6.出会い
『よっし!』
次の日、私はいつもより少し早く起きていた。早朝なら魔物も寝ているだろうし、起きていてもそんなに活発には動かないと思う。慣れない内は近くしか探索しないし、こまめに巣穴に戻ればいい。
頬袋には水分の多い木の実を詰めて、細めの蔦で一辺を結んだ大きな二枚の葉っぱを準備した。
私がすっぽりと隠れられる葉っぱで、これを被りながら移動すれば魔物にも見つかりにくいはずだ。私は四つ足で歩くから、蔦の端を少し長めに残してくわえられるようにしてある。昨日試しに巣穴で使ってみたけど、歩くのに支障はなさそうだった。
準備万端、今日は巣穴の近くだけを探索しよう、そう思い巣穴を出ようとした瞬間だった。
「ピュルル…」
突然、鳥ような鳴き声が外から聞こえた。たぶん、かなり近くからだ。動物?それとも、魔物…?
私は一旦巣穴から出るのをやめる。万が一魔物だったらこの巣穴が見つかってしまうし、襲われるかもしれない。もう少し慎重に外の様子を伺うべきだ。
「ピ…」
また、外から鳴き声が聞こえる。鳥のような、小動物のような。それにしても、なんだか様子がおかしい。かなり弱々しく、か細い鳴き声だった。
『鳥…?』
動物だとしても魔物だとしても、かなり弱っている様子なのは鳴き声でわかる。子どもの頃に飼っていた鳥も、羽を怪我して弱っていたとき、こんな鳴き声だった。
私は巣穴からこっそり顔だけ出して、外の様子を伺う。くるりと辺りを見回すと、いつもの朝の風景にはいない、白い小鳥の姿が目に入った。私よりひとまわりほど大きい、真っ白な小鳥だ。
どうやら小鳥は動きそうにないので、巣穴から出て確認しに行く。
その小鳥は双子の木の根元に横たわっていて、羽の一部が赤く染まっていた。怪我をしてるようだ。
小鳥は私の存在に気付き、首を持ち上げこちらを見上げる。
「ピー…」
瞳には生気がなく、かなり憔悴している様子だ。なんとかしてあげないと…
私は回復魔法なんて使えないし、回復出来るようなアイテムも持っていない。でも、すぐそこに安全な巣穴ならある。
私は弱っている小鳥をなんとか背中に乗せ(小鳥の方が大きいから少し引きずっちゃってるけど)、巣穴に戻った。
小鳥を乗せ、なんとか巣穴に入る。大して広くない私の巣穴だけど、二匹で過ごす分にはとりあえずは大丈夫そうだ。狭ければ地面を少し掘って、巣穴を下に広げればいいし。
最初は不安そうに震えていた小鳥だけど、蔦と干し草のベッドに寝かせてあげるとこちらに敵意がないことが伝わったのか、少し落ち着いたようだ。しかし怪我をしているのと体力をかなり消耗しているらしく、相変わらず元気はなかった。
水と食事を摂れば、少しは元気になってくれるかな…
私は木の実の殻に集めた朝露と食べやすそうな柔らかい小さな木の実を選び、小鳥の枕元へ運んだ。朝露が飲みやすいように、殻を手で支えてやる。
「ピッ」
小鳥はそれに気付くとゴクゴクと朝露を飲み干し、木の実をついばみ始めた。よっぽどお腹が空いていたのか、ぺろりと平らげてしまった。
小鳥は壁際に置いてある木の実を見つめ、ちらりと私を見る。まだ食べたいのかな?
私は水分が多めのものや柔らかい木の実を選び、再び小鳥に与えた。
「ピュルルル」
小鳥は嬉しそうに小さな鳴き声をあげ、木の実をぱくぱくとついばみ始める。怪我しているのもあったんだろうけど、お腹も空いていたんだと思う。少しだけだけど、元気になってよかった。
あらかた木の実を食べ終えた小鳥がウトウトし始めたので、私は怪我をしている羽に触れないように小鳥の背中を撫でてあげた。
『ゆっくりお休み、ここは安全だからね』
しばらく背中を撫でていると、小鳥はすやすやと寝息をたてていた。
私は小鳥がきちんと眠りについたのを確認してから、被って歩く予定だった二枚の葉っぱで入り口をそっと塞ぐ。巣穴全体がうっすらと暗くなり、外からもわかりにくくなったはずだ。
今日こそは外に出ようと思ったけど、怪我をしている小鳥を置いて探索に向かう訳にもいかない。万が一何かあった時は私は逃げれるけど、小鳥は怪我をしていて逃げられないし。
別に急ぐものでもないし、しばらくは小鳥と一緒に過ごそうかな。せっかくの小動物仲間だし、怪我の具合も心配だもんね。
『んー…』
そうと決まれば、私もだんだん眠くなってきちゃった。朝も早かったし、巣穴の中もほどよく薄暗いし…私ももう一眠りしようかな。
私は余っていた干し草をベッドの隣に寄せ、横になることにした。
『おやすみ…鳥さん…』