12.どんな姿でも
次の日の朝、双子の木から朝露を回収しているとマシロがのそのそと起きてきた。寝起きのせいか、少し足元がおぼつかないようだ。マシロに回収したての朝露をあげると、美味しそうにごくごくと飲んでいる。
今朝はこのまま、外で朝食にしようかな。天気もいいし、いつもは巣穴の薄暗い中で食事をしているので、たまには外で食事をするのもいいかもしれない。
朝露を回収した大きめの木の実の殻を置き、適当な小石に腰をかける。マシロも私の横に来ると、まだかまだかと待っていた。
「ピュルルルー!」
朝の森に、澄んだマシロの鳴き声が響く。やっぱり綺麗な声だな。
木の実を出してあげると、マシロはすぐに食べ始める。私もお腹が空いていたので、殻を剥かずに食べれる木の実からかじることにした。
朝食を終えると、マシロは双子の木に登って飛ぶ練習をしていた。上に登っては下に飛び降り、また上に登っては下に飛び降り…その距離は徐々に伸びていったので、そのうちスキルの飛行の熟練度も上がるだろう。
私は食べ終えた木の実の殻を、双子の木の根元に集めていた。最初は巣穴の端の方に集めていたのだが、毎日木の実の生活を送っているせいか量が多すぎた。さすがに巣穴に溜め込み続ける訳にはいかなかったので、双子の木の根元に集めることにしたのだった。何故か毎日殻の量が減っているので、今のところ特に困ることはなさそうだ。
それにしても…
『進化、したくないのかな…?』
せっかくレベルが最大まで上がったのに、マシロには一向に進化する素振りがなかった。もしかして、何か進化したくない理由でもあるのだろうか。
私も双子の木を登り、羽ばたいているマシロに近付く。
『おーい、マシロー!』
「ピッ?」
マシロも木を登ってくる私に気付き、羽ばたくのをやめる。その時だった。
─────ずるっ
『うわっ?!!』
「ピィッ?!!」
不覚にも、足を滑らせてしまった。その衝撃で小枝を掴んでいた手を離してしまう。
宙に浮かぶ身体、思い出す元の世界での最期。あの時も、ささえるものも受けとめてくれるものも、何もなかったな。今は落下無効の耐性があるから、大丈夫なはずなんだけど…
それでも、この感覚はあまり思い出したくなかった。
落ちる、そう思った時…
「ピュルルルルー!!!」
マシロの鳴き声と共に頭上から淡い光が発生し、何かが私を受けとめた。ふわふわとした感触で、目の前に広がる真っ白な羽、これは、
『マシ、ロ…?』
マシロが、背中で私を受けとめてくれていた。先程見たよりも、ずっと大きな背中で。
マシロは地面に降り立つと、少し屈んで私を背中から降ろしてくれた。
『ありがとう、助かったよ』
マシロにお礼を言うと、マシロが悲しそうな、どこか寂しそうな顔をしていることに気付く。
マシロは、進化していた。落ちた私を助けるために。
進化したマシロは姿はベビーフェザーの時とほとんど変わらず、表情が少しだけ幼くなくなったくらいだった。しかしサイズがかなり大きくなっており、以前は私とそんなに変わらない小鳥サイズだったのが鳩くらいのサイズに成長していた。
私としてはマシロの成長を喜びたいのだが、マシロはそうじゃないらしい。
『どうしたの?』
「ピュイー…」
しゅん、と落ち込んだ様子で頭を垂れる。元気付けるために頭を撫でようとして、私はようやく気付いた。
『もしかして、大きくなると撫でてもらえなくなるから進化しなかったの…?』
小さな身体の短い腕の私じゃ、かなり体格差があるマシロの頭を撫でられない。身体が大きくなってしまうと、今までのようにスキンシップがとりにくくなる。
どうやら、これがマシロが進化したくなかった理由のようだった。
そんなの、気にしなくていいのに。
『マシロ』
「…ピ?」
私は自分の短い腕を目一杯伸ばして、マシロにおいでと胸を張る。それを見たマシロは嬉しそうに顔を擦り寄せ、私はマシロを抱きしめた。
『助けてくれて、ありがとう』
どんな姿に成長しても、マシロがマシロであることに違いはない。そして私は、マシロがどんな姿でも離れるつもりはない。
だから、これからも安心して成長してね、マシロ。




