表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

これも奉仕の一環らしい

「結構、無茶苦茶だな、しかし。まあ、俺の世界の宗教団体だって、まともなところばかりじゃないが」


 ロワールは飛ばし読みしたノートを箱の中に戻し、ため息をつく。

 ノートはまだ山のようにあるので、そのうち暇を見つけて、他の代の教祖が書いたものも読もう。……あと、壁の落書きも。


 たまたま、座った正面の壁に書かれてあった、「清らかな神官達ばかりだけど、別に彼女達に手を出してもいいんだと、ようやくわかった。そういうことは早めに教えてくれよ、やっほー」というトンマな文章を読み、ロワールは眉をひそめる。


 こいつら、本当に俺か!? 


 俺、そこまで軽い性格じゃないんだが……ていうかこれ、万一を考えて一部、もしくは大部分を消した方がよくないか?

 俺以外の奴が見たら、権威失墜どころじゃないぞっ。

 やや不満だったが、とにかくロワールはいい加減にしてベッドに横になった。


 なによりもまず、教祖に必要な知識と神力を得なければならない。






 予想に反して、ロワールはどうやら、爆睡したらしい。

 途中、なにかひどい悪夢を見た気がするが、目覚めた時にはすっかり忘れていた。


 そして、目を擦って上半身を起こした時点で、ロワールは気付いた。

 自分が……眠る前には知らなかった知識を持っていることに。


 十分とは言えない気がするが、少なくとも教団の内情や主立った者の名前、それにこの世界の文明度などは、もはや理解できている……不思議なことに。


(成功だっ!)


 内心でガッツポーズを取ると同時に、どくんと鼓動が跳ね上がる。

 このメディテーションルームならぬ、落書き部屋で読んだノートの中に『ここで一晩眠るだけで、おまえが想像する以上のものが己のものとなる』と書いた先人がいたが……今こそロワールは理解した。





 全く意識もしないうちに、なぜか己のうちに巨大な力が宿ったと知ることは、想像したより遥かに不気味で、畏怖すべきことだった。

 この力が全て転生前の俺のものだというなら……戦神の転生であるという黄金神官の言葉は、誤りではなかったかもしれない。


 どんな独裁者だって、ここまでの力は望まない気がする。

 ロワールは、ようやく自分が本物の戦神であることを、ほぼ信じた。


「しかし……俺の意識は相変わらず、鷹崎恭平そのままだというのが、難儀だな」


 頭を振ってベッドから出る。

 どうせなら、人格も神の次元に戻して欲しいものだが、転生して受肉した関係か、それは無理らしい。


 どれほどの力を得ようと、中身は煩悩まみれの就職浪人のままだ。


 それでも多少はほっとして、ロワールは昨晩脱いだ紋章入りの服をまた着込み、入るのとは逆の手順で落書き部屋を出た。

 出る前に、振り返ってぐるっと壮絶な落書きの数々を見やる。




「……ちょくちょく来ることになると思う。またよろしく頼むよ、先輩方」


 先輩というか、理屈で言えば、その全員が転生を繰り返した、己自身なのだが!

 使わなかった寝室に戻ると、なにやら外――というか隣室に人の気配を感じた。

 それも大勢。これも、今のロワールなら察しがつく。


 ……神官達が、教祖の寝室を掃除しようと、控えているわけだ。


 相手が相手だけに、無理に叩き起こすなどということは、しないようだ。

 神力でこそっと会話を盗み聞くことも可能だが、ロワールはあえてそうせず、抜き足差し足で両開きのドアの前に佇み、耳をつけて外の様子を探ってみた。


 とても教祖のやることではないが、中身はまだ全然恭平のままなので仕方ない。その点、もはやロワールは開き直ることにした。





「ジャスリン様ぁ、ジャスリン様は、もうお目通りしたのですかぁ」


 若い神官の声がした。


「いいえ」


 落ち着いた女性の声がこれに答える。


「昨晩、ご挨拶しようと思ったけれど、早めにお休みになられたようなので、本格的な挨拶はこれからよ」


 するとまた誰かの声が「とうとうあたし達、空っぽの部屋じゃなくて、きちんとロワール様がお使いになるお部屋を掃除することになるんですね!」と、うっとりした声で言った。


 同意の声があちこちからしたが、全員女性である。

 基本的に、ロワールの世話をするのは、女性神官のみなのだ。メイドという概念は教団にはなく、メイドがやるような役目も、全て女性神官がこなす。


 これも奉仕の一環らしい。





(その辺りも改革すべきかもしれないが……ちょっと様子を見よう)


 きゃぴきゃぴした声を聞いているうちに、ロワールの最初の決意は、脆くも崩れた。

 若い女性の影響力は、半端ない。

 盗み聞きに満足したので、わざとらしく咳払いして、自らドアを開けた。


 部屋でそれぞれ休憩しながら待っていたのかと思いきや、なんと十名ほどいた女性神官達は、全員がその場で片膝をついて控えていた。


 まさか、こんなきっちりした拝謁ポーズで、雑談までこなしていたとは。


(それだと、疲れるだろに?)


 ロワールは内心で苦笑した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ