5.これから
これからどうしたらいいんだろう…
私がスライムと遭遇してから、一週間ほどが経っていた。早朝に朝露を回収するとき以外は、ずっと巣穴に引きこもっている。
幸いこの巣穴に魔物は寄ってこないようで、あれから危険な目には合っていなかった。まぁ、そもそも怖くて離れられないけど…
『私、このままなのかなぁ…』
はぁ、と小さな溜め息が出る。
水は朝露で足りているし、食べ物はスキルのおかげで心配はない。木の実は味も種類も豊富だし、この一週間はずっと木の実だけを食べていた。
ここに居れば安全だし、一人で暮らしていくには十分な場所とスキルだ。
そっと巣穴の中を見渡す。
蔦と干し草で作ったベッド、元々あった木の根を少しかじって整えた椅子、壁際に並べられた水と木の実。味気ないかもしれないけど、暮らしていくだけなら十分だった。
でも、本当にこのままでいいんだろうか。
『寂しい、なぁ…』
この世界に来て、まともに他の生物に出会えていなかった。一人でずっと生きていくのは寂しい。
少しだけ関わったあの三日月型の傷のある鼠は、元気にしているだろうか。スライムに襲われていないか不安だけど、万が一何かあったときに助ける力は私にはない。私は、ただの動物だから。
『人間に魔物、動物に魔族、か…』
この一週間、ただ木の実を食べて過ごしていた訳じゃない。私なりにこの世界のことを知ろうと、色々鑑定していた。
この世界には、大きく分けて四つの種族があるようだ。
人間は、元々の世界に居たような人類となんら変わりはなさそうな感じ。エルフやドワーフ、獣人なんかも人間に分類されるようだ。武器や魔法なんかも使えるらしい。
ランクの概念はなく、鍛えたりすることでレベルやステータスが上がる。
魔物は、私がこの間遭遇したようなスライムをはじめ、様々な種類がいる。植物型や動物型の魔物、スライムのような無機物の魔物、ドラゴンなんかも分類されるみたい。
ランクがS~Fまで設定されていて、他者を倒すことにより経験値を得て、レベルが上がったり進化したりする。
動物は、私みたいに本当にただの動物のこと。家畜にされる牛や馬、ペットとして飼われる犬や猫、野生の鳥や鼠といった元々の世界にも居たような動物だ。
動物にもちゃんとスキルはあるみたいだけど、元々戦える種族ではないらしく、レベルは一生上がらない。ランクもF-のみ。
魔族に関しては、人間でも魔物でも動物でもないもの。としか鑑定出来なくて、私の鑑定Lvじゃよくわからなかった。
スキルには、種族やレベルに関係なく各々が持っている固有スキル、種族毎に設定されていたりアイテムなどで会得する通常スキルの二種類がある。
固有スキルはLvが上がることはなく、通常スキルは熟練度に応じてLvが上がるらしい。私の鑑定もこの一週間でLv2になっていた。
耐性はそのままの意味で、様々なことに対する耐性のこと。耐性Lvが最大まで上がると無効に変化し、条件はまだ鑑定出来なかったけど更に変化すると吸収になるらしい。
称号は何かを達成したり会得したりすると得られるもので、称号によってはステータスアップやスキルの取得、魔物なんかだと進化先に影響するみたい。
私が持っていた転生者の称号は、異世界から転生した者だけが得られる称号で、転生の際にある程度の種族やスキル、耐性とかが自由に設定出来るものだった。私はおすすめにしてしまったから今の状況に陥ってるんだけど、確かに色々と身に覚えがある。
種族は死ぬ直前に飼っていたハムスターのことを考えていたからだろうし、固有スキルは私が晩酌するときにつまみにしていたナッツ類、動物が好きだったことが影響してると思う。耐性は階段から落ちたときの落下と衝撃、出血が酷くて体温が低下し、寒かったから氷無効を得られたんだろうな。
唯一通常スキルの鑑定だけが種族にも死ぬ直前にも関係なさそうだけど、生前の私の職業に関係しているのかもしれない。
この一週間で、少しかもしれないけど様々なことを知ることが出来た。力のない私にとって情報と知識は大切なものだし、今後損になることはないと思う。これをどうやって活かしていくかは私次第だけど。
色々と情報と知識を得て、気持ちもだいぶ落ち着いた気がする。スライムに遭遇した後はしばらく混乱して何も考えられなかったけど、今は今後を考えられる余裕が出来た。
うん、少しずつだけど、前向きになれてる。
『このままじゃ駄目だよね』
私は弱いし小さい。でも、私がこの世界で上手くやっていける何かがあるはず。
他の動物と共存していけるかもしれないし、人間にペットとして飼ってもらうのもありかもしれない。鑑定スキルを極めれば人間に重宝されるだろうし、木の実マスターのスキルでも草食系の動物たちに重宝されるはず。魔物…は、弱い魔物くらいなら動物好きのスキルで仲良くなれる、かな?
少し前向きになれたら色んな可能性が見えてきて、何だか嬉しくなってきた。明日からまた、少しずつ外に出てみようと思う。もちろん、準備はしっかりとして。