1.目覚めた場所は
私は真っ暗な中を、ふわふわと浮いていた。
ここが死後の世界だろうか…?
温かいような、冷たいような…不思議な感じ。
周りには何もなく、ただただ暗闇が広がっていた。不思議と怖い感じはせず、これはこれで居心地が良い。
しばらくふわふわ漂っていると、頭の中にキーンとモスキート音が響く。
──────────
《初期設定を行います》
…初期、設定?
《種族を選択してください》
なに?なんのこと?
《種族を選択してください》
…選ばなきゃだめ?
よくわからないし、別に何でもいいんだけど…
《直前の思考より、おすすめで初期設定を行います》
ピピッ─────
《固有スキル、木の実マスター、動物好きを会得しました》
《耐性、落下無効、衝撃無効、氷無効を会得しました》
《称号、転生者を会得しました》
─────ピッ。
《初期設定が完了しました》
…?
──────────
無機質な音声案内の後、再び頭の中にモスキート音が響き渡る。
モスキート音が鳴り止んだ直後、私の真っ暗な世界は真っ白になった。
『ここ、は…?』
目が覚めると、私は森の中に寝転がっていた。大きな木々に囲まれていて、背中に当たる雑草がなんだか気持ち良い。
周りの木々の葉っぱが、風に揺られさわさわと音を立てていた。
『私、生きてるの…?』
視界いっぱいに広がる緑。葉の隙間から、陽射しが零れる。
いったいここはどこなんだろう…
私が住んでいた街には、少なくともこんな森はなかった。都会と言うほど都会でもなかったけど、電車一本で都心に行ける、ベッドタウンだったはずだ。それに実家のあった田舎だって、こんなに大きな木のある森はない。
『大きな木…』
ぽつりと、呟く。思えば、こんな大自然の中にいるのは久しぶりだった。
普段の生活は仕事に追われ、家に帰れば飼っているハムスターに癒やされ、空いた時間で趣味のゲームをする。休みの日は家でのんびり過ごしたり、友人と遊びに行ったり…
『良い気持ち…』
陽射しと草の感触が気持ち良くて、思わず瞼を閉じそうになる。しかしいつまでも見知らぬ場所で寝転がっている訳にもいかず、私は立ち上がった。
『…あれ?』
立ち上がっても、先程とさして視界が変わらない。木は大きなままだし、なんだかとても視界が低…って、
『えぇぇぇぇぇっ?!!!!!』
自分の手を見ると、小さな手のひらに小さな爪と小さな肉球が付いていた。
ぼんやりとしていた頭が、一気に覚醒する。
ちょっと待って、なにこれ?!どうなってるのっ?!!
小さな手に小さな足、お尻には小さな尻尾がぴょこん。そもそも身体が小さいし、全身に白と薄茶色の短い毛が生えている。鏡も何もないから見えないけど、これじゃまるで…
『ハムスター、なの…?』
何度も全身を確認してみたけど、どうやら私はハムスターになっているようだった。二本足で立つことは出来るけど、歩くことは出来ない。言葉も喋れないし、喋ろうと思っても、
「キュー」
くらいしか発音出来なかった。
どうしてこんなことになっているのか…
…もしかして夢???
小さな手で頬をつねろうとすると、頬袋がみょーんと伸びるだけだった。爪でぎゅむっと摘まむと少し痛い。
…夢じゃない。
私が死んでしまったことも、今この小さな身体になっていることも、周りの森の感触も、全部ぜんぶ本物なんだ。
でも、どうしてハムスターに…?
私がもう一度全身を確認しようとすると、突如頭の中に直接文字が浮かんだ。
【名前】なし
【種族】ゴールデンハムスター
【ランク】F-
【レベル】1
【HP】2
【MP】1
【攻撃力】1
【防御力】1
【魔力】1
【素早さ】3
【器用さ】2
【固有スキル】木の実マスター、動物好き
【通常スキル】鑑定Lv1、体当たりLv1、かじるLv1、穴を掘るLv1
【耐性】落下無効、衝撃無効、氷無効
【称号】転生者
…これは、ステータス?
なんだかゲームみたいな、どこかで読んだ小説みたいな…これが、私?
称号に転生者ってあるってことは、やっぱり私はハムスターに生まれ変わってるんだ…
…って、弱っ!!!
ちょ、ちょっと待って…ステータス低っ!ランクF-って…これ最低じゃないの?
ていうか真っ暗だったときの初期設定ってこれか!!これのことか!!!
…やり直しさせてー!!!!!