第113話 奈々美の妹
奈々美の妹、麻美に会うために藍沢家へ向かう一行。
☆奈々美視点☆
初詣の帰りに、皆を家に連れていくことになった為、私は今、4人を連れて歩いている。
亜美達とは家族ぐるみの付き合いもあるし、いきなり連れて行っても大丈夫でしょう。
「俺、麻美ちゃんに会うの中学の卒業式以来だぜ」
「麻美、怒ってたわよ? 『夕也兄ぃ全然来てくれないぃ』って」
「ははは……」
まぁ、何にせよ喜ぶわね。
あの子、小学校に上がって同い年の友人作ってからは、私達と絡みが少なくなってたしねぇ。
中学では部活一緒だったからよく絡んだけど。
「着いたわよ」
「おう」
家の中に皆を入れて、リビングへ向かう。
「ただいまー」
「あ、おかえり、お姉ちゃん」
「おっす、麻美ちゃん」
「夕也兄ぃ!? ちょっとお姉ちゃん、夕也兄ぃ連れてくるなら先に連絡しといてよ! あー、こんなダサいパジャマでぇ……あ、全国優勝おめでとう!」
「お、おう、ありがとうな」
麻美は「着替えてくる!」と、言ってダッシュで部屋へ戻って、私服に着替えて速攻下りてきた。
「はぁはぁ……あ、亜美姉も春高頑張ってね!」
「あ、うん。 頑張るよ。」
「あ、宏兄ぃいたの?」
「うおい!」
宏太の扱いが雑なのは、私達の影響なのかしらね?
とても先輩に対する態度ではないわよね。
「で、そちらの儚げイケメンさんは北上先輩?」
「あれ、どこかでお会いしました?」
「あ、いえ。 ウィンターカップの試合をテレビで観てたので」
「そうでしたか」
「テレビで見るより、雰囲気が柔らかい?」
「彼、試合中は人が変わったようになるから」
「そんなにですかね……」
「はっきり言って別人だぞ」
「うんうん」
春人は「はぁ……そうですか」と、微妙な顔をしてしまった。
実際、試合中の春人の方が良いって女子は多いのよねぇ。 奈央もその1人だし。
「そうだ、父さんと母さんは?」
「んー、ダイニングじゃない?」
「そう。 んじゃいきましょ」
「おう」
私は夕也と、春人、亜美を連れてダイニングへ向かった。 宏太は、今朝挨拶を済ませているためリビングに残したのだけど、結局麻美が私達についてきたので、宏太も一緒にやってきた。
ゾロゾロと6人で狭い通路を歩くのはどうなのかしらねぇ。
「父さん母さん、ただいま」
「おかえり奈々美。 あら、亜美ちゃんと夕也君? あけましておめでとう」
「おめでとうございます」
私の両親と新年の挨拶を交わしてぺこりと頭を下げる2人。
「夕也君は久し振りだなぁ。 おお、そうだ、全国優勝おめでとう」
「ありがとうございます」
お父さん達も試合をテレビで観戦してたのかしら?
宏太も出てたし普通か。
夕也達の挨拶が終わった後、リビングへ戻り少し話をすることに。
麻美が夕也と話がしたかっただけなんだけど。
「夕也兄ぃって、希望姉と付き合ってるんでしょ?」
「ん、ああ。 8月ぐらいから」
「亜美姉とくっつくと思ったんだけどなぁ」
「複雑な事情があってな」
「複雑ぅ?」
「フラれたんだよこいつに」
夕也が亜美の頭をぽんぽんっと叩いてそう言う。 本当にその辺複雑よね。
「ええええっ! 亜美姉、夕也兄ぃフッちゃったの?!」
「う、うん……」
麻美は「信じられないっ。 夕也兄ぃ好き好きの亜美姉なのに」と、驚きの声を上げた。
まあそうなるわよね。
「それなのに、今は夕也を2人で取り合ってるのよ? 面白いでしょ?」
「ええっ! 略奪愛!? 亜美姉ってそういう女だったの!?」
「ち、違うよぉ!」
「違うのぉ?!」
腕を組んで「むーん」とか言いながら考え込む麻美。
「そう言えば、麻美ちゃんも夕ちゃんが好きだとかなんとか?」
「私のは、憧れと言うか何と言いますか。 恋とは違うような?」
「でも、もし夕也に告白されたら──みたいな妄想して、子供3人目が産まれるとこまで進んでたわよね?」
「ふぇぇぇぇ!!!」
顔を真っ赤に染めて「お姉ちゃん!」と、クッションを投げつけてくる。
それを避けると後ろから「ふが」と情けない声が聞こえてきた。
どうやら宏太の顔に直撃したらしい。
「わ、私でもそこまで妄想したりしたことないなぁ」
「はわわわ! 夕也兄ぃ忘れてー!」
「忘れてと言われてもなぁ」
「ううーっ」
涙目になる麻美。 普段私と宏太の事でイジってくるからその仕返しってとこね。
「じゃあ、麻美ちゃんは夕ちゃんとお付き合いしたいとか思ってないの?」
「希望姉や亜美姉に敵うわけないじゃんっ。 妄想だけで幸せだしっ! あー違うぅ!」
「あはははははっ」
「お姉ちゃん!」
面白いように墓穴掘っていくわねこの子は。
でも、やっぱ希望や亜美には勝てないと思ってんのね。
実際どうなのかしら? 夕也は昔から麻美の事をすっごく可愛がってたけど。
「麻美ちゃんも十分可愛いよね、夕ちゃん」
「おう、そう思うよ。 中学でもモテてるんだろ?」
「か、可愛いかなぁ? それなりにはモテてると思うけど……亜美姉の記録は抜けないよ? お姉ちゃんのも無理」
「あー、この2人は異常だからな」
私は3年間で150人くらいだった気がするけど……亜美は200人を軽く超えてたわよね確か。
私も異常だけど、亜美はなんかもうわかんない。
「ちなみ亜美さんってどれくらいモテてたんですか?」
「んー? 覚えてないけど、一杯フッたよ。 他校の人とかもいたね。 でもねぇ、名前も顔も知らない男子に『好きです』って言われても付き合おうってなるわけないよ」
「あ、わかる!」
麻美が共感しているらしい。 私もそれは同感である。
「俺もフラれたけどな」
「俺も」
「僕もフラれました」
「亜美姉って魔性の女だね?」
「あぅ……宏ちゃんだって私をフッたじゃない……」
夏休みのアレね? っていうか、こうやって話してると、とんでもなく複雑ね私達。
私は宏太と付き合い始めて、今も順調だ。
亜美は希望から解放されて、夕也の事を奪おうと必死になっている。
春人とは決着もつけて、複雑に絡み合った糸も幾分ほつれてきただろう。
再び三角関係に戻ったわけだけど、一体どうなるのかしら?
「夕也兄ぃは、希望姉とどこまでいったの?」
「ど、どこまでって……」
「希望姉は奥手だから全然かな?」
中学生の癖にマセてるわねぇこの子は。
「2人はもうえっちまでしてるよ?」
「ええっ! あの希望姉がぁ!? あれ、っていうかそう言えば今日は希望姉来てないの?」
今更気が付いたの……。
まぁ普段から希望は静かだし、ちょっと影薄いけどさぁ。
「希望ちゃんは、お祖父さん達の家に遊びに行っちゃったから、今日はいないの」
「あ、東北の方だっけ? そっか。 じゃあ、亜美姉は今がチャンスってわけだ」
「あはは、そうだねぇ」
「夕也兄ぃも大変だねぇ? 美女2人に言い寄られてさ」
「わかってくれるか、麻美ちゃん」
「頑張って!」
「お、おう……」
わかっているのかどうか怪しいわねぇ。
その後も昼前まで皆で駄弁って、亜美達は、自分達の家に帰っていった。
麻美は、最後に夕也に頭を撫でてもらって上機嫌になっていたけど、本当に憧れているだけなのかしらね?
麻美はとにかく騒がしい女の子である。
「奈々美よ。 麻美、久し振りに夕也に会ってテンション振り切ってたわね。 いつもはもうちょいマシなんだけど。 高校に上がってきたら騒がしくなりそうだわ」