*夏の都大会B(VS.亀甲鎖.4)
さよなら皇漢女学園……?
再びボールが中盤まで戻ってきて、すぐ皇漢のMFの曹参が素早くボールを拾い、そのまままっすぐ皇漢のMFの張耳にボールをパスする。
そのボールを受け取った張耳が前線にいた皇漢のFWの彭越にスルーパスする。
このまま彭越が素早くドリブルして、あっという間にあっさりと亀甲鎖のペナルティーエリア付近まで走って近づく。
当然、相手のDF陣もドリブルしてくる彭越を止めに入るけど、そこに彭越がオフサイドトラップギリギリのところで、亀甲鎖のペナルティーエリアの左側にいた皇漢のFWの韓信に素早くスルーパスする。
完全に裏を盗られた相手のDF陣やGKの選手たちは、ここでボールを受け取った韓信の存在を失念していた。
後半38分
油断した相手のGKの選手をよそに、そのまま韓信が力強く素早く一直線に鋭いシュートをした。
「そりゃぁああぁーーっ!!」
「……なぁっ!!?」
ズゴォーゥ、ドォーン!
なんとか相手のGKの選手も、何か行動を起こそうとするも身体が全く動けずに、ボールは相手のGKの選手の背後を通過して、ゴール左上隅を突き刺すように入ってゴーール!
ここで遂に無情なる審判のゴールの笛が鳴り響いた。
なんということなのか!
遂に皇漢女学園が1点差まで追い上げてきた。
もう皇漢の射程距離圏内に入ってしまった亀甲鎖。
ここに来て、皇漢の選手たちは冷静沈着を装い、淡々した喜び方をしている。
一方の亀甲鎖の選手たちは既に意気消沈しており、残りわずかな時間で、あと1点差を死守しないといけない。
もう余裕がなくなってきた。
後半40分
皇漢2-3亀甲鎖
「おおっ、この期に及んで……遂に1点差まで追いついてきたぞ!」
「ようやくエンジンがかかってきたのか? だが少し遅すぎたようだな。」
「いや、まだ五分くらいはプレーできるぞ。 ここであと1点くらいは取れそうだぞ。」
「ああ、そうだな。 これは難しいところだぞ? 果たして同点に追いつけるのか? 皇漢女学園」
「ああ、確かにそうだな……」
それぞれ複雑な心境で感想を述べる正処の監督とコーチの二人。
後半、亀甲鎖女子高校のキックオフで試合再開。 (P.m.4:50)
後半最後の5分間。
ここからは亀甲鎖の選手たちが、どれだけボールをキープ出来るかに勝敗がかかってくる。
当然、亀甲鎖の選手たちは自陣やゴール前の守りを固めながら、ボールをキープしていき、どんどん時間を消費させていくようである。
勿論、亀甲鎖の選手たちの個々が、それをよく理解しており、もう無駄に攻めていき相手に隙を与えるような真似はしない。 あくまで防戦一方の退いて守る戦法をとっている。
一方の皇漢の選手たちは全速力でボールを奪い、素早くゴールを決めて、最低限あと1点は欲しいところである。
ここで皇漢の選手たちの猛攻が開始されていて、ボールを持った相手の選手たちを徹底的にマーク・プレスしていく。
皇漢の選手たちがボールを奪うと、速攻で相手のペナルティーエリア付近までドリブルやパス回しなどで、素早くボールを運んでいくけど、肝心のゴール前の守りが固くて、なかなかゴールが奪えない。
すると皇漢の選手たちが攻めあぐねていると、すぐに亀甲鎖の選手たちにボールを奪われ、またキープあるいはクリアされていく。
ここからしばらくの間、これを繰り返し徹底的に時間を消費させていき、亀甲鎖の選手たちの思うツボとなっていった。
一方の皇漢の選手たちからは、特に慌てて焦る様子や苛立ちやストレスなどプレーに出ている様子もなく、淡々と粛々と試合を進めており、ゲームを組み立てている。
だがしかし、あの二人は―――
「こ……これは……まずいぞ!」
「あ……ああ、予定通り亀甲鎖女子高校は常套手段で来ている……堅守の亀甲鎖は……これに入られると……もう手が出せなくなる……ぞ!」
「ああ、これは非常にまずいぞ! このままだと―――」
「―――もう終わりだな皇漢女学園!」
むしろ正処の監督とコーチの方が慌てて焦る子供のようにかなり興奮気味である。
やがて、皇漢の選手たちの執拗な猛攻に耐え抜いた亀甲鎖の選手たちに極上の歓喜の瞬間がやって来た。
ここで遂に運命の審判の試合終了の笛が長く鳴り響いた。
なんということなのか!
都大会の第3回戦で皇漢女学園が亀甲鎖女子高校に敗北してしまった!
全国常連校であり、最高成績がベスト4までいった、あの皇漢女学園が……ここで姿を消すことになってしまい、この結果に日本中に衝撃が走る。
一方の亀甲鎖女子高校は大金星の勝利であり、この結果に監督やコーチをはじめ、ピッチ・フィールドでプレーした選手や控えの選手たちも、仲間同士で抱き合い有頂天で狂喜する。
弱小チームが強豪チームに下剋上で勝利して、亀甲鎖は都大会の第4回戦進出を決定した。
後半45分
皇漢2-3亀甲鎖
━公式試合終了━ (P.m.4:55)
「やっぱり……駄目だったか……皇漢」
「ああ、後半結構追い上げてきたのだが、今一歩届かなかったようだな。」
「これで皇漢女学園の今大会の全国制覇の夢がツユと消えたかぁ……?」
「……まぁ、全国常連の強豪校がここで消えることも、また運命なのだな……」
「それにしても、よく無名の弱小チームが有名な強豪チーム相手に勝ち残れたよな?」
「ああ、そうだな。 ウチも気をつけないといけないかもな」
「…あぁ…」
試合を終えて両チームの選手たちが、お互いに握手をしてから、それぞれの控え室に戻っていくのを眺めていた、正処の監督とコーチの二人が、それぞれ感想を述べていた。
とても印象的だったのが、疲労困憊で憔悴しきってた亀甲鎖の選手たちに対し、精神的にも体力的にもまだまだ余裕があった皇漢の選手たちであった。
この大会では、皇漢女学園の姿が消えてしまうけど、これからも皇漢女学園の活躍を応援してくださいね。




