アイワナ・ヒーロー・ジャストインタイム
笹月さんの企画、第2回『11枚小説』コンテスト
お題【ヒーロー】参加作品。
私自身の企画「宵闇プロジェクト」参加作品でもあります。
なお、この話に出てくる「柳生十兵衛」は香月夏人さんのキャラです。
突如現われた怪人に街は騒然としていた。
立ち向かうべき退魔師は今この場にはたった一人。
決して強い方ではない。だが、それでも彼は微笑みを浮かべている。
「ドウシタ、ナゼ、ワラウ。ワレハ強キ者ト戦ウ。貴様デハ、不足ダ」
へっ、と若き退魔師ヤジマは不敵な笑みを浮かべる。
「この国じゃあその強い者ってのはこんな時笑うものさ」
「ナルホド、ヨイ心ガケダ。デハ、強キ戦士ノヨウニ、戦ッテ死ヌガイイ!」
人型の巨大なタコのような怪物は触手を振う。
ヤジマはポリプロピレン製の硬質ゴム木刀を使って民間人に被害が出ないように囮になりつつ攻撃を受け止める。
重い一撃だ。木刀は折れないが体に響く衝撃は確実に体力を奪っていく。
「いいや、こんな時あの人達なら笑って勝つんだよ!」
■
世界内戦より後、世界は一変した。
空想上のものと思われていた妖怪や魔法といった存在が当たり前に出てくるようになった。
時には邪神や宇宙人さえ。
法律上は彼らは人間だが、それ故に犯罪者もいる。
そういった神秘の犯罪者を狩るために、退魔師が自警する時代の話。
■
ヤジマは思い出す。その英雄達の姿を。
黒コートに中折れ帽を伊達に被った隻眼剣士。その仲間の美しい少女に大男。
鮮烈な体験だった。
その頃ただの学生だったヤジマの将来を決めるほどには。
ゆらり、ゆらりと優雅に舞う剣術。粋な口上……
まさにまるでヒーローのようで。
だからこそ退魔師になり、その壁を実感した。
その壁の高さに奮起した。
彼の流派の剣術を学び、そのスタイルを真似て……
最初はマネであっても、そこから本物の何かをつかめると信じて。
だからこそ、ヤジマは負けられない。
あのヒーローたちならば、こんな奴に負けないからだ。
■
「ホウ、存外ネバル……ダガ、ソロソロ飽キテキタナ」
怪物の猛攻が続く。人々が遠巻きに見ているくらいには避難が進みつつある。
「モウ、タオレロ。充分ニガンバッタハズダ」
諦めない……
「ナゼ、タタカウ?カテナイコトナド、ワカッテイルハズダ」
ふらふらで、無様で。英雄のようには戦えないけど。
「知ってるさ……だけどな。ここでかっこつけないでいつかっこつけるよ。
男に生まれたんだ。かっこつけなきゃ、嘘ってもんだろ……」
もう、限界で。こんな時こそヒーローが必要だ。
「良く吼えた。後は拙者が引き継ごう。選手交代というやつだ」
倒れそうな意識の中でみた影。それは、あのときの英雄。
そう、英雄は遅れても必ず間に合うのだ。
「ホウ、前座ハココマデトイウワケダ!サア、戦オウゾ!強キ者ヨ!」
「いいや、拙者が後の余興なのさ」
「ホザケ!」
かちん。
隻眼の剣士の居合いの音が聞こえ……
2,3の打ち合いで決着はついた。
剣士の刀は怪物を切り裂き、華麗に倒してしまった。
「大丈夫か?」
「うす。なんとか、平気です」
「今救急車を呼んでやるから、死ぬなよ。無理せず座っていろ」
自力で応急処置をしつつ、後処理をしている剣士を見る。
「おぬしの剣術……あれは新陰流だな?」
「はい、俺はその……十兵衛さんにあこがれたんです」
「む、そうか……拙者にねえ」
あこがれの英雄、十兵衛は照れくさそうに顎を撫でた。
「ちょっとは、そのかっこよさ真似できましたかね……?」
「ああ、いい啖呵だった。だが、次からは命を捨てるような戦い方は控えろよ。
人間死ぬときはころっと死ぬからな、それじゃあもったいあるまい」
「うす……」
値千金のこの時間、意識がもうろうとしているのがもったいなかった。
「元気になったら名刺を渡しておく。稽古の一つでもよければつけよう。だから、生きろよ」
「……!ありがとう、ございます……」
それは小さな一歩だったかも知れない。
事実、この混沌の世界では小さな事件だ。
しかし、一人の人間が英雄の道をあゆむ確かな一歩だった。
ちょっと規定文字数に足りないので、後々書き足します。
あえて通俗的にやった感じ。
宵闇プロジェクトはエッセイなどで詳しく書きます。