表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/16

帝国軍襲来

 白銀神官のジャスリン達と、掃除当番だった神官達全員に頼んだのは、「教祖としてふさわしい服装が必要なので、おまえ達の知恵を借りたい」という内容である。


 ちょうど掃除していた神官が十名いたので、全員で衣装部屋へ赴き、一人ずつ衣装を選んでもらったわけだ。


「いつ着ることになるかはわからないが、他国の要人と会う時などには、ぜひ着用したい」


とロワールが言うと、みんな大張り切りかつ、大喜びでコーディネートを始め、お陰で二時間くらいが瞬く間に過ぎてしまった。





「やれやれ……だが、さっきの穴埋めにはなったかな?」


 ようやく「これから兵舎の方へ行く予定があってな」という理由で解放してもらったロワールは、渡り廊下を歩きつつ、内心でほっとしていた。

 ちなみに、用があるのは本当である。


 まあ、正確には自分の腹心……になるはずの者達に会いに行くのだが。





 大陸最大の信徒数を誇る、ロワールブランジュが持つ武力は、実に多肢にわたるのだが、ロワールのそばにいつも控えている軍勢というと、まず二つある。


 一つは神聖騎士団で、レオン・ルグランという、若干十七歳の青年信徒が団長を務めている。


 皇帝レグニクスを本気で斬るつもりだった、あの青年だ。

 ただ、彼には一つ上の姉がいて、その姉が最も教祖に近い、親衛隊の隊長を務めているのだ。

 名をミレーヌ・ルグランといい、もちろん姉弟揃って、ロワールの代になって初めて就任したわけである。


 ロワールの転生先が明らかになり、ベアトリスがロワール(恭平)を連れ帰ると連絡を受けた時点で、以前の親衛隊と神聖騎士団の団長は、二人揃って仲良く殉死して果てたからだ。


 ロワールに言わせれば、本気で頭の痛い話で、可能ならばそういうベテラン達にこそ、継続して自分を支えてほしかったのだが……鉄の結束と忠義を誇る、信徒たる者の伝統とか説明されると、抗議する前に呆れてしまう。


 慰めとしては、信心深い信徒でもある教団の兵士達は、ほぼその全員が、過去世のいずれかの時点でも、同じく兵士としてロワールに仕えていて――。


 お陰で転生したロワールと同じく、過去世で積み重ねた戦士としての技量がそのまま宿るらしい。

 こればかりは、今のロワールでは真偽がつかないが、真実であって欲しいとは思う。






 いずれにせよ、就任したての姉弟達だろうと、役目柄、現在の教祖であるロワールの懐刀ふところがたなも同然なわけで、非常に重要な二人と言えるだろう。


 ちなみに、親衛隊は別名「赤の軍勢」と称され、神聖騎士団は「黒の軍勢」と称されることもある。


 本来は昨日の段階で、姉弟の挨拶を受けるはずだったのだが、いろいろあって延びてしまった。

 そこでロワールは、まず先に神聖騎士団の詰め所まで足を運ぼうと思ったのだが……教会本棟から、兵舎には全く見えない豪華な建物内に入るや否や、誰に聞いたのか、その姉弟達が別々の方角からすっ飛んで来た。


 弟は兵舎の方から、そして姉の方はロワールがさっき後にしたばかりの、教会本棟の方からだ。まずは弟の方から会うかと思ったものの、一気に手間が省けたらしい。


 双方、軍服姿であり、ミレーヌが(スカート以外は)真紅で、レオンが黒だった。

 軍勢名称、そのままである。





「ロワール様っ」

「我らが神よ!」


 弟のレオンが叫び、姉のミレーヌが早速、ロワールがドン引きするような呼称を叫び、それぞれ冷たい廊下に跪く。


「見張りの連絡を受け、飛んで参りました。就任の挨拶のため、午後にはご都合をお尋ねするつもりでしたのに、よもや自らお越しくださるとはっ」


 弟のレオンが、片膝をついたまま緊張した顔を上げた。


「ちょうど部下を訓練中で、失礼しました。なにかあったのでしょうか?」


 姉もそうだが、彼も金髪碧眼の線の細い若者で、見ただけでは実力が窺い知れない。


「いや、散歩がてらに様子を見に来ただけだ。ついでに挨拶もしたいと思ったが……まさか、これほど早く訪問に気付かれるとは思わなかった。騒がせたようで、悪かったな」

「畏れ多い仰りようです」


 今度は姉のミレーヌが一層、頭を下げた。

 真紅の上着と、黒いスカート……それに、腰には軍人風の革ベルトを着用しており、刀らしき武器を帯びていた。


 ……のだが、ロワールが気になったのは、軍服の黒いスカートが短くて、跪くとその奥まで見えそうな気がすることだ。

 もちろん、あまりじろじろ見ないようにしているが。


「すぐに部屋へご案内致します」

「頼む」


 ミレーヌの恭しい声音に対し、ロワールはあくまで気さくに頷いた。

 しかし、まさにその時、事件は起こった。




 教会の本棟の方から、妙にせわしない鐘の音が響いてきたのだ……それも、途切れることなく、何度も何度も。


 ロワール達が顔を見合わせている間に、今度は黄金神官のベアトリスの声がした。

 教会本部より、神聖魔法で声を自治区内の全域に届かせているらしい。少なくともマイクを通した機械的な声ではなかった。


『緊急放送、緊急放送。わたしは黄金神官のベアトリスですっ。いま、自治領の境界を警護する兵士達から急報が参りました! 恥知らずにも、帝国軍が我がロワールブランジュの自治領を侵し、領土侵犯したとのことっ。自治領内にいる信徒達のうち、非戦闘員は全員、教会本棟地下に避難するように。なお、戦闘員は非番も含めて全て武装して中庭に集合し、ロワールさまのご命令を待ちなさいっ、以上! ロワールブランジュ万歳っ』


 無言で聞いていたロワールは、「案外、反応が早かったな」と思った。



 皇帝レグニクスは、意外と短気だったようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ