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そのまま軍勢を進めるなら、外敵として殲滅することになるだろう

 ロワール達がいる本部教会と、そこに付随した各部署の建物を、石造りの防壁がぐるりと取り囲んでいる。


 ここがいわばロワールブランジュの王都も同然で、防壁の外にはほぼ信徒達ばかりが暮らしている。今、正門は大きく開かれていて、ベアトリスの神聖魔法による放送に従い、外の居住区から続々と避難民が集まってきていた。


 幸い、パニックに陥っている者はほぼ皆無であり、それぞれ非常に落ち着いた態度である。 

 教祖自身が健在だし、避難先であるここにいることも大きいのだろう。

 また全員に拝礼されたら避難の邪魔になりそうなので、ロワールは防壁の上に登り、目立たぬ防壁上の通路から帝国軍の襲来をまつことにした。


 到着するなり、すぐに伝令が来て、帝国軍がすぐ間近に迫っていること、その数は二千名ほどだと伝えられた。

 兵科は騎兵と歩兵と、それに魔導銃装備の銃兵達であるとか。





「思ったより少ないな? ここに常駐している神聖騎士団と親衛隊の兵力より、かなり少ないはずだが?」

「敵は、我らの兵力を正確には把握していないと思いますし、おそらく兵器の質でも上回っていると、勘違いしているのでしょう。ロワールブランジュは帝国と違い、保持している兵器をいちいち見せびらかしませんから」


 見せびらかすというのは、帝国内でしばしば記念式典と称し、帝国軍が帝都を行進していることを指すのだろう。

 一種の示威行為である。


 吐き捨てるようにこき下ろすミレーヌは、かなり腹を立てているように見えた。

 もちろん、それはロワールも同じである。




「まあ、彼らの自信がどこまで続くか、私と共に見届けようじゃないか」


 ロワールが穏やかに返すと、ミレーヌは深々と一礼した。

 やがてなお一時間ほど待つと、避難民の群れが途切れがちになり、正門から続く公道の遥か先に、帝国軍の戦列が見えた。


 と同時に、おそらく先行してきたと思われる騎乗した使者が、二人ほど護衛を連れて正門前までやってくる。


 教団側の衛兵が、「止まれえっ」と大声で命じた途端、彼は声を張り上げた。




「我らは皇帝陛下の軍勢であり、もったいなくもその第一陣を命じられている! 使者として告げるっ。ロワールブランジュの新たな教祖に帝国への反逆の疑いがあり、かくは参上した。できれば穏便に済ませたい故、教祖を僭称する若者を引き渡して頂きたい!」


 その瞬間、それまで冷静だったミレーヌが、奥歯を鳴らす音がした。


「おのれえっ、言うにことかいて――」


 怒りのあまりミレーヌが今にも飛び出しそうなので、ロワールは先に自分が叫んだ。





「反逆とは笑止なことを言うではないか、そこのおまえっ」

「誰だっ」


 ぎょっとしたように見上げた使者は、正門上の通路にロワールの姿を見て、目を細めた。


「自分が連行しようとする者の姿もわからぬか? この私が、受肉したロワール・ブランジュだ!」


 わざと周辺全域に響くように神力を使ったので、たちまちにして後方の帝国軍に動揺が走り、そして教会敷地内を行き交う者達がその場で平伏した。


「身分を明らかにした上で続けるが、反逆とは普通、主君ないし主君に当たる者に臣従していなければ、成立すまい? しかし私は、この大陸の歴史上、一度も帝国に臣従した覚えなどないっ。そもそも、帝国のたかだか百数十年程度の短い歴史と、我が教団五千年の歴史の長さを比較すれば、そのような戯言自体、成立しないとわかりそうなものだが」


「おぉおおおおおっ」

「ロワール様っ、ロワール様っ」

「帝国軍、なにするものぞっ」


 門を守る自軍の兵士達はもちろん、背後の方で信徒達の興奮した叫び声が連続して、ロワールはふと「皆、勝手に突撃しないだろうな?」と心配した。

 幸い、猛りつつも皆が大人しくロワールの話を聞いているようなので、安堵して続けた。


「皇帝が私を恐れ、警戒するのは勝手だが、誤った罪状で連行される気など、私にはさらさらない。逆に私がおまえ達に警告しよう」


 ロワールはそこで一拍置き、ぎらっと眼下の使者を見据えた。


「おまえ達は、我がロワールブランジュの領土を、これ以上ないほど明確に侵犯した。直ちに引き上げ、皇帝自身が謝罪するならまだ話し合いの余地はあるが、そのまま軍勢を進めるなら、外敵として殲滅することになるだろう。警告を無視するなら、私は容赦しないぞ」


 ロワールの宣告に従い、ざざっと衛兵達がそれぞれ武器を構えた。

 それを見た使者が、青くなって「後悔しますぞっ」と叫び、数騎そろって戻っていった。


 タイミングよく、またロワールの元へ伝令が走ってきた。

 片膝をつき、声を張り上げる。


「申し上げますっ。神聖騎士団並びに親衛隊は、既に中庭に整列しています。皆、ご命令をお待ちしております!」

「私の命令を待てと伝えてくれ。なに、さほど待つ必要はないからとな。……なにしろ、向こうから行軍してくるのが、もう見えている」


 ロワールが答え、伝令は「ははっ」と低頭した後、また駆け去った。



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