9.ふたりぼっち
『よっし、終わったー!』
「ピュイピュイ!!」
マシロと一緒にドサッと床に座り込む。さすがにマシロも疲れたようだ。私もすでに身体のあちこちが筋肉痛になりそうだけど、達成感が心地好い。
地面を掘り終えた私たちの目の前には、広々とした空間が広がっていた。掘り返した土も、すでに撤去済みだ。あとは小石を拾って、地面を踏み固めればもっと綺麗になるはず。うん、なかなかに好調な気がする。
「ピュイー…」
私が満足して頷いていると、マシロがぺたりと地面に寝転ぶ。もしかしてお腹が空いたのかな?たくさん動いたもんね。
『ご飯にしよっか?』
微笑ましい姿にくすくすと笑いが込み上げるのを我慢しながら、木の実をたくさん出してやる。マシロは目の色を変えて、嬉しそうに木の実をついばみ始めた。やはりお腹が空いていたようだ。
私もたくさん動いてお腹が空いたし、今日は朝が早かったから早めに休むのもいいかもしれない。
「ピュルルルー!」
ご機嫌そうに木の実をぱくぱくと食べ続けるマシロ。たくさん食べてたくさん動いて、今朝見つけた時とは大違いだ。元気になって、本当によかった。
でも、マシロはどうしてあんな怪我をして一人でここに居たんだろう?周りには私以外の生物は居なかったはずだし、マシロはまだ小鳥なのに…
魔物の成長事情はよくわからないけど、マシロは種族の欄にベビーフェザーとあったはずだ。ランクはE-だったし、進化すればベビーではなくなるんだと思う。
…ベビーの間に一人立ちするものなのかな。魔物は生まれたら、すぐに一人になるのかな…なんだかちょっと、かわいそうだ。
『ベビーフェザー、か…』
【ベビーフェザー】フェザー種の生まれたての魔物。集団で過ごすことが多く、進化していくと灰色の羽がそれぞれの属性の色に変化していく。
鑑定してみると、やはりベビーフェザーは集団で過ごす魔物だったようだ。そして、気になる情報も。
食事をしているマシロに気付かれないように、ちらりと覗き見る。
マシロは、どう見ても真っ白な羽だった。しかし、ベビーフェザーの鑑定結果には灰色の羽とある。マシロの種族は間違いなくベビーフェザーだったし、羽の色に相違があるのはおかしい。
この世界にもアルビノ種がいるのなら、マシロはアルビノだったせいで仲間の群れから追い出されたのかもしれない。あの怪我だって、仲間にやられたのかもしれない。そんなの…
「ピュイ?」
ふいに、マシロが私を見て首を傾げる。木の実を一つ嘴でくわえると、トコトコと近付き私の手に持たせようとしてくれた。
今朝までのマシロに何があったのかはわからない。悲しいことも寂しいこともあったのかもしれない。それでも、マシロは優しい魔物なんだね。
『…そうだね、一緒に食べよう』
「ピピッ!」
お互い、せっかくひとりぼっちじゃなくなったんだもん。ご飯だって一緒に食べたいよね。
私は考えるのをやめ、マシロと一緒に木の実を食べることにした。やっぱり、誰かと一緒に食べるご飯は美味しい。
私はこの世界に来てからずっと一人だったし、マシロもきっとそうだったんだと思う。
言葉は通じなくても、マシロとならやっていける。そんな気がする。
この日は食事を終えたあと、ちょっと狭いけどマシロと一緒にベッドで寝ることにした。
マシロの羽はふわふわして暖かくって、身体の小さな私をすっぽり包んでくれて気持ちよかった。
人も魔物も、誰かに傷付けられた分だけ誰かに優しく出来る。
マシロにもそう思ってもらえるように、私も頑張ろう。