3.暇ほど毒なものはない
『んー…』
朝日を浴びながら、大きく伸びをする。木々の隙間から木漏れ日が射し、森は今日もいい天気だ。
朝になり目を覚まし、私は巣穴から外に出ていた。周りに特に変わった様子はなく、昨日のままだ。ひょっとすると、この辺りには魔物や生物が少ないのかもしれない。それはそれで安全だろうけど、ちょっと寂しい気もする。
双子の木の葉っぱに付いていた朝露で水分を補給し、頬袋に詰めておいた木の実をかじる。うん、この胡桃に似た木の実も美味しい。
今日はとりあえず、巣穴を整えようかな。昨日寝てて思ったんだけど、地面に直に寝るのは少しきつい。粗めの砂が気になるし、なにより身体が休まった気がしない。草か何かでベッドを作りたいな。
周りで何か材料になりそうなものを探す。さすがに布とかは都合良く落ちてないだろうし、柔らかそうな草とかあるといいんだけど…
キョロキョロと辺りを見回す。何か良さそうなものは、と…
『あ、あれ良さそう』
双子の木の枝に蔦が引っ掛かっている。これを短く噛み千切って編み込めば、いい感じの土台にできそう。
木を少し登って、蔦の端を掴んでみる。ぐいぐいと片手で引っ張ってみると、引っ掛かっていた箇所が外れてはらはらと落ちてきた。
蔦を短く噛み千切るときに少し青臭かったけど、無事に編み込むことが出来た。これを日に当てて乾かしておく。
なんだ、私ハムスターだけど案外器用じゃん。
あとは…細めの草とかむしって乾かせば、ベッドの柔らかい部分に出来るかな。その辺に生えてるし、適当に千切って乾かしておこう。
木の根元に生えていた草をむしり、蔦のベッドの横に広げる。ふわり、と草の香りがした。どれくらいで乾くのかわかんないけど、夕方頃にもう一度確認しなきゃな。今晩の夜はふかふかのベッドで寝れるかも。
『次は巣穴の掃除をしよう』
一旦巣穴に戻り、細かい石や粗めの砂を外に出すことにする。一つひとつ運んでいるとキリがないので、頬袋にいくつか詰め込んでから外に捨てた。五回も往復すると、巣穴はかなり綺麗になった気がする。一度だけ間違えて小石を噛んでしまったけど、大丈夫、前歯は欠けてない。
最後に木の実を巣穴の端に並べて、いくつか大きめの殻に朝露を溜めてみた。これで水と食料も完璧だ。だいぶ暮らし易くなったはず。
『ふー、出来た…』
壁際にある木の根を椅子代わりにしながら、休憩がてら木の実をかじる。
私が出せる木の実の種類は豊富で、ざっと見ただけでも二十種類以上はある。元の世界で見たことがあるようなものもあれば、同じ形でも色や味が違うものもあった。
二、三種類ほど鑑定してみたけど、ピコとかルコの実とか名前と味についてわかるだけで、効果とかは私の鑑定Lvじゃわからない。もう少しLvが上がればわかるんだろうけどなぁ。
『………』
ぽりぽりぽり…
…暇だ。蔦と草が乾くのを待っている間にやることもなく、木の実を食べるくらいしかやることがない。
これからのこととか、考えていかないといけないことがたくさんあるのはわかってる。かといって焦っても良いことはないし、今はまずここを拠点にこの世界を知ることが最優先だ。
…最優先、なんだけど、
『ちょっと外を探索しに行くくらい、平気だよね…?』
まぁ、ほら、あれだよね。じっとしながら木の実を食べてても太るだけだし?ハムスターとはいえ攻撃スキルもあるし?スライムくらいには勝てるかも、なんて。
でもでも、スライムに勝って経験値を得れば、私のレベルも上がるかもしれないし!そうしたらもうちょっとマシなステータスになれるかも。
『よし、行ってみるか!』
せっかく転生したんだし、引きこもっていてはもったいない気がする。
溜めていた朝露で喉を潤し、木の実をいくつか頬袋に詰めて私は巣穴から外に出た。
私は、油断していた。なんだかんだここまで順調だったし、私自身が元々かなり楽天家だ。いつも考え込むことなく、なんとかなるだろうと生きてきた。
でも、ここは異世界だった。今まで私が生きてきた優しい世界とは違うんだってことを、忘れていた。
この時はまだ、知らなかったんだ。