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第98話 参戦

奈央は両親に春人を紹介する。

疑似恋人作戦、成功なるか?

 ☆奈央視点☆


 お父様の問いかけに、春人君が答える。


「奈央さんの仰るとおり、僕と奈央さんは現在交際させていただいています」


 お父様の前でも尻込みせず、堂々とした立ち振る舞いで相対する。

 これまたかっこいい。


「いつ頃から?」

「夏祭りの後、少し経ってからです」


 お父様の目が私に向けられる。 それに対して私は無言で頷いて相違ない事を伝える。

 私と春人君は話に齟齬が生じないように、前もって打ち合わせを済ませてある。

 この質問は想定内だったので、春人君もすらすらと答えている。


「交際しているのなら、何故婚約を破棄したりしたのかね?」


 これも想定内であり予習済みである。

 この質問に対する解答でお父様を納得させれば、勝ったようなものである。

 

「僕も彼女も、本当に好きな相手と添い遂げたいと思っています。 『婚約者』だから一緒になるというのは違うのではないかと、常々奈央さんと話しておりました」

「私達は、そういったしがらみを抜きにして交際し、本当にお互いを愛せるかを確かめたかったのです。 実際に交際していく上で、やはりこの人は違うとなるかもしれません。 自分達の意思で、一緒になるかどうかを決めたいのです」


 お父様は春人君へ視線を移し、春人君は静かに頷く。

 顎に手を当て、目を閉じるお父様。

 しばらくその状態で考え込み──。


「……そうか。 わかった。 交際相手がいるならば仕方がない。 此度の見合いの話は全て白紙にしよう」


 おお、勝ち申したわ! ありがとう春人君!


「春人君、少し2人で話をしたいのだが」


 春人君が、私の方をチラッと見る。 この展開は予想していなかったのだが、もはや勝負には勝っているので心配いらないだろう。


「私は、先に友人達の所に行って待ってますね?」

「はい」


 そう言って私は、その場から離れた。




 ☆春人視点☆


 西條のおじ様に言われ、その場に留まる。

 奈央さんが居なくなったのを見計り、頭を下げた。


「春人君、うちの娘の我儘に付き合わせてしまったようで……申し訳ない」

「え? いえ、頭を上げて下さい!」


 促すと、ゆっくりと頭を上げて再度謝罪する。

 一体どうしたというのでしょう?


「先程のやりとり、娘が見合いを断わる為の芝居なのだろう?」

「……」


 ……どうやら簡単に見抜かれてしまったらしい。 しかし、それなのに何も言わなかったのは何故なのだろう?

 そう思っていると、向こうからその答えを出してくれた。


「あの子の自由にさせてあげようと、ただそう思ったまでだよ。 今日、あの子が誰も連れて来なくても、見合いは白紙にするつもりだった」

「そうだったんですね……」

「春人君。 奈央と婚約を解消した本当の理由を聞いても良いかな?」


 少し迷ったが、ここは正直に話そうと思い頷いた。


「こちらへ留学してきて、とても魅力的な女性に出逢いました。 僕は、その女性の事が好きになってしまったので、奈央さんとは……」


 それを聞いたおじ様は「奈央よりも魅力的な女性か?」と、訊ねてきた。

 僕は失礼だと思ったが、それでも迷わず首を縦に振る。

 おじ様が、奈央さんや皆がいる方向に視線を動かして「なるほど」と、呟き。


「あの水色のドレスの子かね? あの中で一際輝いて見える」

「はい」

「確かに魅力的だ」

「内面も素晴らしい人です。 もちろん、奈央さんも負けないぐらい素敵ですが……」

「はっはっはっ、気を遣わなくても構わん。 頑張りたまえ。 うちの婿にならいつ来てくれても構わないぞ?」


 冗談っぽくそう言うと、肩をぽんぽんっと叩いて「話はこれで終わりだ。 行ってきなさい」と、背中を押して下さった。




 ☆奈央視点☆


 皆の所へやってきて、お見合いは白紙になったということを報告すると、皆が「良かったね!」と、喜んでくれた。

 しばらくすると、お父様との話しを終えた春人君が、遅れてやってきた。


「話は何だったんですの?」

「いえ、大した事では。 娘をよろしく頼むとだけ……」

「あら、お父様ったら」


 お父様も春人君の事を認めてくれているようね。


「でもこれで2人の擬似恋人期間は終わりだねっ?」


 希望ちゃんのその言葉を聞いて「はっ」となってしまった。

 そうだ……終わってしまうのだ。 せっかく好きになれたのに、結局は偽物の恋人だったという事を思い出してしまう。


「……奈央ちゃん」


 一瞬暗い顔を見せた私を、亜美ちゃんが心配そうに見つめている。

 スポーツ、勉学における、その他あらゆる事に対しての私の最大にして最強のライバルである彼女。

 そして、これからは恋のライバルにもなる彼女。

 とはいえ、彼女はあまり春人君の事は相手にしていない節があり、ライバルと言うのかは少々疑問ではある。


「そうですわね。 今日で終わりです」


 私は、今日まで私の為に時間を使ってくれた春人君に、感謝を述べた。

 そして──。


「私この1ヶ月で、春人君と本物の恋人になりたいと思いました」

「え?」

「ええーっ?!」


 皆が驚きの声を上げる。 すると、周りのお客様の視線がこちらに集中してしまった。

 顔を赤くして頭を下げる皆に、私はもう一度告白した。


「春人君を好きになってしまったようなの。 私の恋人になってください」


 驚いた表情で私を見る春人君と、そんな春人君が発する言葉を固唾を飲んで見守る友人達。

 だが、私は別に緊張したりしてはいない。 何故なら──。


「すいません……とてもありがたいですし、嬉しくもありますが、僕には好きな女性がいますので……」

「知ってます」


 フラれるとわかっていたから。

 だからと言って引き下がるつもりは毛頭無い。

 私は高らかに彼に宣言する。


「必ずあなたを私に振り向かせて見せます」


 春人君の顔をビシッと人差し指で差す。

 周りの友人から「おぉ……」と、声が上がる。

 困った様な表情を、亜美ちゃんに向ける春人君と、それにニコニコしながら応える亜美ちゃん。

 亜美ちゃんにその気が無いのなら、十分に可能性はあると踏んでいる。

 

「奈央ー、北上君のどこに惚れたのよ?」


 紗希が、私に疑問を投げかける。


「この間、バスケの試合をしてるのを春人君がかっこ良すぎて……ズキュンッと射抜かれてしまいましたわ」


 亜美ちゃんや紗希が「あー、ギャップにやられたか」と、納得して頷いた。


「春人、お前も大変だな?」

「夕也程では無いですが……」


 何故か仲良く肩を組んで、お互いの苦労を分かち合う2人。

 そうだ、今井君が亜美ちゃんと付き合えば、春人君は亜美ちゃんを諦めるのでは?!

 私、天才なのではぁ?!

 それに気付いた私は、亜美ちゃんの手を取った。


「亜美ちゃん!」

「な、何かな?」

「頑張って今井君を希望ちゃんから奪って下さいね!」

「う、うん……それは頑張るけど」


 苦笑いしながらそう応える亜美ちゃんと、ムッとする希望ちゃん。

 希望ちゃんには申し訳ないけど、私は亜美ちゃんの味方に付くわよ。

 そんな私達のやりとりを見て、奈々美はけらけらと笑い、紗希は「恋は戦争だー!」と騒ぎ立てる。


「春人君、覚悟してくださいね? 私、本気ですから」

「あ、あははは……」


 困った様な表情で頬を掻く仕草を見せる。

 その後、誕生日パーティーは滞りなく終わり、私は新たな一歩を踏み出すのだった。


自分の気持ちを春人に伝えて、いざ恋の舞台へ!


「希望です。 奈央ちゃん凄くかっこよかったよっ! 自分の気持ちをストレートに伝えられるのって凄いと思う。 応援したいけど、春人君には亜美ちゃんの心を揺さぶって欲しいし複雑だよぉ」


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