長い道のり
ロワールは神聖騎士団と親衛隊が戻るまで、あえて正門の上から動かずにいた。
どうせあの敵の有様なら、味方はすぐに凱旋してくるだろうと思ったからだし、それに教団のために戦った者達を、出迎えてやろうと思ったからだ。
周囲がしきりに部屋や休憩所を用意しようとするのを笑顔で断り続けて二時間、ロワールもさすがに、あと半時間待って彼らが戻らなければ、一旦教会本部へ戻るかと覚悟した。
しかし、まさに自分で決めたギリギリの時間に、レオンとミレーヌは戻って来た。
多数の捕虜を数珠繋ぎにして馬で引いてきており、どうやら見事に完勝を収めたらしい。
ロワールが正門から「皆、よく戦ったぞ!」と声をかけてやると、兵士達全員が武器を掲げて「ロワールブランジュ万歳!」を叫び、それに応じて教会の敷地内でも万歳の声が満ちた。
このようにして、教団と帝国の最初の激突は、教団側の完勝に終わったのである。
長い一日が暮れて夜になると、ロワールは軍議の間と呼ばれる広間に主だった者を集めた。
黄金神官と白銀神官を始め、神官達は数十名ほど、レオンとミレーヌの姉弟、さらには教団そのものを運営する立場の文官達などである。
ロワールブランジュは独裁政治も同然だが、全国に散る教会などに命令を下すため、細かい施政には当然、文官も関わっている。
あえて彼らも軍議の間に集め、ロワールはまず皆をねぎらった。
「百代目の教祖として戻った私は、今回の帝国との小競り合いで、大いに満足した。もちろん、帝国とて本気で戦力を出してきたわけではないが、仮に本気になったとしても、皆が今日のように迅速に動いてくれれば、恐れる必要などない」
ロワールの言葉に、巨大な円形テーブルに着いた全員が、一斉に低頭した。
「全ては、ロワールさまの御心のままに!」
ロワールの右隣に座るベアトリスが声を張り上げ、笑顔でロワールを見る。
お陰でロワールの方も決心がついた。
「よくぞ言ってくれた。今、ベアトリスが奇しくも声に口にしたように、実は私には今後の計画もある。今回のことで、もはや帝国との溝は深いものとなり、和解には何年もかかるだろう。しかし、そのような努力を払うくらいなら、むしろ敵を我が方へ引き入れるべきだと思っている」
わざと迂遠な言い方をしたが、早速、ミレーヌとレオンの姉弟が反応した。
「我ら神聖騎士団は、ご命令あれば、すぐに出撃します!」
「親衛隊も、次はさらなる戦果をお見せする所存っ」
姉弟揃って、目を輝かせて低頭する。
伝令からの報告で、今日は彼と姉のミレーヌとで、なんと数十名もの強敵を倒してしまったらしい。
指揮官クラスがそこまで奮戦するのも珍しい話だが、無論、厭戦気分で嫌々戦うよりはよほど有り難い。
ロワールは大きく頷き、「期待しているぞっ」と声をかけてやった。
「当面の目標は、グランヴェール帝国を教団のものとすることだが、軍を出すのは、領地を差し出すと申し出てくれた、ログフォール公国へ移ってのこととなる」
なぜ公国が教団に国を差し出すようなことを申し出たかというと、かの国も帝国に睨まれていて、すぐにも攻め込まれる危機にあったからだ。
もはや帝国との戦争が避けられないので、せめて公国の国民達だけは、ぜひ教団に救って頂きたい……それが、ログフォールを治める公爵の、血を吐くような願いだった。
「私は公爵が自国民を救って欲しいとのみ願い、自らの家については一言も望みを言わなかったことが、大いに気に入った! このような国こそ、公爵もろとも救ってやらねばならないだろう。それが、私の最初の務めだと考えている」
あえてそこで間を開けたが、ロワールに異見を申し出る者は皆無だった。
皆、当然のような表情で聞いている。
「明日には魔導船が到着する予定なので、私と側近の一部は、すぐにも公国へ移ろう。それ以後、戦力の終結が済み次第、討って出る!」
そこで初めてベアトリスが質問した。
とはいえ、彼女の場合はおそらく、わざと質問して皆に聞かせる意図があるのだろうが。
「もしも、今日のように敵が先に攻めて来た場合、いかが致しますか? 皇帝は年若いためか、無謀な賭けに出そうな気もしますが」
「うん、有り得るだろうな」
ロワールも頷いた。
「だが、心配はいらない。敵が先に大軍で攻めてくれば、私が今日のようにまず出鼻をくじくつもりだ」
自信溢れた表情に見えるといいがと願いつつ、ロワールは破顔する。
「もちろん、我が軍の働き分は、ちゃんと残しておくつもりだが」
最後にわざと軽口で言うと、軍議の間がどっと湧いた。
ロワール自身も含めて笑い声が木霊し、とても軍議の席だとは思えなかった。
(戦いを始めるからには……最後までやり遂げる。これこそ、聖戦だ)
ロワールは微笑しつつ、密かに決意した。
もちろんその最後とは、たかだか帝国の占領程度には留まらないだろう。
……長い道のりの一歩が、今ようやく始まったのだ。
完全に勢い落ちたというか、どうやら最初から盛大に外しましたorz
もちろん、全て私の力不足です。
幸い、短編バージョンも考えていたので、その考えていた区切りまでとします。
また懲りずにがんばって書きますので、よろしくお願いします。




