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~現実(4)~

~現実(4)~


 起きると気怠かった。久しぶりに人ごみに出て、人と会って話しをする。私頑張ったな。


もう、しばらく頑張らなくてもいいんじゃないのかな。そう、思ってしまった。ちょっとおかしくなりそうになったらトイレに駆け込んだ。トイレってそういう所だよね。


 だから、社交辞令だと思っていたのに、あのホストくん。そう、きららくん。変わった名前の彼からメールが来て本当にめんどくさい。


 ジャガイモ君もどうして番号を教えるのかな。美紀に文句を言ったら「まあ、本当はアイツを紹介しようと思っていなかったんだけれどみさきも外に出たほうがいいよ」とか言ってくるし。もう、最悪。


 でも、なんか少しだけ美紀と話していた落ち着いた気もする。


 起きると昼近かった。カーテンからかすかに光が入ってくる。このカーテン1枚で世界が全然違う。多分カーテンの向こうは違う世界なんだ。いつからこの光の世界をイヤと思うようになったのだろう。


 この薄暗い部屋が私にとってのカンザスシティー。さっき見ていた夢がカラーだったなら、こっちはモノクロの世界だ。


 ちょうど電気もついていないからモノクロに見えなくもない。でも、どうしてかこういう方が落ち着いてしまう。もう、私が頑張る理由なんてもうないのだから。


 体を起こしてベッドから出る。部屋を出ても電気はどこもついていない。テーブルになぜかアルバイト情報雑誌とか、転職情報が並んでいる。多分これはお姉ちゃんかお父さんかどちらかだ。どっちでもいい。私はまだこのままでいたい。変わりたくないのだ。


 いや、公世と過ごした時間に誰も入ってきてほしくないし、あの世界を塗りつぶされたくないんだ。


 でも、どこかでわかっている。それじゃダメだって。だから私は帰って来たんだ。かかとを3回ならしても帰れなかったから、電車に乗って。しかも2時間以上も。


 部屋の電気をつけ終わってから、キッチンに戻り冷蔵庫を開けて中に入っているものを取り出す。ラップに包まれているものを取り出して電子レンジであたためる。


 そういえば、昔は中にいれたら回転していたのに、最近の電子レンジは回転しなくなったんだ。いつから変わったのだろう。


 私はあの回転するお皿をながめているのが好きだった。面白いわけじゃないのにただ見つめていた。今は何か味気なさすぎる。そう思っていたら「チン」という音が鳴った。これは変わらない。変わらないものがあると少しだけ安心する。


 ご飯を食べて私はテレビをつける。でも、ニュースは見ない。知りたくもないものばかり流れているからだ。芸能人の恋愛状況なんて興味がない。誰が誰と付き合おうとそっとしておいてあげればいいのだ。


それにテレビで流れることが真実とも限らない。そんなものを信じたくもない。


 そういえば、さっき夢の中で高校時代の時を思い出していた。そういえば、何かの本で読んだことがある。


アイドルとファンは一緒に成長をしていく。アイドルが歳をとって変わっていくのと同じように、ファンも歳を取っていく。同じ目線でいられたら関係はそのままだけれど、違っていけばどちらかが離れていく。


ま、実際はファンが現実を見て幻滅をするか、興味対象がほかに移るかだ。それが他のアイドルなのか、現実の彼女なのかはわからない。


 多分、あの公世ファンクラブも同じようなものだ。それに最後なんてひどいものだったし。あんなものが公世を束縛していたなんて思うと嫌になる。


 映画でも見ようと思ったら、どこからか音が聞こえる。何の音だろう。耳を澄ますとカタカタとうるさい。


 そう言えば、携帯を2階に置きっぱなしだ。あれは床かテーブルかどこかの上で携帯が震えているのだ。


 うさぎはさみしくなると震えるらしいが、あの携帯もさみしいのだろうか。私はさみしくないというのに不思議なものだ。多分そうなのだろう。だってあんな感じで私は震えていない。


 そのまま放っておいてもよかったのに、今日の私は携帯を取りに2階にあがった。めずらしいものだ。


 着信とメールが来ていた。何件かあったけれど、多分一つは登録していない番号だからきららだと思った。


 知らない番号からメールとか電話とかあると間違いだとしか思えない。まだ、きららを登録していないからだ。こう連絡が来るのなら紛らわしいから登録しようか悩んでしまう。いや、やめておこう。ここに公世以外のものを入れたくない。新しいものを受け入れたくないんだ。


 メールを見る。そういえばラインも来ている。これは未読スルーのままでいいや。誰も私にラインなんて送ってこないし、多分勧誘か何かだろう。メールを見ると美紀からだった。


「なんかきららがうるさいの。ちょっとは相手してやって」


 なんだそれ。意味わかんない。そのまま返事したら「朝からメールが来るから大変なの」と帰って来た。私はいいのかよ。私だってメールや着信がきているんだよ。


まあ、一度だって返してないけれど。知らない番号からの電話には出ないし。とりあえず、きららと思われるメールアドレスに「もうメール送ってこないでください」と送った。


 すぐに返事がくる。見るとさっきと同じアドレス。よく見るとkirara_kirakira@となっている。こんなアドレスで恥ずかしくないのだろうか。


というか、どれだけ自分の名前が好きなんだって思った。メールはこうだった。


「返事くれてありがとう。待ってたんだ」


 私のメールの内容は無視かよ。とりあえず、美紀の顔は立てた。一度返事したからいいだろう。私はそう思っていたら次は電話だ。知らない番号だから出ない。何度か目のコールで諦めたのか電話が切れた。


 留守電にはしていない。だって、公世は絶対そういうことをしないからだ。留守電になんかいれたこともない。


しばらくするとメールが来る。「電話でてよ~」何コイツ。かまってちゃんかよ。仕方がない。携帯の電源を切ろう。


 私は携帯の電源を切った。少しだけ気が楽になった。どうして、こんなことで嫌な思いをしないといけないのだ。


 私はふとクローゼットに目が行った。この思いはわからなくない。一直線な思いは時に人を狂わせる。だからこそ、あんなことになったのだ。風月堂の中で何かが動いた気がした。動くわけはないのに。


 わかっている。私がその中を見たがっているのだ。だが、それはしちゃいけないこと。あれは私を壊すものだ。そう、壊すもの。だからあそこに閉じ込めている。捨てることはできない。だから閉じ込めている。


 気分を変えよう。下に降りてテレビをつける。そうだ、映画を見ようとしていたのだ。何かいいものをやっているのかと探したが、古い映画がやっていた。何の映画なんだろう。とりあえず確認するのもめんどうだ。新聞も見当たらない。あ、そうだ。携帯があれば調べられる。


 そう思って携帯を取り出した。電源を切っていたのを思い出した。いいかげんあのきららもわかっただろう。電源を入れるとメールを受信した。


 見るのもめんどうだったのでそのままにした。番組を調べようとすると着信がある。間違えてでてしまった。


「お、出たじゃん」


 軽薄な声がする。そのまま切ろうと思った。


「いいじゃん。映画行こうよ。ってか、もうすぐ家につくし」


 何こいつ。というか、そういう怪談あるよなって思い出した。ひょっとしてこのきららってそういう怖い話しなんじゃないのかな。怖くなってきた。


そう思っていたら本当にインターフォンがなった。しかも携帯越しにもそのインターフォンが聞こえる。


「ねえ、開けてよ」


 やばい。ステレオ放送みたいになっている。とりあえず携帯を切ってみる。だが、インターフォンが鳴り続いている。


 仕方がない。追い返すか。そう思い扉を軽くあけた。そこにはきららだけじゃなく、じゃがいもくんも美紀もいる。


「え?何?」


「着ちゃった」


 そう言って美紀が笑っている。


「どういうこと?」


 私がそう聞くと美紀がこう言ってきた。


「だって、こうでもしなきゃ家から出なさそうだったから。ねえ、どっか行こうよ」


 そう言えば美紀って勝手に決めて行動する子だった。思い出した。きららが言う。


「まあ、本当は二人っきりがよかったんだけれどね」


 そう言うと後ろにはあのメガネくんもいる。メガネくんは何かゲームをしている。この人はなんでここにいるんだろう。よくわからない。ホストっぽいきららとじゃがいもとメガネ。あのゲームがRPGゲームとかだとこれはどんなパーティーになるんだろう。


引きこもりの私が仲間になったって意味ないのに。美紀が言う。


「早く用意してよ。それまでくつろいでいるから」


 そう言っていきなり家の中に入ろうとしてくる。


「ちょっと、辞めてよ。外で待っていて」


 そう言って私は力いっぱいドアを閉めた。ドアの向こうから「待っているからね」と帰ってきた。仕方がない。私は2階にあがり服を着替えることに決めた。そう思ったのに足が震えている。


「君の骨はガラスでできていない。人生という壁にぶつかっても大丈夫だ」


 何かの映画で見たセリフが頭をよぎった。多分私の骨はガラスでできているんだ。


「殻に閉じこもったっていいことないですよ。そもそも人には殻なんてないんですからね」


 陽気な声が頭に響く。これも見た映画だ。タイトルは思い出せない。私は突然変異の殻つき人間なんだ。


 骨はガラスで出来ていて、殻のついた人。それが私。勇気もなく、人の心もなく、考えることをあきらめた私は何物でもないのだ。カンザスシティーなんてない。


そう思っていたら体が重く沈みだした。多分、これは海の中。海の底を目指している。光なんてないんだ。あの時見た海と違う。あの時見た光とも違う。もういいんだ。


そう思っていたら携帯が鳴り出した。インターフォンも鳴る。もう、わかったよ。


私は考えることがいやになった。服を着て扉を開ける。光がまぶしかった。ああ、そうか世界ってモノクロじゃないんだ。そこに立っていた美紀の笑顔を見てそう思った。


「そんな遠くに連れて行かないでね」


 私はそう言った。


「うん、いいよ。駅前のイオンモールにある映画館でいいよね」


「あそこまだあるんだ」


 私はそう言った。そう、あの場所は公正と何度も行った場所だからだ。そして、美紀と色んなことが起きたきっかけの場所でもある。


「そういうかっこもかわいいよね」


 きららが私の服装を見てそう言ってきた。お姉ちゃんがくれた服。シャツにタイトスカート。シャツは水色。どれだけ暑くても私は腕を隠さないといけない。私も見ると思い出してしまう。公正を。あの出来事を。


「じゃあ、行こうか」


 その先はあの思い出の場所。映画館だ。



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