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神の化身たる教祖、いきなり重大な命令を下す


 ロワールはなんと答えようか悩んだが、幸い、ベアトリスが号令を発する声の方が早かった。


「神の化身たる、ロワールさまのご命令は、既に下されていますっ。レグニクス、下がりなさい」


 立ち上がった皇帝レグニクスは気色ばんだ表情で周囲を見た。


「予は皇帝で――」

「重ねて命じます!」


 ベアトリスが皇帝の言葉を遮る。


「下がりなさいっ。衛兵っ!」


 号令一下、たちまち『ははっ』と声が重なり、どこにこんなにいたんだ? とロワールが驚くほど、続々と衛兵の群れが駆けつけ、皇帝を囲んで無理に連れ出してしまった。

 彼らにとっても、皇帝の権威ごときは、取るに足りないものらしい。


「後悔しますぞおっ」


 などと皇帝が喚いた時は、既に扉の外である。

 ロワールは内心でため息をついた。対応は間違ってなかったが……こりゃ、一気に帝国と揉めそうだな。


 しかし、逆にこうなったからには、むしろ早く手を打った方がよい。

 万事素早いロワールは、傍らのベアトリスに尋ねた。


「帝国と決別することで、我々になにか損失があるかな?」

「むしろ、帝国側にこそ、損失がございましょう」


 密かにベアトリスが答える。



「帝国内だけでも、ロワールブランジュの信徒は数十万を数えます。ロワール様に対する皇帝の不敬な言動は、おそらくすぐに広まりましょう。すると当然、信徒達は皇帝の潜在的な敵となります。それに我が教団は、かなり以前から帝国の金庫と呼ばれていて、これまで帝室の財政を影ながら支えていますから」



「そうか。ならば、俺は決断した」






 わざと顔を上げ、周囲を見渡した。


「まだ教祖の座に戻ったばかりだが、本拠の教会を他へ移そうと思うが、異論ある者は?」


 誰一人として異論を挟む者はいなかった。

 ベアトリスが笑顔で口を挟む前に、今回は皇帝を殺そうとした例の若者が、決然と述べた。「ロワール様。貴方様の決断こそが、我ら信徒の決断でございます。誰が異論などありましょうや」


「いや、異論という言い方がよくなかったな、意見を求めたのだよ。だが、特になければ、私のやり方で行おう」


 ロワールは意識してゆったりと微笑み、彼を含めて一斉に低頭した幹部達をじっくり眺めた。老若男女、人は多いが、どうやら教団を真に支える中心人物は、彼とベアトリスを含めて、十人程度だろうか。


 ならば、挨拶より先にやることがある。


「我がロワールブランジュの新たな本拠地については、選定のやり方に私なりの考えがある。それと、今日は各自挨拶をということだったが、私は少し考えが変わった。不勉強なりに学びたいので、今はこれまでにしよう。皆、立ってよいぞ。ご苦労だった」


 自ら玉座を立って頷くと、これまた誰も異論を挟むことなく、ベアトリスを始め全員が立ち上がり、両手を胸の前で交差した。



『ロワールブランジュ、万歳!』



 ……次に一斉に声を合わせて叫ばれてしまい、ロワールは精神的に二歩ほど引いてしまった。


(こいつら、狂信者じゃないだろうなっ)






 いきなり教会本拠の移転を決めたのは、「どうせあの皇帝とは上手くやっていけそうもない」と思ったのと……ふいに出した無茶な移転命令に、果たして信徒達がどれほど真剣に取り組んでくれるか、実際のところを知りたかったからだ。

 どうせ試す必要があるなら、早い方がよい。


 仮に不満が噴出して、ロワールに非難の矛先が向かうようなら、実は教祖の権威など、大したことはないということだ。

 逆に、喜んで大変な移転作業を皆でこなすというのなら、教祖が持つ権威はロワールの予想以上だったことになる。


 さらに言えば、幹部達が挨拶するはずだった時間をロワールがすぱっと飛ばしたことにも、理由がある。

 教祖として演技を続けるのは良いが、このままでは知識不足でいらぬボロを出す恐れがある。そのため、ロワールから見ても忠義の固まりであるベアトリスに、まずはいろいろ教わろうと思ったのである。


 教えをうのは、教祖の立場としてはあまり良いことではないが、せめてベアトリスのみは、例外とせねばならないだろう。


 ところが、ロワールの私室へ案内してくれたベアトリスは、笑顔でこう述べた。




「ご心配にはお呼びません、ロワールさま。今宵一晩かければ、必要最低限の知識はそっくり手に入りますわ。それが、これまでの慣例ですので」

「……今一つ、わからないが?」

「恐れながら、こちらへどうぞ」


 ベアトリスはロワールを先導し、何部屋もあるロワールの占有区画を幾つも通り抜け、最後に広い寝室のような場所へ着いた。


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