー? まあとりあえず止まり方の一つ、T字ブレーキを見せる。
「おー」
「止まった」
「足はT字なんですね」
「新田さん、その通りだ。 足はT字で、エッジの内側で止まるブレーキだ。 ブレーキの中では割りかしシンプルな止まり方だぞ。 じゃあ手すりに掴まって足の動きの練習していくぞ」
「はーい!」
というわけで練習指示を出して練習させておく。 俺はその間に軽く滑る事にする。 亜美が何をしているのかを見てみると、フィギュアスケートの選手みたいにクルクル回ったり跳ねたりしている。 本当に何でも出来るなぁ。
「奈央ちゃんも負けず劣らずだな……」
「おーいー! 夕也兄ぃー」
カシャカシャ!
何か物凄い勢いで突進して来る女の子がいるな。 まあ、あの子しかいないんだが。 しかし何つう速さだよ。 スピードスケートかよ。
ズシャー!
そして凄いブレーキテクで止まっている。 麻美ちゃんもちょっと人間の枠から外れてるような気もするな。
「コーチもう終わったのー?」
「いや、今ブレーキの練習させてるんだ」
「あー。 ブレーキは大事ー」
「麻美ちゃんのさっきのブレーキ凄かったな」
「なはは」
麻美ちゃんが見せたの下半身を捻りエッジを横に向けてニの字にしブレーキをかける「ニの字ブレーキ」と呼ばれる物だ。 かなり上手かったなぁ。
「コーチ終わったら一緒に滑ろー」
「おう」
「じゃあまた後でー。 なははは!」
爆笑しながら颯爽と去っていく麻美ちゃん。 何であんな上手いんだ?
他のメンバーも皆卒なく滑っている。 亜美と奈央ちゃんはまあ例外として、月島姉妹やアメリカの2人に宮下さんもスイスイ滑っている。
「ふうむ。 練習組はどうなってるかね」
俺が教えている3人の所へ戻る。 俺が居なくてもちゃんと練習はしているようだ。 真面目だな。
「おう、どうだ? 動き覚えたか?」
「おー、今井君。 バッチリよ」
「ぅん」
「大丈夫です」
「うむ。 良い返事だ。 よし、じゃあ滑って止まる練習に入るぞ」
「りょ!」
「ぅん」
「はい」
というわけで端っこの方で練習1人ずつ最終試験だ。 ちょっと離れた所に立つ俺の場所まで真っ直ぐ滑って来て、俺の前で止まるというテストだ。
「止まれなくても俺が受け止めるから怖がらずになー」
「りょー! じゃ、まず私からー!」
紗希ちゃんがまずスタートを切る。 最初からある程度滑れると言っていた紗希ちゃんは、滑りには問題無さそうだ。 ゆっくりと近付いてくる。
「よしブレーキー!」
自分で掛け声を上げて足をT字にしてブレーキをかけ始める。 先程まで練習していた動作がしっかり出来ており、俺の前でピタリと止まって見せた。
「どやー!」
「おお! 素晴らしいぞ紗希ちゃん!」
「きゃはは! サンキュー」
一旦俺から離れてもらい、順番に希望、新田さんも同じようにテストしていく。 2人ともやはり運動能力は高く難なくテストを合格。
「よーし! 3人とも基礎編合格だ! とりあえず今ならリンクをぐるっと滑るぐらいは出来る筈だ」
「おー」
「じゃあ行ってみよぅー」
「はい!」
という事で3人でリンクをゆっくりと滑り始めた。 ふむ、見違える程綺麗に滑っている。
「あ、夕ちゃん終わったの?」
「おう、一応な」
「ふむふむ。 おお、3人とも立派にスケートしてるねぇ」
「ふふん。 リンクの貴公子にかかればこんなもんだ」
「あれだけダサいって言われてまだその呼び名使うんだね?」
「うぐっ」
「あはは。 あ、麻美ちゃんが来たよ」
「ん?」
「なははは!」
ズシャー!
「あ、相変わらず凄い勢いだな」
「夕也兄ぃ終わったかー?」
「おう、一応な」
「よーし、じゃあ一緒に滑ろー」
「お、おう」
「なははー。 イクゾー」
と、麻美ちゃんに手を掴まれ、次の瞬間には凄い勢いで引っ張られてしまう。
「気を付けてねぇー」
遠ざかっていく亜美の声を聞きながら、ただただ引っ張られるであった。
◆◇◆◇◆◇
何周かしたところで麻美ちゃんからは解放された。 さすがに疲れたのでリンクから出てベンチに座って休憩だ。
「おー、大変やなぁ今井君」
「おー、月島さんか」
「ウチもちょい休憩や……にしても、亜美ちゃんのあれのどこが普通やねんな」
「だから嘘だって言ったろ」
「そういうことかいな……。 あれ、3回転しとらへん? トリプルアクセルいうやつやないの?」
「フィギュアスケートのジャンプの種類は知らないが、たしかに凄いな」
今も連続でクルクル回って綺麗な片足着地を決めながらバックで滑っている。 あいつフィギュアスケートでも世界取れるんじゃないのか?
「どんな育ち方したらあんなバケモンになるんや?」
「育ち方は普通なはずなんだがなぁ」
「人間だよーっ」
クルクル回りながらしっかり反応もしている。 本当にようわからん。
「亜美の両親は普通の人だし、祖父母も俺が覚えてる限りは普通の人だったぞ。 亜美が突然変異なんだよ」
「まあ、何か一つに秀でてるとかやったら許せるやん? そやけど亜美ちゃん、何でも出来るやん」
「そう。 完璧人間なんだよなぁ」
唯一、力だけはほとんど無いのだが。 それを補って余りあるその他の才。 何をやらせてもすぐに人並み以上にこなせるようになり、しばらく放っておけばその腕前はプロ顔負けなレベルにまであっという間に上達してしまうのだ。 このスケートもそうだ。 初めての頃は清水のおじさんに教えてもらってそれこそ今の希望や新田さんみたいな感じだった。 それが物の30分で一般人が滑るぐらいのレベルまで上達し、次に一緒にスケートをした時にはもうフィギュアスケートの選手の真似事なんかをやっていた。
「何やほんまにライバルなんやろか、ウチ」
「それは自信持って良いぞ。 バレーボール選手として月島さんをライバルとして認めてるぞ」
「ホンマかいな? まあ、あんさんが嘘言うてもしゃーないわな。 バレーボール選手としてはライバルか。 それで十分やわ」
と、そう言って亜美のスケートを眺める月島さん。 ただ他の事ではやはり奈央ちゃんの方がライバルとして見られているようだが。
亜美は本当に謎。
「遥だ。 本当に亜美ちゃんの体はどうなってるんだ?」
「さ、さぁ?」




