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~高校時代(2)~

~高校時代(2)~


 美紀に言われたからというわけじゃないけれど、気が付いたらグラウンドでサッカーをしている「公世」に目が行くようになった。


 私はサッカーのことは詳しくないけれど常にボール持っている印象がある。たまたまなのかもしれないけれど。


朝も昼も夕方もサッカーをしている。そんなにサッカーばかりしていた何が楽しいのだろう。


そして、その追っかけともいえる「公世」のファンクラブも何が楽しいのかわからないでいだ。


 近づいてみたいとは思わない。ちょうど私の席からグラウンドが見えてしまうのだ。そう、たまたまなのだ。


 ちょっと早く家を出たらたまたま朝練をやっていたみたいだし、お弁当を「美紀」と食べている時も「公世」が視界に入っていた。


「ちょっと、みさき。聞いてる?」


「え?何だって?ごめん」


 美紀にそう言われて、私は美紀が何かを話していたけれど、「そうだよね」とか「そう思う」という返事だけをしていた。


 内容は聞いていない。反射的に答えていたのだ。それだけも会話が成立するのだ。


 そういえば、英会話の先生がこう言っていたのを思い出した。


「会話なんて、単語と相槌の仕方さえわかっていたら大丈夫なの。ほら、周りに『すごい!』とか『そうそう』だけで会話している人いるでしょう。それと同じ。みんなが知っている単語だけでも十分会話はできるの。わすれないでね」


 その通りだと思った。それは英会話だけじゃなく日常の会話だってそうだ。


そう思っていたらさらに「美紀」が怒っていた。これは真剣にきかないとそろそろまずい。


「ごめん、ごめん」


「本当にみさきは抜けているんだから。言っていたのは校外実習どこ行くのって話し」


「あ、そうそう。そうだよね」


 そう言いながら、そう言えばこの前担任が校外実習行く場所を探しておけとか言っていたのを思い出した。


 選択なんだよね。でもファストフード店とかで働くのはちょっとイヤだな。なんかおまけみたいに名札つけて「いらっしゃいませ」とか言うのなんかかっこ悪いし。それに校外実習じゃなくたってバイトでも体験できるって。


 まあ、うちの高校はバイト禁止だけれど。校外実習で働かすのならバイト禁止をやめればいいのにと思ってしまう。まあ、私はコンビニでバイトしているけど。


 かといって介護施設とかなんかいかにも真面目って感じだしな。


「んで、みさきはどこか決めている?」


「全然。美紀は?」


「そこで相談なんだけれど、公世が行くところとかどう」


「え~ムリムリ。それに、もし一緒になったとしても絶対にあのファンクラブの人たちがバリケードを作っているよ。私たち以外のものは近寄らないでアピールいつもしているじゃない。お前らはSPかっていつも思っているし」


「ああ、そうか」


 実際休み時間とかそんな感じだ。他の女子が近づかないように遠巻きに陣取っているのだ。多分あれもあれで校外実習の一つとして十分成り立つのではと思ってしまう。


 もちろん、私は勘弁したい。


「でもさ。なんかいいのないんだよね」


 美紀が言う。私も思う。ファストフード店に介護施設。後病院。人気なのがホテルだ。しかも高級ホテル。ここなんて一体何をするのだろうと思ってしまう。


 ちなみに、すでに圀府寺さゆりのグループはすでに提出済みだ。なんか企業のオフィスに体験というものだ。担当についた人の秘書のようにずっと指定された時間そばにいるらしい。


それって面白いのだろうか。よくわからない。立野結衣のグループはクレープ屋だ。なんでも甘いものが食べられるという話しで選んだらしい。


 後残っている中だと何がいいのだろう。なんかめんどくさい。これってさぼれないのかな。といってもなんか校外学習の期間って1週間くらいある。これから暑くなるのにインフルエンザとか言っても誰も信用してくれないものな。


 梅雨時期になんでインフルエンザとか流行らないんだろう。


「じゃあ、これとかどう?」


 美紀が指差したのは介護施設でのレクリエーションだった。


「え?まじで?」


「うん、まじ。だって、何か劇とかするんでしょう。面白そうじゃん」


 面白いのだろうか?私はどちらかというとめんどくさそうだとしか思えない。こういう時の美紀はよくわからない。


「ええ?なんかめんどくさそうじゃない?」


 つい本音が出てしまった。こういう時後が怖い。表面上だけでも取り繕わないと後が大変そう。でも。美紀なら大丈夫かも。そう思った。美紀が言う。


「なんかね、噂で聞いたんだけれど公世ってこういうボランティアとか好きらしいんだって」


 なるほど、そう言う事か。って、それおかしいでしょう。あのチャラい感じでボランティアとか。


「あり得ない。あのチャラい感じで?」


 そして、つい本音が出てしまう。美紀だから安心できる。これが他の子だったらこうはいかない。だから美紀と一緒に居られるんだ。


「なんかサッカー部として奉仕活動をするのも大事なんだとか」


「ああ、宣伝用としてね。本人の意思じゃなく」


 それならなんとなくわかる気がする。「公世」はこの近県でも有名になってきているみたいだ。たまに取材やら視察で知らない人が試合を見に来る。その一環なのだろう。学校からの指示か何かなのかもしれない。


 どうでもいいことだ。でも、実際「公世」が来るとなったらあのファンクラブがぞろぞろとついてきそうでイヤだと思った。


 自分たちの作ったルールを他人に押し付けないでほしい。でも、人数がいるから誰も何も言えない。そういうものだ。


 男子なんてもっと冷めた感じで見ている。男子の考えていることはよくわからない。わかる必要もないけれど。


「まあ、いいよ」


 なんかどうでもいいっていう思いから私は美紀にそう返事をした。


 けれど、その後に噂で聞いたのだ。


「公世って、校外学習欠席らしいよ」


 やっぱチャラいやつはこういうのサボるんだよ。そう思った。でも理由はちょっとだけ違った。


「なんかサッカー部だけ別行動らしいんだ」


 なんだそれ。でも、おかげで助かった。課外授業にあんな「公世」ファンクラブがぞろぞろとやってきたら居心地が悪い。


 私は集団行動が苦手なのだ。でも、一人も苦手。わがままなのだ。だから「公世」が来ないって知ってちょっとだけ安心をした。


来ない理由を聞いて本当に「公世」は私たちと同じ中学生じゃないのではと思った。そう理由はこうだ。


「サッカー部が福祉施設で社会貢献をしているのを地元テレビが取り上げる」


 このため、サッカー部だけ特別日程なのだ。だから「公世」ファンクラブはおかしい盛り上がりになっていたのか。納得。


 テレビに映る。その応援に行くのだといっているのだ。もう好きにすればいい。


でも美紀はどうするのだろう。美紀が収録に行きたいと言ったら私も行った方がいいのかな。


 気になったので美紀に聞いた。そしたらあっさりした答えが返ってきた。


「行かないよ。だって、追っかけとかしたいわけじゃないもの。だったら、家でその番組見るね」


 なるほど。そう頷いていたらさらに美紀がこう言ってきた。


「でも、みさきが行きたいっていうのなら付き合ってあげてもいいわよ」


「それは大丈夫。行かないから」


 なんで、見に行かなきゃいけないのよ。


「それに1週間後には私たちそこで実習だよ」


 私は美紀がそう聞いてきた理由がわからなかった。


 実際この収録が終わってから「公世」ファンクラブは騒然となった。いや、テレビ映りが悪かったとかそういうことではない。テレビには優等生という感じであの「公世」がコメントをしていたのだ。


 何もしらない人が見たら「好青年ね」と思っただろう。実際はファンクラブからお弁当や飲み物をもらうのが当たり前になっている調子に乗ったチャラい男だ。


 見た目だけでみんな騙されている。ま、私もそこまで「公世」のことを知っているわけじゃないけど。


 けれど、なんかあの雰囲気が好きになれない。多分周りから注目されているのが嫌なのかもしれない。同じ年なのに。中学の時なんてまったく印象に残らなかったくせに。


 けれど、収録が終わってからのファンクラブの様子はおかしすぎた。そしてもう一つ噂が広まった。


 そう、「公世」は年上の女の人と付き合っているという噂。


 収録が終わってから「公世」はその女の人が運転する車に乗ってどこかに出かけて行った。


 その時の二人の様子があまりにも特別すぎて誰も中に入れなかったと。


 その話しを聞いて私は納得が行った。浮ついた話しはあるけれど、噂でしかなくて実際は何も出てこない「公世」はある意味気持ち悪かった。人らしくない。完璧すぎる人間なんて作り物でしかない。


 けれど、ファンクラブは「あの女何者?」「誰よ!」とか言い合っていた。そんなの当たり前だけれど「公世」に聞けば一発でわかる。


 でも、誰も「公世」にそのことを聞かない。おかしなものだ。そう思っていたら「美紀」が私に聞いてきた。


「あの噂って本当なのかな?」


「さあ、私はわかんない。直接聞けばいいのにね」


 私は完全無欠のアイドルより、今の「公世」の方が少しだけ親近感がわいた。まあ、正直どうでもいいのだけれど。


 ただ、駆け巡る噂にどんな根拠があるのかわからないけれど、気が付いたら「公世」は赤い車に乗ったサングラスをかけたスーツの女性と付き合っていて、赤い車の中でいちゃついている話しに落ち着いていた。


 それでも、「公世」のファンクラブは健在だったし、「美紀」も相変わらず「公世」をかっこいいと言っている。


 そんなものなんだろう。気が付いたら私は「公世」を追いかけていなかった。普通に笑って、授業を聞いて、「美紀」の話しをちゃんと聞いて相槌を打っていた。


 

 転機は1週間後の課外授業だった。


 1週間前に「公世」たちが訪れた介護施設は当たり前だけれどテレビが映していた時みたいに華やかでもなかったし、騒がしくもなかった。


 この場に「公世」がいないのでファンクラブの人たちはいない。「美紀」が「聖地巡礼だ」と言っていたくらいだ。


 番組の中で「公世」がインタビューに答えていた場所を見つけて写真を撮ってと言われて同じ角度で撮ったりもしていた。


 介護をしていると「1週間前に来たあの学校の人なんかね」と何人かに声をかけられた。一人車椅子のおばあさんはものすごく親身になって話しをしてくれた。


「ああ、あの男の子。優しかったね。テレビがきていて騒がしくてすみません。とか気を使っていたし。やらせみたいに見えるのがイヤだからってその後何回も来てくれるんだよ。それが楽しみでね」


 そう言っていた。


 多分サッカー部の部員の誰かが来ているのだと思っていた。けれど、夕方食事時にふらっと施設にやってきたのは「公世」だった。


 私たちには目もくれず食事を食べているおじいちゃん、おばあちゃんの所に歩いていく。椅子に座って自然に会話に参加している。みんな楽しそうだ。


 びっくりした。


「あれ?なんで公世がいるの?」


 美紀がこう言ってきた。


「なんかたまに来ているみたいなんだって。あのおばあちゃんが言っていた」


 多分たまになんかじゃない。溶け込んでいるからだ。びっくりして眺めていると「公世」は時計を見て「やば、また今度来るね」と言って走り出した。出口から見えたのは赤い車に髪の長いスーツを着た女性だ。寄り添っている二人を見て、噂を思い出した。美紀が言う。


「あれが、公世の彼女なのかな?」


「さあ、わかんない」


 でも、なぜか胸がちくりと痛かった。目の前の光景を見ていたくなかったのだ。


 とりあえず、私は目を背けて自分がするべき作業を探そうとした。けれど、「もう帰っていいわよ」のセリフが聞こえてしまった。


 まだ、外に出たくない。あの光景を見たくないのだ。


 私は行き場所がないのでトイレに駆け込んだ。なぜか涙がこぼれた。


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