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~高校時代(1)~

~高校時代(1)~


 私が「公世」を知ったのはいつだっただろう。親友の「美紀」から好きな人が「公世」だと聞かされた時だっただろうか。


 それとも、学校で「噂」になっていたからだろうか。クラスは一緒になったことはないはずだ。けれど、校内で有名だった。


 サッカー部のエース。背はそこまで高くないけれど、そのアイドルみたいな顔とものすごくサッカーがうまい「公世」。他県から取材がくる「公世」のおかげで有名になったうちのサッカー部。


 まるで一人でサッカーをしているみたい。サッカーの何を知っているわけでもない私はそう思った。一人でボールを持ってゴールをする。何人に囲まれても関係ない。


 校内にファンクラブみたいなものが出来ていて、練習後にタオルを渡す係りとかドリンクを渡す係りが決められている。もちまわりでお弁当も作っている。よくやるなと思ってしまう。


 彼女らはサッカー部のマネージャーではない。他の誰かではなく「公世」だけをサポートしたい彼女らは私からはジャニーズを追いかける熱狂的ファンと同じようなものだと思っていた。公世ファンクラブ。そういうものがあったのだ。


 だからはじめ「美紀」から「公世」が好きだと言われたとき、ブラウン管越しの恋のようなものだと思っていた。


 その思いなら私も持っているし、わかる。


 多分「公世」はブラウン管越しのアイドルよりちょっと身近なだけだ。手を伸ばせば触れられるし、会話することだってできる。


 まあ、実際「公世」に声なんてかけた女子がいたら、ファンクラブの面々から注意という名のよくわからないいじめにあうのだが。


 誰も抜け駆けをしないことがルール。よくわからない関係だ。


 そんな「公世」だがモテはする。いい噂も聞かない。やれ彼女が何人もいるだとか、遊びまくっているだとかだ。私は知らないけれど、タオルもドリンクもさも差し出されるのが当たり前のように受け取っている「公世」を見て、「ありがとう」も言えない最低なヤツとしか思っていなかった。


 だから「美紀」からこう言われた時びっくりしたのだ。


「なんとか公世と付き合えないかな?確かみさきは公世と同中でしょう?」


 確かに「公世」とは同じ中学だった。けれど、同じクラスになったことすらない。


 いや、あったかな?あったかも知れない。けれど、話したことなんてない。というか印象に残っていないのだ。


 あんなアイドルみたいなのがいたらもう確実に覚えていてもおかしくないのに。まったく記憶に残っていないのだ。


 私の中学からこの高校を選んだ人は少ない。というか、いないと思っていた。確かに高校入学と共に高校デビューを考えたこともある。けれど空回りをし続けただけで結局今の私、今までの私に落ち着いた。


 まあ、もう一つはものすごく話しが合う「美紀」と出会えたことも大きい。まあ、実際クラスはわかりやすく派閥が出来ている。


 まず、「圀府寺さゆり」のグループ。圀府寺さゆりは目鼻立ちがはっきりしている美人だ。というか、醸し出しているオーラが何とも言えないものがある。しかも、父親は圀府寺グループの社長らしい。といっても私は全然知らない。簡単に言うとお嬢様らしい。圀府寺グループは外食チェーン店をいくつか運営しているらしい。よくは知らないけれど、取り巻きが言うにはすごいらしい。


 まあ、少し背丈もあり真っ黒でロングな髪にきりっとした目をしている。美人だけれど威圧感があるのだ。


 だからこのグループは圀府寺さゆりをみんなで称えるグループでもある。「圀府寺さまって素敵よね」とか「圀府寺さまだから許されるのですわ」みたいな感じだ。


 私には合わないと思った。そこまでして誰かと一緒にいたいと思えなかった。


 もう一つは「立野結衣」のグループ。立野結衣はものすごくかわいい娘だ。なんでもどこかの雑誌の読者モデルをしているらしくいつもおしゃれだ。そして、このグループはみんなおしゃれだ。一体どれだけお金をかけているのだろう。


 そんなにお小遣いがあるわけでない私はこのグループにも入れない。みんな一体どこからお金を手に入れているのだろう。不思議なことだ。


 そのため、私は第三勢力。つまりどこにも属さない人たちとなった。まあ、結束をしているわけではない。あ、結束をしているのは「公世」のファンクラブに入っている人たちくらいだ。まあ、私には関係のない集団。その他大勢の一人でいい。


 その中でも「美紀」とは見ているドラマも同じだし、「お笑い」のセンスも同じ。笑いのツボだって同じだ。


 そして、価値観だってそんなに変わらない。それに、コンビニでのバイトも同じだ。ま、これは「美紀」が後から私のバイト先に来たから一緒になったんだけれどね。


 だから、「美紀」からそんなことを言われてびっくりした。


 実際、「公世」のファンクラブの人から確認をされたことはあった。「公世」と同じ中学校出身ということで。でも、正直中学時代にそんなアイドルが同じ学校にいた記憶がない。


 あんな、ちょっと髪が明るくて、いつも笑顔で、自信過剰なヤツなんていたなんて記憶がない。卒業アルバムを見るとどうしてか欠席者の所に映っていた。その姿は今いる「公世」と同じだ。


「美紀、ごめん。確かに公世とは同中だけれど、しゃべったことないし、接点なんかないよ」


「そっか。でも、かっこいいよね」


 みんなが「公世」をかっこいいと言う。だが、私にはただチャラい男にしか見えなかった。同じサッカー部ならキーパーをしている羽田野浩二の方がまだマシだ。


 羽田野浩二は濃い顔をしている。身長も高い。けれどすごく細いのだ。こんなに細いのに大丈夫なのかと思ってしまう。


 でも、見た目が硬派なんだよね。やっぱり男性はこう堅実な感じがいい。私はそう思っている。見た目だけで選ぶのはアイドルだけで十分だ。


 まあ、実際うちのクラスは「公世」とは別だし、第一勢力である「圀府寺さゆり」が「公世」に興味を持っていないこと、第二勢力である「立野結衣」がどちらかと言うと文系タイプが好きなこともあってあまり「公世」熱がない。だから、このクラスではあまり「公世」は話題にあがらない。


 だから「美紀」がどうして「公世」を好きになったのか不思議だった。


「んでも、どうしていいと思ったの。あの公世を」


 そう言ってから周りを見渡した。幸い周りに「公世」ファンクラブは一人もいなかった。いたらものすごい目で見られそうな言い方をしてしまったからだ。美紀が言う。


「だって、かっこいいじゃない。それに、この前日直の時に先生からノートを職員室にもってこいって言われた時合ったの」


「そんなことあったっけ?」


「あったよ。あ、あの時みさき休んでいたわ」


 私は結構風邪をひく。というか、なぜみんなは風邪をひかないのだろう。私は季節の変わり目に体調を崩すのが年間行事となっている。だから気温の変化が激しいときの学校のイベントは基本不参加だ。


 これが私が周りと仲良くなれない一つの理由なのかもしれない。どうしても中学校の時に遠足とか校外学習とかを休んでいたらいつのまにか壁が出来てしまったのだ。


「んでね、みさきはいなかったから一人でノートを職員室に持って行かなきゃいけなかったのよ。そしたらね、いきなり公世が来て、こう言ったのよ」


 そう美紀がいいながら声を低くしてこう言った。


「半分渡せ。持ってやるよ」


 声だけじゃなく顔もどや顔になっている。その表情の美紀を見ていたら笑ってしまった。


「え~笑うところ?違うでしょう。恋に落ちるでしょう」


「はいはい、落ちた、落ちた。んで、美紀は落ちちゃったのね」


「そう。今まではちょっとかっこよくて、でもなんかいけすかない感じだったの。でも、クラスも違うし話したこともない私を手伝ってくれたのよ。しかも職員室入る時なんかこう言うのよ」


 そして、また大きく美紀は息を吸い込んで低い声を出した。


「ノート全部貸せ。それじゃ扉あけられないだろう」


 そう言って美紀は「へへへ」と言いながら笑い出した。


「ね、こりゃ恋に落ちるっしょ。仕方居ないよね。しかもこう言って去って行ったのよ」


「今度は、友達に手伝ってもらえよな」


 また低い声だ。


 ちなみに、美紀に言っちゃ悪いけれど声は全然似てない。まあ、当人が楽しいからいいのだろう。


「その時思ったね。みさきがいたらあの偶然はなかったんだって。だから風邪でみさきがつらいのはわかっていたけれどちょっとだけみさきがいないことに感謝しちゃったの。ごめんね」


「いいよ。別に。んで、それから何かあったの?」


「ううん、何もない。何もなさすぎるのよ。普通ならここからイベントが起きて仲良くなるんじゃないの?」


 美紀はそう言って拳を振り上げる。その展開は美紀の家で読んだ漫画の展開だ。実際今時食パンかじりながら通学する女子高生がいるかってつっこみたくなる。


 そして、ふいにぶつかるとか。同じ学校に通っているのならその出会い方おかしいでしょうって思ってしまう。


 まあ、そんなことを思っていたら漫画なんて読めない。物語が進んでくれないから。美紀が言う。


「んで、イベントが起きないのはまだ何かが足りないって思ったわけよ。そこでみさきが公世と同中だったことを思い出したというわけ」


 というか、その情報はどこかから仕入れたということだよね。私だって、自分から「公世」と同中だということを公言していない。というか言いたくない。


「でも、ごめんね。本当に公世と話したことなんてないんだよ」


「そう?公世はでもみさきの事知っているっぽいのに?」


「そうなの?」


 その時はそんなことどうでもいいことだと思っていた。


 まだ、この時は何も知らない。そう、平凡な毎日を過ごしているただの女子高生だった。


 いつから歯車は狂ったのだろう。


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