14.スライム、再び
なんとか巣穴の入り口を広げ終えた私は、マシロと一緒に巣穴の中に戻っていた。
マシロの身長が伸びた分天井が低く感じるかと思ったけど、意外とそんなことはなかった。むしろまだ余裕があるくらいだ。
…天井、こんなに高かったかな。
「ピ?ピュイー…」
振り返ると、ベッドを見つめたマシロが悲しそうに俯いていた。さすがに今のマシロサイズのベッドを作るのは骨が折れそうだから、大量の干し草で我慢してもらうしかなさそうだ。
『大丈夫、これからも一緒に寝てあげるから』
よしよしとマシロの嘴を撫でる。俯いて頭が低い位置にあれば、嘴くらいなら私でもギリギリ届く。進化したてでデリケートになっているマシロのためにも、スキンシップは積極的に行っておこう。
「ピッ!」
機嫌を直してくれたのか、マシロが顔を上げてくれた。身体は大きくなっても中身はまだまだ子どもなのか、顔を擦り寄せてくる。
よしよし、私は少しお昼寝するから、その後お昼ご飯にしようね。
まだ眠気が抜け切れない私は、干し草の山にダイブする。すると、続いてマシロがやってきた。マシロもたくさん飛んで疲れたのか、一緒に一眠りすることにしたようだ。
『おやすみー…』
マシロの羽に埋もれながら、私はあっという間に眠りについた。
『マシロ、今日もよろしくね』
「ピューイ!」
私がマシロの嘴を撫でると、マシロは羽を広げて高らかに鳴く。
私たちはお昼ご飯を食べたあと、昨日大量のプチスライムと戦った場所に来ていた。ここはプチスライムしか出てこないみたいだし、進化したてのマシロでも安心して戦える。相変わらず私は何も出来ないけど。
昨日と違う場所を探索するのも考えたけど、マシロのレベルが低い内は慣れた場所の方が何かあった時に対処出来る。マシロのレベルがある程度上がってから、背中に乗せてもらってあちこち探索するつもりだ。
「ピュルルルー!」
マシロは昨日の場所を覚えていたのか、今日の予定も把握しているようだ。すでに戦う準備は万端とばかりに気合いを入れている。
─────ガサガサッ
そうこうしているうちに、本日一匹目のプチスライムが草むらから現れた。昨日まではマシロよりも遥かに大きかったゼリー状の塊が、進化したマシロに比べると少し小さく見える。これなら楽勝かな、そう思った時、
─────ドサッ
私たちの背後の木の上から、何かが降ってきた。振り返ると、目の前には青っぽい透明な塊。ただし、見慣れたプチスライムよりも遥かに大きな固体。これは、
「ピュイー!!」
マシロが咄嗟に私の首根っこを嘴でくわえ、空へと飛び立つ。直後に、スライムが私の居た場所に酸のような液体を吐き出していた。液体を浴びた草が茶色に変色し、ドロリと溶けていく。
あ、危なかった…マシロが空に逃がしてくれなかったら、あの酸のような液体を被っていたのかと思うとぞっとする。
マシロはすっかり身体を萎縮させてしまった私を背中に乗せると、プチスライムに目を向ける。まずはランクの低いプチスライムから倒すことにしたようだ。
「ピィィッ!」
マシロが空からプチスライムに向かって降下を始める。そのままぐんぐんスピードを上げると、私を背中に乗せたまま体当たりをした。赤色のコアを貫かれたプチスライムはバラバラに飛散し、消滅する。
『すごい…』
てっきり昨日の氷魔法で倒すのかと思ったけど、マシロは肉弾戦でも戦えるのか。新たな発見だ。
私はマシロの背中からこっそりスライムを盗み見る。スライムはのそのそと、しかし確実に私たちに近付いてくる。恐らく空から戦えるマシロなら苦戦はしないと思うけど、油断は禁物だ。私は今のうちにスライムを鑑定する。
【名前】なし
【種族】スライム
【ランク】E
【レベル】6/10
【HP】26/26
【MP】11/11
【攻撃力】12
【防御力】8
【魔力】6
【素早さ】15
【器用さ】9
【固有スキル】変形
【通常スキル】体当たりLv2、溶かすLv3
【耐性】衝撃耐性Lv2
【称号】なし
思っていたよりもスライムのレベルが高い。ステータスもランク上のマシロとほぼ互角だ。油断は出来ない。
私の緊張が伝わったのか、マシロの身体が強ばるのを感じた。